コラム
2013年03月08日

ニート、グローバル人材、そして、中間層

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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実質経済成長率は6.6%、株価上昇率は30%を超えた。
   新興国の中でも目立って高い成長を達成し、海外の注目も飛躍的に高まっている国。

それがフィリピンである。

マカティ市をはじめマニラ首都圏の市街地はキレイで、車などで混雑しているものの、整っているという印象だ。それは、フィリピンに付随する治安が悪いといったイメージとはほど遠い。内需主導で高成長を達成し、タイやインドネシアといったASEANの国々と同様、どんどん豊かになっているというイメージの方がしっくりくる。


マニラ首都圏市街地


ジャカルタのデパート(モール)も多くの人で賑っていたが、マニラのモールはインドネシアを凌ぐ勢いである。平日の昼間から、スーパーやブティックは人でいっぱい。フィリピン人は消費性向が非常に高く、モールを歩いていると、買い物客の熱気、勢いが伝わってくる。


マニラ モール内部


ただ、フィリピンは他のASEAN主要国とは異なる特徴がある。
   例えば、タイやインドネシアでは年間100万台以上売れている自動車だが、フィリピンでは20万台程しか売れない

フィリピンでは中間層が少ないのだ。
   国全体としては確実に豊かになっているのだが、富は一部の裕福層に集中しているとも言われる。いわゆる格差社会になっており、都市部と農村部の格差だけでなく、都市部の中でも持つものと持たざるものの差は大きい。ボニファシオと呼ばれる地区のように先進国と見紛うような近代的な地域が開発される一方で、同じマニラ首都圏には所得が低い層が住む地域も存在する。
   こうした格差が進む最大の理由が、国内における職の少なさであるように思われる。特に大量の雇用に繋がる労働集約型の製造業が少ない。その結果、フィリピンでは職につけない、いわゆる、ニートが生まれている。


ボニファシオ地区


フィリピンでは、家族の中の何人かが家計を支えているというケースが少なくないようだ。
   一家の稼ぎ頭は、かなりグローバルに活躍している。フィリピンを出て海外で働く人は多く、国内に送る稼ぎはGDPの約1割に達する。それは、金額にして214億ドル、約2兆円に及ぶ。そして、金融危機の時ですら、この海外からの送金額は落ち込むことはなかった。着実に稼ぐ彼ら彼女らは、フィリピンの消費を支える大きな原動力でもある。海外で働くフィリピン人労働者は、家政婦、看護師、船員をはじめ職種は多岐にわたり、こうした労働者の一部は、フィリピン国内で不動産投資を行うほど余裕があり、(投資用として)コンドミニアムが売れるため、あちこちにビルが建設されているようだ。海外に進出していなくても、国内で海外企業のコールセンター業務や事務作業、英語講師など、グローバルな仕事に携わっている人が少なくない。もちろん、収入も少なくない。フィリピンの消費の強さは、こうした労働者の収入と、フィリピン社会に浸透しているといわれる「施し」の精神、いわゆる、金銭的に余裕があれば親戚や周りの金銭的に苦しい人を助けるという国民性に由来しているようだ。

ただ、この格差社会にも変化の兆しも見える。
   人手不足に悩み、人件費が高騰しているタイやインドネシアと異なり、最低賃金で人を雇えると言われるフィリピンは、労働コストの上昇が課題のグローバル企業にとって貴重な市場である。こうした労働力の確保のしやすさを背景に、近年、多くの外資系製造業が進出しはじめている。ニートが多いといっても、就職できる職業さえあれば働く人は多い。フィリピンの場合、特にホスピタリティの高さが大きな武器になる。

今までは、中国・インド・インドネシアなどの大国に隠れて「世界の工場」としてはそれほど脚光を浴びてこなかったフィリピンであるが、実際、隠れていただけで、その潜在力は大きいように思われる。フィリピンの中間層はまだ少ないが、製造業が増え、ニートだった労働者の多くが工場で働きはじめれば、本格的に中間層が増えていくだろう。その時のフィリピンの生産力・消費力は計り知れない。
   そして、先進国・新興国が冴えないなか、力強い成長を達成するフィリピンに、今、注目が集まっている。まさにダークホースと言える。

レースはダークホースが勝つからこそ面白い。ちょっと応援したくなる国である。


 
 これは、国の人口を考慮しても少ない。フィリピンの人口は9500万人で、インドネシアは2億4500万人、タイは7000万人である。
 2兆円はリーマンショック前のトヨタの営業利益に匹敵する水準。トヨタは当時、日本企業で初めて営業利益が2兆円を超えたということで話題になった。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2013年03月08日「研究員の眼」)

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