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シドニーのオフィス市場~海外資金による取得は高水準、日本の投資家にとっても魅力的~

増宮 守
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7.オフィス需給と今後の展望
まず、シドニーのオフィス需要について振り返ると、リーマンショックの落ち込みから底打ちした後も、欧州債務危機などの影響でしばらく力強い回復は見られていなかった。2014年以降、米国景気の回復に牽引される形でようやく回復が明確になってきている。今後も、グローバル景気は不透明感を伴いつつも、緩やかに改善を続けるとみられ、シドニーのオフィス需要も当面は底堅く推移するものと見込まれる。
一方、シドニーのオフィス供給についてみると、過去一貫して新規供給は限定的であった(図表-8)。そもそも地震国ではないため、築古ビルでも一定の競争力の維持が可能であり15、また、アジアの成長都市のようにオフィス需要の急拡大が期待できるわけでもない。よって、東京のように都心のオフィスビルの再開発が活発ではなく、また、アジアの各都市のように新たなオフィスエリアの開発も積極的に進められてこなかった。
現在、バランガルーの港湾施設跡地で、例外的といえる大規模な開発が進んでいるが、オーストラリア史上最大といえる開発案件で、近年の需給改善を確認しつつ新規供給に至っている。今後、同規模の新規供給は長らく発生しないとみられる16。
また、シドニーのオフィス需給をみる上で、最近特に重要な要素はオフィスストックの減少である。住宅価格の高騰17を背景に(図表-9)、築古オフィスビルから住宅への転用が増加している。特に、都心のオフィスビルでは、築古ビルを取り壊し、高級コンドミニアムに建て替え、分譲するケースが多い。高級コンドミニアムは、中華系富裕層などによる投資用途の需要も強く、分譲価格の高騰が特に顕著となっている。中華系富裕層によるシドニーの高級物件の取得は、東京都心よりも活発で、中国本土の不動産会社による開発事例も複数みられており18、そうした開発物件では、ほとんどのユニットを中華系顧客に販売するケースも珍しくない。このように、コンドミニアム価格の高騰が開発、分譲事業の採算性を高めるに従い、オフィスビルの取り壊しが増加している。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、今後の4年間でシドニーCBDの約20万㎡のオフィスビルが取り壊され、コンドミニアムなどに建て替わるため、2017、18年には、取り壊しが新規供給を相殺し、シドニーCBDのオフィスストックは縮小する(Net Supplyがマイナスになる)見込みとなっている(図表-8)。
ちなみに、現在、オーストラリアでは住宅市場の過熱が懸念されており、地方都市では既に住宅価格が下落局面に入ったとの見方が増えている。人口流入による住宅需要が強いシドニーでは、相対的に住宅需給が底堅いものの、今後、高騰した住宅価格が下落する可能性は否定できない。住宅価格が下落する場合、築古のオフィスビルをコンドミニアムに建て替える動きが鈍化し、オフィス需給に影響する可能性がある。
15 たとえは、シドニーで最高賃料を誇るチーフリータワー、カバナーフィリップタワーは、それぞれ1992年、1993年の竣工で、最新のビルではない。
16 長期的には、ニューサウスウェルズ州がシドニーセントラル駅の地下化と周辺の大規模再開発の青写真を描いている。
17 (図表-9)は、オーストラリア全国の鑑定評価額データである。実際の取引価格をシドニー限定でみた場合、さらに住宅価格の上昇は顕著と考えられる。
18 大連の万達集団や上海の九龍投資集団などがシドニーのオフィスビルを取得し、住宅開発を予定。その他、中国の不動産会社がシドニー郊外で大規模な住宅開発を手掛けるケースもみられる。
8.おわりに
シドニーのオフィス市場は、過去最大の新規供給に面しているものの、需給悪化懸念は小さく、むしろ、大量供給が都市の新陳代謝を促し、シドニーの国際競争力の向上に繋がると期待されている。2017年以降、新規供給が再び限定的となるため、安定したオフィス需給の継続が見込まれている。
日本の投資家にとっても、長期的に安定したインカムゲインが見込めるシドニーのオフィスビルは、取り組み易く、魅力的な投資対象であると考えられる。ただし、中国経済の失速がグローバル景気を悪化させる場合、シドニーでは、オフィス需要が縮小すると共に、住宅価格の下落によって築古ビルの取り壊しが滞り、オフィス需給の悪化が加速する可能性があることには注意したい。
(2016年05月25日「不動産投資レポート」)
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