2016年02月15日

上司が部下の「介護離職」を止めるためには-介護に突然直面したケースの「初動」について考える

  松浦 民恵

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2――突然介護に直面したAさんのケースにおける上司の対応

分科会では、部長はできる限り速やかにAさんと会うべきだという意見が多く出された。確かに、Aさんが固辞するからといって部長がコミュニケーションの機会を持てないでいると、そのまま離職につながる危険性は高い。課長ともなれば、常日頃仕事のなかでそうしているように、部長と話す時には自分なりの結論を用意したうえで話す可能性が高い。Aさんが部長と会うことを固辞しなくなった時には、既に離職を覚悟し、転職先まで用意してしまっているかもしれない。その段階で、部長がAさんの離職を踏みとどまらせるのはなかなか難しいだろう。むしろ部長は、Aさんがこれから先のことを決めかねている段階でAさんと会い、仕事と介護の両立を支援したい、決して離職してほしくはない、というメッセージを伝えるべきである。ただし、Aさんがあくまでも部長と会うことを拒絶し、部長が訪問することによってかえってAさんを追い詰めてしまうような場合には、課長代理経由で手紙を託す等、当面は別の手段でこれらのメッセージをしっかりと伝えたうえで、会うタイミングを見極めるといった対応も必要となろう。

分科会のなかでは、部長のNGワードとして、「職場のほうは大丈夫だから安心して」という言葉があげられた。「大丈夫」といわれると、自分はもう職場にいなくてもいいのではないか、と否定的に受け取り、自信も失って、さらに離職に傾きかねないという懸念からである。Aさんの気持ちを慮ると、「Aさんがいなくて確かに困ってはいるけど、戻ってきてくれるまで、皆で何とか頑張ってみるから」というような言い方が望ましい。さらに、Aさんが皆に負担をかけて申し訳ないと思い過ぎないように、「Aさんにこれまで支えてもらったから、お互い様だと、皆言ってくれているよ」といった言葉を補足することも考えられる。

また、Aさんの状況に対して「それは大変だね」という共感し過ぎるのもどうであろう。部長自身に仕事と介護の両立に関する経験や知識がないと、Aさんのケースで両立が可能だと、部長自身が思えない危険性がある。そういう部長の不安がAさんに伝わると、Aさんも、やはり仕事と介護の両立は無理だという認識になり、さらに離職に傾く懸念が大きい。一方、部長自身に仕事と介護の両立の経験があれば、あるいは経験がなくても、こういうケースでも両立は可能であるという知識を持っていれば、「大変だけど、今が踏ん張りどころだ。介護しながら仕事を続けている人はたくさんいる。いずれ職場に戻ってくれると信じているから諦めないで」「介護は長く続くことだから、今疲れきっている時に、これからどうするかについての結論を出すのはやめたほうがいい。状況が少し落ち着いてから、これからのことを一緒に相談しよう。」「ひとまず介護休業を取得するという方法もある。その間に要介護認定を取得して、ケアマネジャーからリハビリ支援などを紹介してもらい、軌道に乗ったところで仕事に復帰するという道もある」「家族の介護は自分にも起こり得ること。介護休業を取得したからといって信頼を失うことは全くない」といった声掛けも可能になってくると考えられる。

もちろん、Aさんの介護離職を止めるために、部長がすべきことはAさんとの対話だけではない。Aさんの職場の要員体制の強化等、人事部門や職場を引き継ぐ課長代理ともコミュニケーションをとりながら、必要な支援を行っていく必要がある。

突然の介護への直面によって、Aさんのような責任感の強い、人望のある課長を失うことは、会社として取り返しのつかない損失である。上司の「初動」における心ない言葉や不用意な行動によって、そんな事態を引き起こさないように、企業が管理職研修等で、このようなケースを使って上司の初動対応を考える機会を設けることは有益だろう。
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松浦 民恵

研究・専門分野

(2016年02月15日「基礎研レター」)

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