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「労働所得」と「資本所得」-“超高齢社会・日本”の格差問題の留意点

土堤内 昭雄
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トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房、2014年12月)は、20カ国以上におよぶデータを収集・分析し、世界中で拡大する経済格差の状況を明らかにしたが、「格差」の様相は国ごとに異なる。例えば超富裕企業経営者が現れたアメリカでは、反格差運動の“We are the 99%”が象徴するように、上位1%の富裕層が占める所得が全体の2割を占めているが、日本では1割程度にとどまっている。
では、日本の格差問題の核心はどこにあるのか。それは、貧困層の拡大と中間層の衰退ではないだろうか。日本の相対的貧困率は16.0%とOECD諸国34カ国中29位と高く、生活保護受給世帯数は160万世帯を超えている。また、今日では中間層が様々な要因から貧困に陥る不安も高まっている*。
『21世紀の資本』は、日本の格差問題を考える際に多くの示唆を与えてくれるが、われわれが今後の格差対策を考える上で最も留意すべき点は、日本が超高齢時代を迎えていることだろう。
同書によると、国民所得の7割は「労働所得」で、残り3割が「資本所得」だ。今後、人口の高齢化が進む日本では労働力率が低下し、国民所得に占める「労働所得」の割合も下がり、高齢者など「資本所得」に依存せざるを得ない人が増える。しかし、所得階層別にみると上位0.01%の超富裕層の所得の6割以上は「資本所得」が占めており、富裕層ほどその割合が高く、あまり資産を持たない貧困層や中間層との格差はきわめて大きいのだ。そのため、ピケティ氏が主張するr(資本収益率)>g(所得成長率)という格差拡大のメカニズムは、日本社会に一層深刻な影響を及ぼすだろう。
また、低中間所得層の高齢期の暮らしは、主に公的年金に頼ることになるが、超高齢社会を迎えた日本で最も懸念されることのひとつは、無年金者や低年金者の増加だ。現在の国民年金の加入者は1800万人に上るが、若年世代などの非正規雇用者の増加により未納率は4割と高い。今日の格差拡大が将来の無(低)年金者の増大をもたらせば、貧困の世代連鎖を招くことになる。日本が豊かで安心できる高齢社会を築くためには、将来の無(低)年金者を解消する施策が早急に必要なのだ。
ピケティ氏は経済成長によるトリクルダウン効果では所得の適正な再配分はできず、少子化や人口減少の進展で世襲資本主義が拡がり、相続資産格差が拡大・固定化すると述べている。日本社会の成長が持続可能であるためには、資本主義が構造的に生み出す格差を是正する再配分機能を確立することが必要不可欠なのだ。人口減少と少子高齢化が進む今日、『格差と貧困の連鎖』を断ち切るための雇用環境の改善や職業教育の充実など、若中年を中心にした低中間所得層への支援強化が求められる。
(2015年02月17日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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