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2015年度予算案の評価と新たな財政再建計画-財政再建の本気度が示される「新たな財政再建計画」(6月末予定)に注目

総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
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(歳出拡大だが、基礎的財政収支赤字半減目標は達成)
政府は1月14日に2015年度予算を閣議決定する。
報道で聞こえてくるところによれば、歳出の拡大が鮮明だ。
・15年度予算案では政策経費が73兆円台、14年度の72.6兆円を上回って過去最大
・医療や介護など社会保障費が31兆円台に膨らみ過去最大
・防衛費は前年度に比べ約2%増加し過去最大
・公共事業費は14年度当初予算からは微増
・15年度歳出総額は14年度95.9兆円から膨らみ96兆円台を見通す
一方で、財政健全化目標である基礎的財政収支の赤字半減は、最高益をあげる企業が続出する中、法人税の増加などを背景に予算段階では達成可能となっている
・15年度予算案の税収は54兆円程度と1991年度以来、24年ぶりの高水準とする方針
・(消費税引き上げ先送りで来年度約1.5兆円の減収でも)基礎的財政収支が改善し、赤字幅は14年度予算より3兆円超減少、財政健全化目標が15年度予算案ベースでは達成できる見通し
この2015年度の予算案をどう評価したらいいのか?歳出増に歯止めがかからない予算と見るべきなのか、政府目標の基礎的財政収支赤字半減を計画した、財政再建の歩みを進めた予算と見るべきなのか。
筆者の予算案に対する評価は、「財政再建の歩みは弱い」である。その最大の理由は、ワニの上口が閉じていないからだ。すなわち、歳出抑制が実現していないのだ。
その背景には、政府の財政運営が前政権の民主党と違い、歳出にキャップを設定していない点がある。歳出と歳入の差額である基礎的財政収支の赤字削減を達成するという目標があっても、税収増などで前年に比べて歳入が増えれば、その増えた分を超えない歳出増なら許容するという財政運営であり、そもそも哲学が違う。(確かに歳出増は抑え込めていないが、結果として基礎的財政収支の改善や新規国債発行を抑え込むことはできている。財政規律にも配慮しながら第二の矢として機動的な財政運営もできているとの評価もありえる)
哲学が違っていたとしても、本来であれば金融市場がその評価をするはずだが、足元で10年債は0.2%台、5年債より短いところはマイナス金利とまったく実体経済を映す鏡としての機能は果たしていない。そういう意味で予算案の評価は中途半端なものになりそうな気がする。
(財政規律への本気度は6月の新たな財政再建計画ではっきりする)
ただし、今年6月頃に発表される見通しの「新たな財政再建計画」では政府の財政再建に対する本気度がはっきりする。
昨年7月に経済財政諮問会議に提出されている中長期の経済財政に関する試算では、2020年度に基礎的財政収支の黒字化を達成するには約11兆円の改善不足となっている。
経済成長率、長期金利の見通し、税収弾性値などの前提条件も重要だが、黒字化の目標達成のためには、実効性のある歳出抑制策がなければ、不可能である。
その際、歳出の約32%を占める社会保障と約17%を占める地方交付金について痛みの伴う改革が不可欠だが、4月に統一地方選挙を控えており、具体的な削減策を提示できるのか、重要な局面を迎える。
長期安定政権を確保した安倍政権が今度こそ痛みを伴う改革を断行できるか、いままでの政権がやるといいながら踏み込めなかった改革ができるか、ここが試金石になる。
(2015年01月09日「研究員の眼」)

03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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