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- ふるさと納税のメリットを受けるのは誰?
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ふるさと納税とは、都道府県や市区町村(以下自治体)に寄附をすると年間の総寄附額から2千円差し引いた額だけ減税される制度のことだ1。数年前、東日本大震災の被災地への支援の手段として利用が拡大したようだが2、最近は寄附者に対し自治体が贈る特産品などの特典に注目が集まっている。
福井県ふるさと納税情報センターが各都道府県(一部の都道府県を除く)の受付実績を報告しているが、これを見て驚いた。ある県への寄附額が、総額の3割近くを占めるのだ(H25年度(2月末迄)集計値)。人口が東京に一極集中していると聞くが、東京の人口が日本の総人口に占める割合は1割程度である。いかに特定の自治体に寄附が集中しているかがわかるだろう。そこで、ふるさと納税に関する各都道府県の対応が受付実績に及ぼす影響を、重回帰分析した。結果は表の通りだ。
予想通り、件数・寄附額共に特典の還元率(特典の時価÷特典を得るために要する最低寄附額)が高いほど、ふるさと納税が集まる傾向がある。ただし、その特典の恩恵を受けるために、その都道府県を訪れる必要があるといった特典利用上の制限がある場合は、逆の効果をもたらす。特典をつけることで、ふるさと納税の受付数量を増やし、更に寄附者に地元を訪問してもらうといった一石二鳥の結果は期待できないということだ。また、資金の用途を寄附者が選択できるとか、クレジットカードが利用できるなどでふるさと納税が集まる傾向はほとんどない。
都道府県別のデータを詳しく見ると、特典の還元率が高い都道府県ほど寄附1件あたりの平均寄附額が少なく、特典を得るために要する最適寄附額に近い傾向がある。これは、特典の還元率が高い都道府県への寄附者の大宗が特産品目当てであることを意味する。
以上から言える事は、H25年度に限れば大多数が特産品目当ての寄附者だということである。
多くのふるさと納税を受け付けても、還元率の高い特産品を贈るのであれば自治体にとってメリットは少ないように思うだろう。しかし、仮に特産品の価格や事務関係の費用がふるさと納税受付額と同額であっても、特産品や自治体の知名度が向上するのであれば十分メリットがある。逆に、ふるさと納税を一切受け付けない自治体は、その住民が他の自治体にふるさと納税を行うとその住民に対する減税分だけ税収が減少するといったデメリットがある。
ここまで読むと、ふるさと納税のメリットを受けるのは、高価な特産品を贈るなどの対策により、より多くのふるさと納税を集める自治体に思える。自治体間の比較ではあながち間違いではないが、利用者間の比較ではどうだろう。減税されるのは納税額の一定の範囲に限られるため、高額納税者ほど税金が免除される額が大きい。例えば、高額納税者が1万円以上の寄附者に5千円相当の特産品を贈る10自治体に寄附した場合、合計5万円の特産品を手に入れる。特産品を手に入れるために10万円支払っても、9万8千円減税されれば、2千円で5万円の商品が買えることに等しい。しかし、これほどのメリットを受けられる人は限定される。
先日、ある町が300万円の寄附に対し、牛1頭分の牛肉(200万円相当)を送るといった特典を出したら、数日で予定していた3頭分の受付が終了したらしい。総所得額が数億円の高額納税者なら、200万円の牛肉を2千円で買える計算だ。日本のどこかで、セレブなパーティが開かれているのだろう。
ふるさと納税の利用目的は多岐に渡るため一概に判断できないが、H25年度のように特産品目当ての寄附者が大多数を占める状況が続くのならば、不公平な気もしないではない。
(2014年06月06日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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