2016年02月08日

【1月米雇用統計】雇用者数は市場予想を下回ったものの、その他の指標は労働市場の堅調を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用増加数は前月から大幅低下、市場予想も下回る

2月5日、米国労働省(BLS)は1月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は前月対比で+15.1万人の増加1(前月改定値:+26.2万人)に留まり、前月から伸びが大幅に鈍化、市場予想の+19.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.9%(前月:5.0%、市場予想:5.0%)と、こちらは前月から低下、市場予想も下回った(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は62.7%(前月:62.6%、市場予想:62.7%)と前月から上昇、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用増加ペースは鈍化も、その他指標改善で労働市場の回復持続を確認

(図表1)時間当たり賃金の伸び率 1月の雇用者数は、10-12月期の月間平均増加数+27.9万人から伸びが大幅に鈍化する結果となった。10-12月期の水準は持続可能でないとみられるほか、当該期間の失業保険新規申請件数などからは、1月の雇用鈍化は予想されていた。もっとも、10万人台半ばはやや弱い印象である。雇用増加ペースがこの水準で定着してしまうか来月以降の統計で確認する必要がある。
一方、失業率は前月から改善し08年2月以来の水準に低下したほか、FRBの目標失業率に到達した。1月の低下は労働参加率の改善を伴っており、労働需給がタイトになっていることを示す良い内容である。
さらに、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前年同月比+2.5%(前月:+2.7%)と、上方修正された前月は下回ったものの、市場予想(+2.2%)を上回ったほか、前月比では+0.5%(前月:横這い)と15年1月以来の高い伸びとなった(図表1)。
このようにみると、1月の結果は雇用者数こそ弱かったが、家計調査や賃金上昇率はいずれも労働需給がタイトになっていることを示しており、労働市場の質も含めた改善が持続している。米国では内需主導型の景気回復が持続しているものの、中国や資源国を中心とした新興国経済で減速懸念が強まっているほか、ドル高も続いており、米国経済を取り巻く環境は厳しさを増している。このため、米景気回復の持続性を判断する上で引き続き労働市場の動向が注目される。
 

3.事業所調査の詳細:人材派遣が大幅に減少

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+11.8万人(前月:+19.7万人)となり、前月から大幅に伸びが鈍化した(図表2)。
サービス部門の中では、人材派遣が▲2.5万人(前月:+2.5万人)と前月から大幅に減少したこともあり、専門・ビジネスサービス+0.9万人(前月:+6.0万人)と伸びが鈍化した。一方、小売業+5.8万人(前月:▲0.1万人)や、娯楽・宿泊+4.4万人(前月:+3.1万人)は前月から伸びが加速した。
財生産部門は+4.0万人(前月:+5.4万人)と、こちらも前月から伸びが鈍化した。資源関連は▲0.7人(前月:▲0.7万人)と減少が続いているほか、建設業で+1.8万人(前月:+4.8万人)と伸びが鈍化した。一方、製造業は2.9万人(前月:+1.3万人)と、こちらは前月から伸びが加速した。
政府部門は▲0.7万人(前月:+1.1万人)となった。内訳をみると連邦政府が▲0.8万人(前月:+0.8万人)となったほか、州・地方政府が+0.1万人(前月:+0.3万人)となった。
 
前月(12月)と前々月(11月)の雇用増(改定値)は、前月が+26.2万人(改定前:+29.2万人)と▲3.0万人下方修正された一方、前々月は+28.0万人(改定前:+25.2万人)と+2.8万人上方修正された。また、今月は昨年の年次改定値も公表され、昨年の雇用増加数が月平均で+0.7万人上方修正された(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って2月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が+20.5万人(前月改定値:+26.7万人、市場予想:+19.5万人)と市場予想は上回ったものの、前月から伸びが鈍化した。この結果、ADP社とBLS(事業所調査)の雇用者数は前月から伸びが鈍化しており、両者は整合的な動きとなった。
 
1月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が25.39ドル(前月:25.27ドル)となり、前月から12セント増加した。また、週当たり労働時間も34.6時間(前月:34.5時間)と、こちらも前月から+0.1時間増加した。その結果、週当たり賃金は878.49ドル(前月:871.82ドル)と、前月から大幅に増加した(図表4)。
(図表3)2015年改定の結果/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が2ヵ月連続で改善

家計調査のうち、1月の労働力人口は前月対比で+28.4万人(前月:+46.6万人)と4ヵ月連続の増加となった3。内訳を見ると、失業者数が▲12.5万人(前月: ▲2.0万人)減少した一方、就業者数が+40.9万人(前月:+48.5万人)と4ヵ月連続で増加した。さらに、非労働力人口は▲8.8万人(前月:▲27.7万人)と、こちらも4ヵ月連続で減少した。
この結果、労働参加率は就業者数の増加が寄与する形で2ヵ月連続の改善となった(図表5)。ここもと、労働力人口の増加基調が明確になってきており、労働参加率の改善に弾みがついてきている。
失業率は小数第2位までとると1月は4.92%(前月:5.00%)であった(図表6)。失業率は低下基調が持続しているものの、これまでは職探しを諦めて労働市場から退出する人の増加を背景に、労働市場改善の実態を伴わない低下もみられた。しかしながら、今月は労働参加率の低下を伴っており、実態を伴う改善と言える。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、1月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、208.9万人(前月:208.5万人)となり、前月対比では+0.4万人(前月:+3.1万人)増加した。この結果、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも、26.9%(前月:26.3%)と2ヵ月連続の増加となった(図表7)。一方、平均失業期間は28.9週(前月:27.6週)と、こちらも前月から増加した。
最後に、周辺労働力人口(208.9万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(598.8万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5をみると、1月は9.9%(前月:9.9%)と前月と同水準となった(図表8)。さらに、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は5.0%ポイント(前月:4.9%ポイント)と、こちらは前月から0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布とへ金失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 2016年から人口推計を変更しているため、2015年と断層が生じている。ここで記載している労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの。
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年02月08日「経済・金融フラッシュ」)

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