- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- REIT(リート) >
- マイナス金利政策がJリート市場に及ぼす影響
2016年06月03日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
日本銀行が1月末に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を発表して以来、Jリート市場(不動産投資信託)が堅調に推移している。発表前日(1/28)から4月末までの騰落率をみると、TOPIXが4%下落したのに対して東証REIT指数は14%上昇した。これは、マイナス金利政策を受けて10年国債利回りがマイナス圏に沈むなか、3%台の安定した分配金利回りを期待して、投資資金がJリート市場に流入したためだと考えられる。
それでは、マイナス金利政策はJリート市場のファンダメンタルズにどのような影響を及ぼすであろうか。以下では、マイナス金利政策がJリート市場全体の「分配金」と「NAV(ネット・アセット・バリュー:純資産額+物件含み益)」に及ぼすインパクトについて考察したい。
まず、「分配金」への影響を確認する。図表1は、2015年下期(7月-12月期)におけるJリート市場全体の収益構造を示している。投資家の受け取る分配金原資(1,531億円)は、保有不動産が稼ぎ出す賃貸事業収益(3,223億円)から、運用資産額にほぼ連動する減価償却費(814億円)と資産運用報酬等(523億円)、及び融資関連費用を含む支払利息(356億円)を引いた金額である。このうち、有利子負債額(約5.7兆円)に対する支払利息の利率は年率1.2%であり、マイナス金利導入後の新規の借入利率は0.7%と推測される。したがって、既存借入金のリファイナンスが進んで借入利率が現行水準から0.5%低下した場合(1.2%→0.7%)、支払利息の減少によって分配金原資は144億円増加し9%の増益要因となる。
それでは、マイナス金利政策はJリート市場のファンダメンタルズにどのような影響を及ぼすであろうか。以下では、マイナス金利政策がJリート市場全体の「分配金」と「NAV(ネット・アセット・バリュー:純資産額+物件含み益)」に及ぼすインパクトについて考察したい。
まず、「分配金」への影響を確認する。図表1は、2015年下期(7月-12月期)におけるJリート市場全体の収益構造を示している。投資家の受け取る分配金原資(1,531億円)は、保有不動産が稼ぎ出す賃貸事業収益(3,223億円)から、運用資産額にほぼ連動する減価償却費(814億円)と資産運用報酬等(523億円)、及び融資関連費用を含む支払利息(356億円)を引いた金額である。このうち、有利子負債額(約5.7兆円)に対する支払利息の利率は年率1.2%であり、マイナス金利導入後の新規の借入利率は0.7%と推測される。したがって、既存借入金のリファイナンスが進んで借入利率が現行水準から0.5%低下した場合(1.2%→0.7%)、支払利息の減少によって分配金原資は144億円増加し9%の増益要因となる。
開示資料によると、2016年1月末時点における保有不動産の評価額は14.0兆円(還元利回り4.5%)、「NAV」は8.2兆円(純資産額6.9兆円+物件含み益1.3兆円)である(図表2)。
マイナス金利導入後10年国債利回りは0.3%低下した。そこで、「無リスク金利」を10年国債利回りとして「還元利回り」も0.3%低下(4.5%→4.2%)し、他の条件は変わらないと仮定した場合、不動産評価額は14.0兆円から15.0兆円に、物件含み益は1.3兆円から2.3兆円に、「NAV」は8.2兆円から9.2兆円(+12%)に増加する。こうした評価額上昇による物件含み益の拡大は、(1)財務信用力の向上、(2)資産入替など柔軟なポートフォリオ戦略、(3)予期せぬ損失に備えたリスクバッファーの拡充など、多くのプラス効果をJリートにもたらすことになる。
マイナス金利導入後10年国債利回りは0.3%低下した。そこで、「無リスク金利」を10年国債利回りとして「還元利回り」も0.3%低下(4.5%→4.2%)し、他の条件は変わらないと仮定した場合、不動産評価額は14.0兆円から15.0兆円に、物件含み益は1.3兆円から2.3兆円に、「NAV」は8.2兆円から9.2兆円(+12%)に増加する。こうした評価額上昇による物件含み益の拡大は、(1)財務信用力の向上、(2)資産入替など柔軟なポートフォリオ戦略、(3)予期せぬ損失に備えたリスクバッファーの拡充など、多くのプラス効果をJリートにもたらすことになる。
一方、マイナス金利政策の長期化は金融機関の収益悪化や金融仲介機能の低下など、副作用も懸念される。長期金利が経済の体温計に例えられるように、人為的な低金利のツケが実体経済に回り不動産市況が悪化すれば、マイナス金利によるファンダメンタルズの改善効果は相殺されてしまう。今後のJリート投資に際しては、マイナス金利の効用を認めつつも景気の先行きに対する見極めが、より重要になると思われる。
(2016年06月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1858
経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | J-REIT市場の動向と収益見通し。財務負担増加が内部成長を上回り、今後5年間で▲7%減益を見込む~シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し~ | 岩佐 浩人 | 基礎研レポート |
2025/02/07 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 基礎研マンスリー |
2025/01/24 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 研究員の眼 |
2024/12/04 | Jリートの不動産運用で問われる「インフレ対応力」 | 岩佐 浩人 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年03月24日
なぜ「ひとり焼肉」と言うのに、「ひとりコンビニ」とは言わないのだろうか-「おひとりさま」消費に関する一考察 -
2025年03月24日
若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る -
2025年03月24日
中国:25年1~3月期の成長率予測-前期から減速。目標達成に向け、政策効果でまずまずの出だしに -
2025年03月24日
パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー -
2025年03月21日
資金循環統計(24年10-12月期)~個人金融資産は2230兆円と前年比86兆円増加も実質では前年割れ、定期預金が純流入に
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【マイナス金利政策がJリート市場に及ぼす影響】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
マイナス金利政策がJリート市場に及ぼす影響のレポート Topへ