- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者の雇用・就労 >
- クルム伊達公子選手に学ぶ~世界に誇る中小企業の技術と技能の伝承~
先日、テニスの全豪オープン女子シングルス3回戦で、42歳のクルム伊達公子選手が21歳のボヤナ・ヨバノフスキ選手(セルビア)と対戦した。試合は、戦前予想されたとおり、力の限りエースを決めようとするヨバノフスキ選手に対して、伊達選手が熟練の技で対抗する展開となった。左右前後に打ち分け、伸びる球があれば、落ちる球もあるといった、まさに技のオンパレードのような伊達選手のストロークを見ながら、私はふと、伊達選手の1ストローク、1ストロークに、21歳の後輩に対する技術と技能の伝承のメッセージが込められているのではないかと感じた。
さて、産業界においては、団塊の世代が60歳を迎え始めた2007年に、技術と技能の伝承が「2007年問題」として注目を集めた。この時には定年延長や再雇用等の対応により、問題は表面化しなかったが、問題が解決されたわけではなく、団塊の世代が65歳を迎え始めた現在でも、企業、特に中小企業にとって、技術と技能の伝承は経営上の大きな課題として残っている。
2012年9月に、大阪市信用金庫が中小製造業を対象に実施したアンケート調査*によれば、「自社にとって基幹的ともいえる重要な技術が、60歳を超えた高齢の従業員に偏在している状況がある」と答えた企業が94.0%にのぼった。一方、「若手への技術継承が問題なく進んでいる」と答えた企業は12.5%にとどまっており、「若手への技術継承」の進み具合が十分とはいえない状況にあるという結果となっている。「技術継承が進まない理由」としては、「継承すべき若手がいない」が47.0%でもっとも多く、「多忙で手が回らない」の33.1%、「従業員が継承に消極的」の17.5%が続いている。
中小企業にとって、自社の活動を支える基幹的な技術と技能を磨き、育て、伝承していくことは、まさに経営そのものであり、それが停滞した時、また失敗した時には、即、事業縮小や事業存続の危機に直面する。しかし、多くの中小企業は売上の増加や黒字の確保といった目前の課題に追われて、技術と技能の伝承という課題に対して、自ら有効な対策を講じ得ていないのではないだろうか。中小企業自身を守るとともに、世界に誇るその技術と技能を守るために、技術と技能の伝承に必要な、雇用の促進や人材の供給、ノウハウ情報の提供、さらに資金の支援等について、国や地方公共団体等による、より一層強力な支援が求められている。
試合後、ヨバノフスキ選手は「あんな42歳になりたい」と言った。試合には敗れたが、伊達選手の技術と技能はヨバノフスキ選手にしっかりと受け継がれたのではないだろうか。
山田 善志夫
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月25日
欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析- -
2024年04月24日
中国経済の現状と注目点-24年1~3月期は好調な出だしとなるも、勢いが持続するかは疑問 -
2024年04月24日
人手不足とインフレ・賃上げを考える -
2024年04月24日
米国でのiPhone競争法訴訟-司法省等が違法な独占確保につき訴え -
2024年04月23日
他国との再保険の監督に関する留意事項の検討(欧州)-EIOPAの声明
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【クルム伊達公子選手に学ぶ~世界に誇る中小企業の技術と技能の伝承~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
クルム伊達公子選手に学ぶ~世界に誇る中小企業の技術と技能の伝承~のレポート Topへ