コラム
2016年01月05日

「感謝」と「謝罪」-「すみません」言う“勇気と矜持”

土堤内 昭雄

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毎年12月に、日本漢字能力検定協会が「今年の漢字」キャンペーンの結果を公表する。1年間の世相を最もよく表す漢字一字を募集し、2015年は「安」が選ばれた。安全保障関連法案に対する国民の関心の高まりや世界各地で発生したテロ事件が人々の不安をかきたてたこと、マンションの杭データ偽装事件が暮らしの安全・安心を脅かしたことなどが背景にあるようだ。

昨年、私にとって最も印象深い漢字は「謝」だった。「謝」は「言+射」で「お礼やお詫びなどの気持ちを言葉で表す」という意味だ。「お礼の気持ちを表す」のは「感謝」、「お詫びの気持ちを表す」のは「謝罪」。昨年は、個人的には激動の1年間を無事に過ごせたことに大いに感謝する1年だったが、社会的には企業の不祥事が相次ぎ、有名企業の経営トップの謝罪が続く1年でもあった。

われわれは「すみません」という言葉を日常よく使うが、これは「感謝」と「謝罪」のいずれにも使える。他の人に対するささやかな「ありがとう」や「ごめんなさい」の気持ちを率直に伝えることは、価値観が多様化した現代社会において、余計な摩擦を引き起こさずに生きるひとつの知恵かもしれない。日常生活で「すみません」を適切に使うことが、個人間の暮らしの潤滑油になることもある。

昨年の明るい話題のひとつは、大村智さんと梶田隆章さんの日本人2人によるノーベル賞受賞だが、授賞インタビューでしばしば聞かれたのが、共同研究者やスタッフ、研究生活を支えてくれた家族や周囲の人々への感謝の言葉だった。自らの研究業績に対する大きな誇りと実現過程における他者への深い感謝の気持ちがつながっているように思えた。

一方、昨年末には従軍慰安婦問題を巡る日韓合意における安倍首相の謝罪があり、1年を通じては企業の不祥事や病院の医療ミス、大学の不正研究等の謝罪が頻繁に行われた。企業等の深刻な謝罪会見が形式的な陳謝に終始し、再発防止に向けた具体策と覚悟を示す責任あるものには思えないこともあったが、それらが真正面からの議論と本質的な解決を回避した皮相的なものに終わってはならない。

謝罪には表面的なプライドを捨てただけのものもあるが、真の謝罪の言葉には大きな責任が伴い、確かな“勇気と矜持”がなければ心からの謝罪などできない。人は過ちを犯すものだがそれを改める覚悟と責任を示すことが重要であり、問題と真摯に向き合うことで初めて心からの謝罪が可能になる。一連の企業等の不祥事の謝罪からは、過去から学び、明るい未来に向うためには、真の「すみません」を言う“勇気と矜持”がいかに重要かを強く感じずにはいられない。
 
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(2016年01月05日「研究員の眼」)

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