コラム
2014年07月16日

続・買ってはいけない!?外国人が大量に買った株 Part2:有望株の“傾向と対策”

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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■ Part1:「やっぱり買わなくてよかった」のおさらい

外国人が大量に買った株」の“その後”を調べると、必ずしも他の銘柄より収益率が高いとは限らず、この傾向はアベノミクス以降も変わっていなかった。また、“その後”の収益率は銘柄によって大きな差があることも分かった。従って外国人投資家に単純に追随しても報われないが、この中から有望な銘柄を選ぶことができれば投資の参考情報として活用できるかもしれない。

■ 傾向1:ROEの改善度が高かった

2012年度に外国人の保有比率が大きく増えた75銘柄1を「その後の収益率」で25銘柄ずつのグループに分け、各グループの予想ROEとその改善度を見た。上位25銘柄は予想ROEが9.6%で高くないが、予想ROEの改善度が1.08倍で突出していた(図1、2013年5月末時点)。

一方、下位25銘柄の予想ROEは9.9%で最も高いが、予想ROEの改善度は1.01倍で前年度からの成長がほとんど見られなかった。この結果から、ROEの水準よりむしろROEの改善度が“その後”の株価に大きく影響する可能性が示唆される。
図1:“その後”の収益率が高い銘柄はROEの改善度が高かった
 
1 TOPIX500を構成する3月決算企業(約370社)のうち、2012年度に外国人の株式保有比率が増えた上位2割

■ 傾向2:投資指標は「割安」に見えなかった

次に代表的な投資指標であるPBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)の中央値を比べると、上位25銘柄はPBRやPERが他の銘柄よりも高い傾向にあった。通常、これらの指標が高い銘柄は割高とされるが、この75銘柄の中ではPBRやPERが高いほど更に値上がりしたことになる。

つまり、「外国人が買った株」を手がかりにして有望銘柄を探す場合は、PBRやPERが他の銘柄より高いだけで割高と決め付けるのではなく、業績改善の見込みを考慮しても本当に割高か、更なる値上がりが期待できるか見極める姿勢が必要だろう。
図2:“その後”の収益率が高い銘柄はPBRやPERが高かった

■ 傾向3:アベノミクス前から買われていた

最後に株価の時間変化を追ってみよう。上位25銘柄は2012年度も収益率が最も高く、3グループ中で2連勝した格好だ。しかも、図3に青い矢印で示したようにアベノミクス開始前は収益率が高かったものの、アベノミクス開始後は株価が冴えなかった(平均並みの収益率だった)。
図3:アベノミクス前の収益率が高かった
一方、下位25銘柄に注目すると、2012年10月までは他の銘柄をやや下回っていたが、野田前首相の衆議院解散宣言で市場が一変した2012年11月以降は、ほぼ一本調子で値上がりした(緑色の矢印)。しかし、わずか半年後の2013年5月をピークに下がり続けている。

■ 考察

あらためて確認しておくと、図1~3の75銘柄は「2012年度に外国人が大量に買った株」である。ところが、「Part1:やっぱり買わなくてよかった」で示したようにその後の収益率は大きく差が開いた。この背景の1つにはROE改善度の違いが挙げられよう。業績拡大が見込まれる成長企業ならばPBRやPERが他の銘柄より高くても正当化されるからだ。

もうひとつ、これは非常に重要な点だが一口に「外国人」といっても、ヘッジファンドなど短期間で徹底的に利益を追求する投資家から、年金など長期スタンスでじっくりタイプの投資家まで幅広い。

短期の投資家は値上がりしたら売却して次の投資先を探すという作業を繰り返す。

一方、長期投資家は数年タームで企業と向き合う。企業の収益性や成長性を吟味して投資するため市場全体の動向に左右されにくく、短期的な値上がりや値下がりで売却することは少ない。

この観点から図3を見ると、下位25銘柄はアベノミクス初期、株式市場がフィーバーのような状態のときに目先の値上がり益狙いで買われた。ちょうど3月末を挟んだので「外国人が大量に買った」ように見えた。それゆえ市場が沈静化すると利益確定売りで株価は全く冴えなかった、と解釈できる。

一方、上位25銘柄はアベノミクス前の日本株全体が低調な時期こそ株価が堅調だったものの、アベノミクスが始まると特に目立った動きもなく市場平均並みで推移。しかし、市場が一旦落ち着くと業績拡大など実力が評価され、結果として高い収益率を達成した、と見ることができる。

■ 対策:まず「外国人」を一括りにしない、そして自分で企業を選別する姿勢を

この推論が正しいとして、「外国人が買った株」に追随するなら、「買った外国人は誰か。長期保有しそうか」をチェックするくらいの努力は必要だろう。ただし、大量保有報告書が提出されなければ現実的にはそれすら難しい。

仮にチェックできたとしても筆者はそれで十分とは考えていない。「外国人が大量に買った株」は投資先候補を絞る「一次情報」程度に位置づけ、その中で有望銘柄はどれか、業績動向などから自身で選別する姿勢が重要だ。そうすることで、もし損失を被っても次への教訓を得られるだろう。

保有シェア・売買シェアともにトップの「外国人投資家」、その多様性と影響力を考えれば市場統計のあり方も進化が求められている。
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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

(2014年07月16日「研究員の眼」)

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