- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 財政・税制 >
- 女性活用がブームでないなら-奈良時代の制度と比較して税の公平性を考える
女性活用がブームでないなら-奈良時代の制度と比較して税の公平性を考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
『女性の活用が叫ばれたのは、好景気か戦争で男手が足りなくなった時。女性を本当に尊重しようとしているか、よく見極めて』
これは、2014年10月7日付の東京新聞朝刊に掲載されたものだ。東京五輪を機に採用された元女性記者が後輩女性記者に助言している。確かに、さしあたり女性活用が叫ばれている背景には、少子・高齢化による男手の不足がある。これに対して「すべての女性が輝く政策パッケージ」(以下「パッケージ」)が決定されるなど、女性を尊重する動きもある。これらは果たして本物だろうか。
歴史の教科書に載っている「租・庸・調」を覚えている方は多いだろう。租は田の面積に応じて課される税、調は一定年齢以上の男性に布などを課す税である。庸は一定年齢以上の男性に労働を課す税であるが、国税庁のメールマガジン1によると、実際は労働ではなく、代納として布を納めたらしい。同じく国税庁の税務大学校「税の歴史クイズ」2によると、平城京と畿内(大和、山背、河内、摂津、和泉)に住む庶民には庸・調が免除されていたらしいが、その理由がとても興味深い。他の地域と異なり、平城京と畿内に住む人は都の工事などに駆り出されることが多かったからだ。
現代の税制と比べると、担税力を田の面積(所得)で捉える租は、所得税や住民税の所得割に近い。一方、庸・調は、担税力にかかわらず税が課される人頭税である。住民税の均等割も国民年金の保険料も一定の要件を満たせば免除されるが、所得金額に関係なく定額を支払うという点で庸・調と似ている。奈良時代において庸・調が免除されるのは労役に服した人であった一方、現代において国民年金の保険料が免除されるのは、労働市場に参入していない会社員や公務員の配偶者である。免除される対象が正反対だ。筆者のような立場からすると、労役に服した人が税を免除される奈良時代のほうが公平だと感じる。しかし、少し考えれば、奈良時代のほうが公平なのではなく、奈良時代から変わらず「女性は付帯者に過ぎない」といった考えが根付いているに過ぎないとわかる。
肉体労働は女性には不向きだから、庸・調は男性にのみ課されたといった意見もあろう。しかし、実際は代納が主流であったのだから、奈良時代には既に女性は付帯者であるといった考えが根付いていたと考えるほうが自然だろう。今も、労働市場に参入していない会社員や公務員の配偶者の国民年金の保険料が免除されているのではなく、付帯者に過ぎない女性には納税を課していないということだ。言い換えると、求められてもいないのに奇特な女性が労働市場に参入し、納税しているといった考えがあるのだと思う。
パッケージには、(女性が)生き方を尊重されるような社会づくりが必要とある。女性が尊重される社会に、女性は付帯者に過ぎないといった考え方は馴染まない。女性を本当に尊重しようと考えているのなら、女性が付帯者に過ぎないといった考え方が残る税や社会保険制度の改革が必要だ。パッケージにも、働き方に中立な税制、社会保障制度、配偶者手当等について、「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月閣議決定)等を踏まえ、年末までに検討する、といった文言がある。
しかし、女性が付帯者に過ぎないといった考え方を払拭し、実際に第3号被保険者制度や配偶者控除の廃止といった働き方に中立的な案が出れば、「サラリーマン世帯を狙い撃ち」といった批判があがるに違いないと筆者は懸念している。
家庭に入り、自ら良質な家事や子育を実施したいと考える女性も尊重すべきだ。しかし、自らの意思で選択する以上、それに掛る費用を自ら負担するというのが筋ではないだろうか。例えば、仮に共働き家庭が、家事代行サービスを利用する際に掛かった費用に応じて税などを免除すべきと主張したらどうだろう。自らの意思でサービスを利用しているのだから、その費用は自分で負担しろと非難されるのが落ちだ。共働き家庭の例えと同様に、家庭に入ることを自ら選択するのだから、その費用はそのメリットを享受する本人やその家族が負担すべきだ。所得が無いのだから所得税まで課す必要は無いだろうが、配偶者(特別)控除や、国民年金保険料の免除は不要と思っている。
今後、働き方に中立な税制、社会保障制度、配偶者手当等に関する検討が進む中で、万が一女性が付帯者に過ぎないといった考え方が払拭されないならば、女性を本気で尊重しようとはしていないと言うことだろう。
(2014年10月16日「研究員の眼」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/02/26 | ふるさと納税、確定申告のススメ-今や、確定申告の方が便利かもしれない4つの理由 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2025/02/18 | ふるさと納税、事務負荷の問題-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2025/02/03 | 老後の生活資金に影響?-DC一時金に適用される「5年ルール」見直しの背景 | 高岡 和佳子 | 基礎研レター |
2025/01/08 | インデックス型ファンド人気の中でのアクティブファンド選択 | 高岡 和佳子 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年03月19日
日銀短観(3月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント低下の12と予想、トランプ関税の影響度に注目 -
2025年03月19日
孤独・孤立対策の推進で必要な手立ては?-自治体は既存の資源や仕組みの活用を、多様な場づくりに向けて民間の役割も重要に -
2025年03月19日
マンションと大規模修繕(6)-中古マンション購入時には修繕・管理情報の確認・理解が大切に -
2025年03月19日
貿易統計25年2月-関税引き上げ前の駆け込みもあり、貿易収支(季節調整値)が黒字に -
2025年03月19日
米住宅着工・許可件数(25年2月)-着工件数(前月比)は悪天候から回復し、前月から大幅増加、市場予想も上回る
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【女性活用がブームでないなら-奈良時代の制度と比較して税の公平性を考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
女性活用がブームでないなら-奈良時代の制度と比較して税の公平性を考えるのレポート Topへ