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- 16年6月2日ECB政策理事会:英国の国民投票に備え、今夏のギリシャ危機再燃は回避へ
2016年06月03日
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欧州中央銀行(ECB)が2日に開催した政策理事会は、広く予想されていたとおり政策変更はなく、3月に決めた包括緩和策の実行に集中し、その効果を見極める方針を強調した。
3カ月に1度のスタッフ経済見通しでは16年の実質GDPとインフレ率は小幅に上方修正されたが、インフレ率は18年時点でも1.6%と中期的な安定の目安の水準には届かない。
ECBが次の一手を打ち出すタイミングは9月8日の理事会が有力で、内容は資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限の延長とそれに伴うフォワードガイダンスの修正という現行政策の期間延長に留まると見ている。
ドラギ総裁は、英国の国民投票について残留を求める立場を表明するとともに、すべての偶発的事態に備えていると述べた。15年2月に停止したギリシャの国債を適格担保として扱う特例措置は、5月のユーログループの合意を受けて、近く再開する方針を表明、今夏のギリシャ危機再燃は回避される見通しだ。
3カ月に1度のスタッフ経済見通しでは16年の実質GDPとインフレ率は小幅に上方修正されたが、インフレ率は18年時点でも1.6%と中期的な安定の目安の水準には届かない。
ECBが次の一手を打ち出すタイミングは9月8日の理事会が有力で、内容は資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限の延長とそれに伴うフォワードガイダンスの修正という現行政策の期間延長に留まると見ている。
ドラギ総裁は、英国の国民投票について残留を求める立場を表明するとともに、すべての偶発的事態に備えていると述べた。15年2月に停止したギリシャの国債を適格担保として扱う特例措置は、5月のユーログループの合意を受けて、近く再開する方針を表明、今夏のギリシャ危機再燃は回避される見通しだ。
政策変更なし。包括策の実行に集中し、その効果を見極める方針を強調
欧州中央銀行(ECB)が、2日にオーストリアのウィーンで金融政策を協議する政策理事会を開催した。政策変更はなかった。
ECBは3月10日の理事会で包括的な緩和策を決定したが(図表1)、その中核である社債買入れ(CSPP)を今月8日に開始することが公表された。合計4回実施するターゲット型資金供給(TLTRO)Ⅱも第1回が6月22日というタイミングであり、現状維持は広く予想されていた。
政策理事会後の記者会見でもドラギ総裁は「3月包括緩和策の実施によってリスク・バランスは改善する」と述べるなど、随所で包括緩和策の実行に集中し、その効果を見極めるスタンスを強調した。
ECBは3月10日の理事会で包括的な緩和策を決定したが(図表1)、その中核である社債買入れ(CSPP)を今月8日に開始することが公表された。合計4回実施するターゲット型資金供給(TLTRO)Ⅱも第1回が6月22日というタイミングであり、現状維持は広く予想されていた。
政策理事会後の記者会見でもドラギ総裁は「3月包括緩和策の実施によってリスク・バランスは改善する」と述べるなど、随所で包括緩和策の実行に集中し、その効果を見極めるスタンスを強調した。
スタッフ経済見通しは小幅上方修正。長期にわたる低インフレの二次的影響は警戒
今回は3カ月に1度のスタッフ経済見通しの改定があり、16年の実質GDPは1.4%から1.6%へ、インフレ見通しは0.1%から0.2%へと小幅に上方修された(図表2)。
ユーロ圏では、5月のインフレ率(速報値)もマイナス0.1%と超低インフレが続いている(図表3)。ECBのインフレ見通しは、16年下期には前年比で見た原油価格の押し上げ効果で上向き、17~18年は金融緩和による下支えと景気の回復で、さらに上昇するという内容だ。それでも、18年のインフレ率は前回3月と同じ1.6%で、ECBが中期的な安定の目安とする「2%以下でその近辺」に届かない。
ドラギ総裁は、現時点で、長期にわたる低インフレが賃金と価格設定に影響する「二次的影響」は見られないとしつつ、「今後も警戒を怠らず、ECBの権限の範囲ですべての政策を用いて行動する用意がある」とも述べた。
今回の記者会見のトーンからも、包括緩和策の効果を見極め時間という点から考えても、ECBが7月21日開催の次回の政策理事会で新たな政策を打ち出す可能性は低い。次の一手を打ち出すタイミングは、9月8日の理事会が有力であり、内容も、世界的な金融市場の混乱などの波乱がない限り、現在、17年3月としている資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限の延長とそれに伴うフォワードガイダンスの修正など現行政策の期間延長に留まると見ている。
