2015年12月21日

先端技術企業が牽引するサンフランシスコのオフィス市場

加藤 えり子

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はじめに

金融危機後の2009年から2010年にかけて、米国各主要都市のほとんどでオフィス賃料が底となった。その後の回復過程において、最も賃料上昇が著しいのがサンフランシスコであった。サンフランシスコでは、不動産取引も活発化しており、投資資金の流入増加とともに、利回りの低下も他都市と比べて著しい。シリコンバレーなどの郊外型オフィスマーケットを後背地に有し、先端業種のオフィス需要の強さが成長ドライブとなっているサンフランシスコのオフィスマーケットの現状をまとめた。
 
図表-1 米国主要都市の賃料推移

1. サンフランシスコとその近郊のオフィスエリア、都市圏

サンフランシスコ中心地区1のオフィスマーケットは、街の中心軸道路であるマーケット・ストリート (Market Street)の北側に位置し、商業・観光の中心ユニオン・スクエア(Union Square)の東に隣接するノース・フィナンシャル・ディストリクト(North Financial District)2と、その南側のサウス・フィナンシャル・ディストリクト(South Financial District)に比較的大規模なオフィスビルが集積し中核をなしている。その他にも幾つかのサブマーケットがあり(図表2)、最近、テナント需要が強く活況なのがSOMA(ソーマ)と呼ばれるサウス・オブ・マーケット(South of Market)で、特に東側のEast SOMAに建替えや改装でオープンな空間を配した先進的なビルが集積し、テック(テクノロジー)・テナントと呼ばれる収益力の高いテナントが流入してきている。テック・テナントは、情報通信技術に限らず様々な先端技術を携えた企業群である。East SOMAの路面テナントには、洗練された飲食店舗も多く、オフィス・ワーカーを惹きつけている。Cushman&Wakefield(以下C&W)によれば、East SOMAはサンフランシスコ中心地区で最も平均募集賃料の高いビジネスエリアとなっている3(図表3)。
図表-2 サンフランシスコ中心地区オフィス・サブマーケット/図表-3 各サブマーケットの平均募集賃料/図表-4 サンフランシスコ中心地区オフィス・サブマーケットの賃貸床在庫割合
サンフランシスコ近郊まで視野を広げると、内湾を南下したサンフランシスコ・ペニンシュラ、さらに南のシリコンバレーなどに、低層オフィス・パークやテクノロジー企業の自社オフィスなどが多数所在し、郊外でありながらも存在感のあるオフィス市場を形成している。

統計上の都市経済圏(Metropolitan Statistical Area、以下MSA)としては、サンフランシスコ中心地区とサンフランシスコ・ペニンシュラは、サンフランシスコ/オークランド/ヘイワードMSAに含まれ、シリコンバレーはサンノゼ/サニーベール/サンタ・クララMSAに含まれる。いずれのMSAもGDPで全米20位以内であり(7位と16位)、一人あたりGDPでは、サンノゼ/サニーベール/サンタ・クララが全米2位、サンフランシスコ/オークランド/ヘイワードが4位となっている。サンフランシスコとその近郊のオフィスエリアは、生産性の非常に高い都市圏を形成していることがわかる。

さらに地域を広げると、対岸のイーストベイなども含め、内湾を囲む9つのcounty(郡)でサンフランシスコ・ベイエリア広域都市圏を構成している。サンフランシスコ・ベイエリアは、カリフォルニアではロサンゼルスに次いで人口が多く、全米でも6位の人口(2014年で756万人)を有する広域都市圏となっている。
図表-5 サンフランシスコ中心地区と近郊オフィスマーケット
 
1 オフィスエリアの名称として、多くのデータ公表会社が「サンフランシスコ」とのみ表記しているが、本稿では近郊の「サンフランシスコ・ペニンシュラ」と区別するために「サンフランシスコ中心地区」と表記する。
2 フィナンシャル・ディストリクトとのみ表記する場合もある。
3 Jones Lang LaSalle およびCBREのデータでは、「Mission Bay」が最も募集賃料が高く、それぞれ$81.5/sf、$80/sf (15Q3)としているが、賃貸床在庫面積が250万sf程度と小さい(シェア2%、図表4参照)。C&Wでは「N/A」としており、本稿ではC&Wのデータに基づき記載した。
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加藤 えり子

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