- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- REIT(リート) >
- 順境のJ-REIT市場に死角はないか?
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
今年4月以降、アベノミクスへの期待感がやや息切れし、その新鮮味が薄まるにつれて調整局面に入ったJ-REIT(不動産投資信託)市場は、9月7日の2020年東京オリピック開催決定を機に再び上昇に転じている。オリンピック開催決定後3日間の業種別上昇率を順に並べると、都市インフラの整備促進や資産価格の上昇などに期待して建設や不動産、ガラス・土石、倉庫・運輸といった内需セクターが上位に顔を揃えるなかで、J-REITは第2位と健闘している。また、9月末時点で比較した場合、J-REITの上昇率が最大となっている(図表-1)。このような資本市場の反応を見る限り、J-REIT市場がオリンピック関連の代表セクターであること、そして、今後7年にわたる息の長い投資テーマの始まりを予感させるものだと言えそうだ。
もちろん、オリンピック効果でJ-REITの分配金や資産価値が直ちに増加するわけではない。しかし、J-REITへの投資とは、オフィス・住宅など賃貸不動産への投資を通じて日本経済の創り出す果実を受け取ることである。2020年東京五輪という明確な目標ができたことにより、企業や家計のマインドが温まり、アベノミクスの成長戦略と東京の都市計画が相乗効果を発揮し、海外からヒトとお金が日本に集まり、日本経済のデフレ脱却や持続的成長の道筋がより確かなものとなれば、J-REIT市場にとってその恩恵は計り知れない。
それでは、順境のJ-REIT市場に死角はないだろうか。市場全体の分配金水準や保有不動産の価格はともに上向きに転じている。銘柄数は新規上場の増加で43社1に広がり市場の厚みが増している。今年1年間の物件取得額は資金調達コストの低下やスポンサー企業の手厚いサポートを武器に2兆円に達する見通しだ。不動産投資市場の見通しも明るい光に包まれている2。当面の懸念材料を敢えて探すならば、証券優遇税制の廃止により実質的な分配金の受取額が減少することぐらいしか思い当たらない3。
ただし、順境の時には楽観を慎み、歴史に学ぶ姿勢が大切である。例えば、好況ののちに訪れた2008年の世界的な金融危機では、上場REIT42社のうち自力で危機を克服することができたREITは23社、残る19社は合併により消滅するか、あるいは信用力強化のためスポンサー企業の交代を余儀なくされた。仮に、自力存続できるREITを「玉」、信用を失い淘汰されるREITを「石」だと称すれば、当時「石」の比率が45%にも達し、いつの間にか、玉石混合マーケットへ転落していたことになる。これは同時に、永きにわたり運用規律を維持し、投資家の信用を得て、不動産運用を継続することが、それほど簡単ではないことを表わしている。
ニッセイ基礎研究所は今年8月、不動産プレイヤーが「未来志向」と「顧客志向」の志を持ち、成熟した国内不動産市場で成長の機会を見出す「不動産ビジネスはますます面白くなる(日経BP社)」を上梓した。J-REITにとっての「未来志向」とは、目先の利益に囚われず長期的視野に立ったマネジメント、「顧客志向」とは投資主利益の最大化に言い換えることができる。J-REIT各社が7年後の東京五輪、8年後の市場創設20年の節目を「玉」のままに迎えることができるよう、「未来志向」と「顧客志向」の志で投資家の信認を高めていくことに期待したい。
(2013年10月30日「研究員の眼」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1858
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | J-REIT市場の動向と収益見通し。財務負担増加が内部成長を上回り、今後5年間で▲7%減益を見込む~シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し~ | 岩佐 浩人 | 基礎研レポート |
2025/02/07 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 基礎研マンスリー |
2025/01/24 | Jリート市場回復の処方箋 | 岩佐 浩人 | 研究員の眼 |
2024/12/04 | Jリートの不動産運用で問われる「インフレ対応力」 | 岩佐 浩人 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【順境のJ-REIT市場に死角はないか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
順境のJ-REIT市場に死角はないか?のレポート Topへ