ユーロ圏では、5月のインフレ率(速報値)もマイナス0.1%と超低インフレが続いている(図表3)。ECBのインフレ見通しは、16年下期には前年比で見た原油価格の押し上げ効果で上向き、17~18年は金融緩和による下支えと景気の回復で、さらに上昇するという内容だ。それでも、18年のインフレ率は前回3月と同じ1.6%で、ECBが中期的な安定の目安とする「2%以下でその近辺」に届かない。
ドラギ総裁は、現時点で、長期にわたる低インフレが賃金と価格設定に影響する「二次的影響」は見られないとしつつ、「今後も警戒を怠らず、ECBの権限の範囲ですべての政策を用いて行動する用意がある」とも述べた。
今回の記者会見のトーンからも、包括緩和策の効果を見極め時間という点から考えても、ECBが7月21日開催の次回の政策理事会で新たな政策を打ち出す可能性は低い。次の一手を打ち出すタイミングは、9月8日の理事会が有力であり、内容も、世界的な金融市場の混乱などの波乱がない限り、現在、17年3月としている資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限の延長とそれに伴うフォワードガイダンスの修正など現行政策の期間延長に留まると見ている。
英国のEU残留・離脱を問う国民投票は見通しの下方リスク。すべての結果に備え
今回の声明文には、成長見通しの下方リスクとして、世界経済の動向、地勢学的リスクとともに、6月23日に英国で実施されるEUへの残留か離脱かを問う国民投票が加えられた。記者会見では、国民投票が離脱多数という結果になった場合に想定される市場の混乱へのECBの備えについても質問があった。
ドラギ総裁は、イングランド銀行(BOE)とのスワップライン(為替相互協定)などの具体策には言及しなかったが、「すべての偶発的事態にも備えている」と述べるとともに、英国とユーロ圏は相互に利益を及ぼしあっており、「英国はEUに留まるべき」との考えを強調した。
ドラギ総裁は、イングランド銀行(BOE)とのスワップライン(為替相互協定)などの具体策には言及しなかったが、「すべての偶発的事態にも備えている」と述べるとともに、英国とユーロ圏は相互に利益を及ぼしあっており、「英国はEUに留まるべき」との考えを強調した。
ギリシャ国債を適格担保として扱う特例措置再開決定は次回に持ち越しも、危機再燃は回避の方向
今回、金融政策以外で注目されていたのは、ギリシャの国債をECBオペの適格担保として扱う特例措置の再開が決定されるかという点だった。
ギリシャ国債の特例措置は、反緊縮を掲げた第1次チプラス政権発足後、約束した改革が実行されないリスクが高まったとの判断から、15年2月11日に停止された。その後、ギリシャ情勢は、15年夏の支援協議決裂~資本規制導入~国民投票~再支援要請~第3次支援プログラム合意という曲折を経たが、特例措置は停止したまま現在に至っている。
今夏も、第3次支援プログラムの第1回審査の合格が認められなければ、ECBが保有する国債の償還資金が手当てできず、ギリシャ危機が再燃するおそれがあったが、5月24日のユーログループ(ユーロ圏財務相会合)で第3次支援プログラムの第1回審査への適合が大筋で認められ、103億ユーロの第2次融資枠が設定される方針が決まった。
ユーログループでの合意を受けて、ECBの特例措置についても再開の道筋が開かれたが、ドラギ総裁は、今回の理事会では、決定は見送ったことを明らかにした。再開の決定には、ユーログループが求めた残る幾つかの措置の実行が確認され、ギリシャ支援を行なう欧州安定メカニズム(ESM)の理事会が承認することが必要であり、次回の理事会になるとの見方を示した。特例措置を協議する理事会は、6週間ごとに開催される金融政策を協議する会合である必要はなく、金融政策以外を協議する6月22日や7月6日の会合で決定される可能性もある。
ギリシャ国債の特例措置は、反緊縮を掲げた第1次チプラス政権発足後、約束した改革が実行されないリスクが高まったとの判断から、15年2月11日に停止された。その後、ギリシャ情勢は、15年夏の支援協議決裂~資本規制導入~国民投票~再支援要請~第3次支援プログラム合意という曲折を経たが、特例措置は停止したまま現在に至っている。
今夏も、第3次支援プログラムの第1回審査の合格が認められなければ、ECBが保有する国債の償還資金が手当てできず、ギリシャ危機が再燃するおそれがあったが、5月24日のユーログループ(ユーロ圏財務相会合)で第3次支援プログラムの第1回審査への適合が大筋で認められ、103億ユーロの第2次融資枠が設定される方針が決まった。
ユーログループでの合意を受けて、ECBの特例措置についても再開の道筋が開かれたが、ドラギ総裁は、今回の理事会では、決定は見送ったことを明らかにした。再開の決定には、ユーログループが求めた残る幾つかの措置の実行が確認され、ギリシャ支援を行なう欧州安定メカニズム(ESM)の理事会が承認することが必要であり、次回の理事会になるとの見方を示した。特例措置を協議する理事会は、6週間ごとに開催される金融政策を協議する会合である必要はなく、金融政策以外を協議する6月22日や7月6日の会合で決定される可能性もある。
(2016年06月03日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
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