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- 16年4月21日ECB政策理事会:ヘリコプター・マネーは検討せず
2016年04月22日
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                                            欧州中央銀行(ECB)が21日に政策理事会で現状維持を決めた。当面は包括策の実行とその効果を見極めるプロセスとなるだろう。追加緩和策として、APPの半年程度の期限延長は濃厚だが、その決定は9月となりそうだ。
今回の理事会の声明文及び記者会見の質疑応答では、融資条件の緩和や資金需要の拡大など、これまでの金融政策の効果が強調された。市場に広がる金融政策の限界論だけでなく、ECBの緩和策の行き過ぎに批判を強めるドイツの懸念への対応を求められたからだろう。
3月の包括緩和決定後も続く対ドルでのユーロ高基調は静観の構え。追加利下げの可能性は排除はせず、「ヘリコプター・マネー」は「検討していない」ことを強調、期待が膨らむことを阻止した。
            今回の理事会の声明文及び記者会見の質疑応答では、融資条件の緩和や資金需要の拡大など、これまでの金融政策の効果が強調された。市場に広がる金融政策の限界論だけでなく、ECBの緩和策の行き過ぎに批判を強めるドイツの懸念への対応を求められたからだろう。
3月の包括緩和決定後も続く対ドルでのユーロ高基調は静観の構え。追加利下げの可能性は排除はせず、「ヘリコプター・マネー」は「検討していない」ことを強調、期待が膨らむことを阻止した。
現状維持。当面は包括策の実行とその効果を見極めるプロセスに
                                            欧州中央銀行(ECB)が21日に政策理事会を開催、現状維持を決めた。
当面は、包括策の実行とその効果を見極めるプロセスとなるだろう。ECBの場合、年8回の理事会のうち、政策決定はスタッフ経済見通しの改定月にあたる3、6、9、12月(図表2)に行なうパターンが定着しつつある。次回6月2日の理事会は見通しの改定月だが、追加緩和に動く可能性は低い。3月の包括策で新たにAPPの対象に加えられた社債の買入れは、今回の理事会で6月の開始とともに対象となる銘柄や買入れの方式が公表されたばかり。合計4回予定するTLTROⅡの6月の実施が第1回となる。追加緩和を協議する前に、3月の包括策の柱と位置づけられるこれらの政策の効果をまずは見極める必要がある。
追加緩和策として、APPの半年程度の期限延長は濃厚だが、その決定は9月となりそうだ。
            当面は、包括策の実行とその効果を見極めるプロセスとなるだろう。ECBの場合、年8回の理事会のうち、政策決定はスタッフ経済見通しの改定月にあたる3、6、9、12月(図表2)に行なうパターンが定着しつつある。次回6月2日の理事会は見通しの改定月だが、追加緩和に動く可能性は低い。3月の包括策で新たにAPPの対象に加えられた社債の買入れは、今回の理事会で6月の開始とともに対象となる銘柄や買入れの方式が公表されたばかり。合計4回予定するTLTROⅡの6月の実施が第1回となる。追加緩和を協議する前に、3月の包括策の柱と位置づけられるこれらの政策の効果をまずは見極める必要がある。
追加緩和策として、APPの半年程度の期限延長は濃厚だが、その決定は9月となりそうだ。
政策効果を強調。為替相場は政策目標ではない
                                                                        今回の理事会の声明文及び記者会見の質疑応答では、これまでの金融政策の効果が強調された。市場に広がる金融政策の限界論だけでなく、ECBの緩和策の行き過ぎに批判を強めるドイツの懸念への対応が求められたからだろう。今回の質疑ではドイツの批判に対する見解を問うものが多かった。
これまでの政策の効果としては、4月の「銀行貸出サーベイ」結果を基に、融資条件の緩和や資金需要の拡大といった効果があったと指摘した。実行段階にある3月の包括策に関しても、声明文に「資金調達環境は幅広く改善した。金融政策の企業、家計への波及経路、特に銀行を通じた経路が強化された」との文言が加えられた。
14年6月以降の金融緩和策がユーロ安を通じて景気を下支えたのに対し、3月の包括緩和決定後は対ドルでのユーロ高基調が続いている(図表3)。この点について、ドラギ総裁は「為替相場は政策目標ではない。3月の包括策は(世界市場の不安定な動きの)物価や賃金への二次的影響を食い止める役割を果たしている」と答え、静観の構えを示した。
            これまでの政策の効果としては、4月の「銀行貸出サーベイ」結果を基に、融資条件の緩和や資金需要の拡大といった効果があったと指摘した。実行段階にある3月の包括策に関しても、声明文に「資金調達環境は幅広く改善した。金融政策の企業、家計への波及経路、特に銀行を通じた経路が強化された」との文言が加えられた。
14年6月以降の金融緩和策がユーロ安を通じて景気を下支えたのに対し、3月の包括緩和決定後は対ドルでのユーロ高基調が続いている(図表3)。この点について、ドラギ総裁は「為替相場は政策目標ではない。3月の包括策は(世界市場の不安定な動きの)物価や賃金への二次的影響を食い止める役割を果たしている」と答え、静観の構えを示した。
ミス・コミュニケーションの是正も今回の会見の狙い
                                            2つの側面でのミス・コミュニケーションの是正も今回の会見の狙いであったようだ。
1つは政策金利の先行きについて。3月にフォワードガイダンスは「(現在は17年3月までの)APPの継続期間を遥かに超えて」という期間に関して文言が強化、水準に関しては「現状かそれよりも低い水準に留まる」という利下げに含みを持たせ文言が維持された。質疑応答ではドラギ総裁は「追加利下げが必要とは考えていない」と同時に「新たな事実によって見通しは変わる」とも述べている。しかし、3月の発言は「利下げ打ち止め示唆」と受け止められて、包括策の発表を受けたユーロ安基調がユーロ高基調に転じるきっかけとなった。
今回は追加利下げの有無やマイナス金利の下限について明言しなかったものの、フォワードガイダンスの文言は維持、インフレ目標達成のために利用可能なあらゆる手段を活用する方針を確認した。
