- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- >
- 運用リスク管理 >
- 市場参加者の合意が意味を持つ範囲-50円玉の穴を通して考える
市場参加者の合意が意味を持つ範囲-50円玉の穴を通して考える
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
「エラーコイン」をご存知だろうか。鋳造ミスと検品ミスが重なり、規格外れの形状で流通してしまった貨幣のことである。5円玉や50円玉には穴が開いているが、穴が開いていないものや、その位置がずれているもの等があるらしい。造幣局とはいえ、人間のすることにミスは付きものである。規格外れの貨幣が流通していること自体には驚かないが、それが相当高い価格で取引されていることを知り驚愕した。規格外れの程度により価値が異なるようだが、穴の位置が数ミリずれているだけで数万円の値が付くらしい。数ミリ程度の差なら気づかず使ってしまった可能性もある。無駄だとはわかっていても、捕ったもののリリースしてしまったかもしれない狸の皮算用をしてしまう。
さて、会計用語に「公正価値」というものがある。公正価値とは評価日において市場参加者間で秩序のある取引が行われた場合に受け取る(または支払う)であろう価格である。50円玉のエラーコインが数万円で取引されるなか、別のところでは同様のエラーコインがその価値に気づかれず50円で取引されているかもしれない。ならば、エラーコインの公正価値はいくらだろうか。その答えを導くカギは「市場参加者の要件」にある。全ての入手できる情報に基づき、取引について合理的な理解を有していることが市場参加者の要件として定められている。価値を知らずに50円で取引した当事者は、全ての入手できる情報に基づき取引したとは考えにくい。ならば、エラーコインの公正価値は数万円ということだろうか。
では、50円玉のエラーコインを銀行で両替するとどうだろう。エラーコインが高値で取引されている事実を行員が知っていたとしても、50円として取り扱われるのではないだろうか。もちろん、親切にコインショップへ持っていくことを勧めてくれるかもしれないが、公正価値は必ずしも真の価値と一致しない。しかし、実際は真の価値が分からないので、真の価値に近かろう値として公正価値が必要とされる。真の値に近かろうと思われる拠所は、現時点で知りえる情報を全て用い、かつ取引に関する合理的な判断が出来る複数の市場参加者が価値を判断し、合意に至った事実であることは言うまでも無い。
注意が必要なのは、現時点で知りえる情報のみを利用している点である。仮に、これまで検品により流通させず貯蔵していたエラーコインを一斉に流通させるなどの発表があれば、エラーコインの価格は下落するだろう。公正価値は現時点で最も真の価値に近いと思われている値であり、決して真の価値では無い。より有用な情報が入手されると、市場参加者の価値判断はいともたやすく変化することを忘れてはいけない。
市場取引が盛んでない金融派生商品などの価値評価を行う際も、やはり市場参加者の合意が重視される。現時点の価格を評価することが目的なのだから、至極当然の話である。しかし、将来予測についても市場参加者の合意を重視することに意味があるかと問われると困ってしまう。
現時点で知りえる情報を最大限生かして将来を予測していると言われれば、重視すべきだとも思えなくもない。しかし、将来予測という点では、将来どのような情報が得られるかといった不確実要素の影響が多分にある。加えて、一般に人は不確実性を嫌うため、不確実性の程度だけでなく市場参加者の不確実性を嫌う程度に応じて価格は減価される。厄介なことに市場参加者の不確実性を嫌う程度もその時々で変化する。そう考えると、現時点の市場参加者の合意に基づく価格情報を将来予測において参考にすることに意味はあっても、参考の域を超えないのではないか。裏を返せば、市場参加者の合意に基づく価格情報を将来予測に用いたところで、予想的中率が大幅にアップすることは期待できない。市場参加者とはいえ人間なのだ。
(2013年01月16日「研究員の眼」)
03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/12/06 | ふるさと納税の新たな懸念-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 | 高岡 和佳子 | 基礎研マンスリー |
2024/10/11 | ふるさと納税の新たな懸念-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2024/07/03 | 長期期待運用収益率を変更した企業の特徴とは | 高岡 和佳子 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/04/26 | 滞留するふるさと納税 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年12月13日
ECB政策理事会-3会合連続となる利下げを決定 -
2024年12月13日
インド消費者物価(24年11月)~11月のCPI上昇率は4カ月ぶりに低下、食品価格の高騰がやや緩和 -
2024年12月13日
海底資源探査がもたらす未来-メタンハイドレートと海底金属 -
2024年12月13日
日銀短観(12月調査)~景況感はほぼ横ばい、総じて「オントラック」を裏付け、日銀の利上げを後押しする内容 -
2024年12月13日
グローバル株式市場動向(2024年11月)-トランプ氏の影響で米国は上昇するが新興国は下落
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【市場参加者の合意が意味を持つ範囲-50円玉の穴を通して考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
市場参加者の合意が意味を持つ範囲-50円玉の穴を通して考えるのレポート Topへ