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- ネット上の「利用規約」と「同意」ボタン、どうしてますか?―トラブル事例のリスト提示はどうでしょう―
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インターネットやスマホで情報を取ろうとしたり、アプリをダウンロードしたりするときに出てくる、「利用規約」と「同意します」ボタンが苦手である。サービスの受領をするのだから、その契約条件を知っていて当然とは正論であるが、ずぼらな性格には、長々とした規約を読むことはたいへんな苦痛を強いる。それでつい、利用規約を読まないで「同意します」ボタンを押していることも多い。そして、そのたびに運を天に任せてしまったような、なんとも後味の悪い思いをする。
私と同じような状況の人は、結構多いようだ。サービス利用前に利用規約を「読む」人は15.0%、「ときどき読む」人が52.2%、「読まない」人が31.9%という 調査結果もある1。
ネット上にあふれる「利用規約」は約款の一種である。約款とは、不特定多数の消費者を相手に事業を行う事業者が、大量の定型的な取引を迅速・効率的に行うためにあらかじめ作成しておく契約条件を記した定型文である。生保業界も約款を使用する業界であるが、複雑な生保契約の内容をよく理解できていない顧客と契約を結ぶことは問題だという認識が古くからあった。そこで契約を交わす前に、約款と注意事項をまとめた「ご契約のしおり」という冊子を配布するということが、ずっと以前から行われていた。さらに、分厚い「ご契約のしおり」だけではわかりにくい、いっぱい出すことは見せていないのと同じとばかりに、契約しようとする商品の概要を簡潔にまとめた「契約概要」、契約しようとする商品が本当に顧客の欲する商品であるのかの確認をする「意向確認書」等、契約前に提示・提供すべき書類が付け加わってきた。しかしながら、いまだ完全な解決策を提示できているとは言いがたいように思われる。とはいえ、保険の約款の場合は、監督当局の認可を得て作成しているという事実により、内容の信頼性が担保されている面があると思う。結局はお上頼りかよと言われれば、それまでだが。
さて一方、ネット上の利用規約の多くは、契約自由の原則の下、サービス提供者とサービス利用者が相対契約する様相を呈している。気になったので調べてみると、仮に利用規約を読まないで同意したとしても、利用者にとってあまりに一方的に不利になる条件が設定されていた場合には、消費者契約法等によって無効となるらしい。現在、国会で2018年からの施行を目指して審議が行われている民法改正案の中にも、約款の条項のうち、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす」という条文がある2。あまりに不合理な利用規約については事後、争う余地がありそうだ。
それでは、そこまで行かないトラブルについてはどうか。経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」3は、「申込みボタンや購入ボタンとともに利用規約へのリンクが明瞭に設けられているなど、利用規約が取引条件になっていることが明瞭に告知され、かつ利用者がいつでも容易に利用規約を閲覧できるようにサイトが構築されている場合」や「サイトの利用に際して、利用規約への同意クリックが要求されており、かつ利用者がいつでも容易に利用規約を閲覧できるようにサイトが構築されている場合」には、利用規約が契約条件またはその一部となるとしている。また民法改正案も、契約の際に「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」または「定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」は、「定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす」としている4。
これらを見ると、よほど悪質な利用規約については後から争うことができるが、そこまで行かない利用規約が、所定の形式を整えて表示されていた場合、読まずに同意した者が後でそんな契約はしていないと抗弁することは難しいようだ。
となるとまた不安になる。それでも長文の利用規約を必ず読む自信はない。そこで仕方なく当該サービスが何らかの問題を引き起こしていないかネット上で検索して安心材料とするようなことになる。
今回、この短文を書くに当たって、雨宮美季・片岡玄一・橋詰卓司著『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』技術評論社(2013年)を参考にさせていただいた。同書を読むと、サービス提供者の立場にある方々にとっても、利用規約が読まれずに同意されて後にトラブルになることはぜひとも避けるべきことであること、事業を良好に遂行する上で、利用規約をどう作りどう同意を得るかということが非常に重要であることが、よくわかる。
そこで1つ提案なのだが、利用者側の事情とサービス提供者側の事情の妥協点として、例えば、この利用規約に関連して、以下のような苦情が寄せられております、トラブルになっているのはこういう事例ですと、具体的なトラブル事例を10個ほど掲載するということはできないだろうか。トラブルを開示することには自らの恥部をさらすようで抵抗感が強いというのなら、「考えられるトラブルの例」でもいい。いわば注意喚起情報の明示である。消費者目線に立てば、隠し事をせず改善に取り組む企業の姿勢は好感度が高い。サービス利用者に有力な判断材料を提供する、優しく、かつ現実的な仕組みだと思うのだが、いかがだろうか。こうした対応を取られるサービス提供者が現れることを期待したいと思う。
(2015年06月16日「研究員の眼」)
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