            1つは政策金利の先行きについて。3月にフォワードガイダンスは「(現在は17年3月までの)APPの継続期間を遥かに超えて」という期間に関して文言が強化、水準に関しては「現状かそれよりも低い水準に留まる」という利下げに含みを持たせ文言が維持された。質疑応答ではドラギ総裁は「追加利下げが必要とは考えていない」と同時に「新たな事実によって見通しは変わる」とも述べている。しかし、3月の発言は「利下げ打ち止め示唆」と受け止められて、包括策の発表を受けたユーロ安基調がユーロ高基調に転じるきっかけとなった。
今回は追加利下げの有無やマイナス金利の下限について明言しなかったものの、フォワードガイダンスの文言は維持、インフレ目標達成のために利用可能なあらゆる手段を活用する方針を確認した。
ヘリコプター・マネーは「検討していない」を強調。期待の膨張を阻止
                                            もう1つのミス・コミュニケーションの是正は「ヘリコプター・マネー1」について。3月の記者会見で、ドラギ総裁が「非常に興味深い考えだ」と述べたことがクローズアップされた。
今回の会見の冒頭は、「ヘリコプター・マネー」に関する質問だったが、ドラギ総裁は、「3月の会見での発言が(「非常に興味深い考えだ」という部分だけ強調されて)誤って解釈され驚いた」と述べた上で3月の会見での発言(「検討も協議もしていない。学者や様々な環境で議論されてきた非常に興味深い考えだ。しかし、我々として調査はしていない。会計的にも法的にも複雑であり、様々な解釈がされている」)を再読、欧州議会での自らの発言も引用し、「検討していない」ことを強調した。
「ヘリコプター・マネー」について、ドイツ連銀のバイドマン総裁は、新聞のインタビューで、「中央銀行の権限を超える」、「中銀の独立性と両立しない」と厳しく批判している2。 
今回のドラギ総裁の発言は、ドイツの批判に応えるだけでなく、EUの財政規律に抵触し、ECBの権限を超える政策への期待が膨らむことを阻止する狙いがあったと思われる。
 
1 1960年代にミルトン・フリードマンが用いた比喩で、ヘリコプターからお金をばらまくように、国民に現金をくばる政策を指す。バーナンキ前FRB議長が支持したことでも知られる。
 2 "Helicopter money would tear gaping holes in central bank balance sheets" 21.03.2016
https://www.bundesbank.de/Redaktion/EN/Interviews/2016_01_29_weidmann_funke_mediengruppe.html?submit=Search&searchIssued=0&templateQueryString=helicopter&searchArchive=0
            今回の会見の冒頭は、「ヘリコプター・マネー」に関する質問だったが、ドラギ総裁は、「3月の会見での発言が(「非常に興味深い考えだ」という部分だけ強調されて)誤って解釈され驚いた」と述べた上で3月の会見での発言(「検討も協議もしていない。学者や様々な環境で議論されてきた非常に興味深い考えだ。しかし、我々として調査はしていない。会計的にも法的にも複雑であり、様々な解釈がされている」)を再読、欧州議会での自らの発言も引用し、「検討していない」ことを強調した。
「ヘリコプター・マネー」について、ドイツ連銀のバイドマン総裁は、新聞のインタビューで、「中央銀行の権限を超える」、「中銀の独立性と両立しない」と厳しく批判している2。
1 1960年代にミルトン・フリードマンが用いた比喩で、ヘリコプターからお金をばらまくように、国民に現金をくばる政策を指す。バーナンキ前FRB議長が支持したことでも知られる。
https://www.bundesbank.de/Redaktion/EN/Interviews/2016_01_29_weidmann_funke_mediengruppe.html?submit=Search&searchIssued=0&templateQueryString=helicopter&searchArchive=0
(2016年04月22日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
                            - ・ 1987年 日本興業銀行入行 
 ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
 ・ 2023年7月から現職
 ・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
 ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
 ・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
 ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
 「欧州政策パネル」メンバー
 ・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
 ・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
 ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
 ・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
 ・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹
伊藤 さゆりのレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 | 
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【16年4月21日ECB政策理事会:ヘリコプター・マネーは検討せず】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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