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- 長寿時代を幸せに生きるために - いつまでも続く人間の「成長・発達」
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最近、興味深い本を読んだ。『おとなが育つ条件~発達心理学から考える』(東京女子大学名誉教授柏木惠子著、岩波新書、2013年7月)だ。同書によると、人間の成長・発達は子どもの問題として捉えられがちだが、人間は生涯発達を続けるもので、それは子どものみならずおとなの問題でもあるという。特に、長寿化する日本社会では、今後ますますおとなの成長・発達が重要な課題になるだろう。
子どもの成長・発達は、身長が伸びたり、語彙が増えたりと心身共に明確な形で発現するが、おとなの場合、年齢を重ねることが成長・発達を伴うのかどうかよくわからないことも多い。ましてや高齢期は心身の衰えが明らかになり、退化しているのではないかと思うことさえある。しかし、同書では、おとなの成長・発達は子どもとは異なった特徴を持ち、例えば、加齢と共に「忘れる」ことは、情報を選択し、それに基づいて総合的に考えてまとめる力が強まっていく、意味のある発達だという。
私は昔から人間の子育て期間はどうしてかくも長いものかと思っていた。馬は出産後数時間で立ち上がり駆け巡るではないか。同書は、人間の「生理的早産」、すなわち赤ちゃんが未熟な状態で生まれてくる結果、人間の成長・発達にとって生後の環境の影響が極めて大きくなったと指摘している。つまり人間は遺伝的要因以上に、生後の生育環境が成長・発達に大きな影響を与えるということである。
では、何がおとなの成長・発達を促すのか。おとなになる前提条件は、経済的・精神的自立だが、同書は、人間の発達には「個としての発達」と「かかわりの中での発達」があり、他者の心身の安寧のために心と体を使って働く「ケア」の心と力を備えることがおとなの必須条件だとしている。例えば、子どもを育てる体験では、子どもの気持ちや状態を汲み取り、寄り添う、新たな感性や力が身につくのだ。
また、おとなの成長・発達は高齢期の幸福と密接にかかわっている。同書では、発達の課題を自ら設定し、その実現に向かって努力することにより生涯にわたる成長・発達がもたらされ、いつまでも自分の存在や力が意味のあるものだと認識できることで幸福を感じるとしている。「自分とは何者か」「私はどう生きるか」というアイデンティティは、おとなにとって重要な発達課題であり、「どんな自分になりたいか」という自己認識がおとなの成長・発達を左右するというのだ。多くの人は仕事を通じてアイデンティティを形成するが、長寿社会は退職後に新たなアイデンティティを必要とする時代でもある。職業生活だけに限らず家庭や地域に複数の役割を持つことが、おとなの生涯の成長・発達を可能にし、これからの長寿時代を幸せに生きることにつながると、同書は教えてくれているように思う。
(2013年08月12日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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