- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- ライフデザイン >
- 学パラッチが新しい職業として脚光?-高い教育熱や私教育費の増加がもたらした現象
学パラッチが新しい職業として脚光?-高い教育熱や私教育費の増加がもたらした現象
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
日本のセンター試験に当たる韓国の「大学修学能力試験(以下、修能)」、の実施日が1カ月後に(11月5日)迫ってきた。韓国の受験事情はとても厳しいが、その大きな原因になっているのがこの「修能」である。修能は大学に入学するための一発勝負であり、修能の出来次第で希望する大学に行けるかどうかがほぼ決まると言っても過言ではない。修能前日には受験生に縁起のいいと言われている飴やお餅のような合格祈願のグッズが飛ぶように売れ、修能当日には試験に遅れた受験生が警察のパトロールカーや白バイにより試験場に運ばれる。また、マスコミは修能の一日の様子や試験問題の難易度等を頻繁に報道する。まさに修能は国を挙げての一大行事である。
このような韓国の厳しい受験事情を反映するように、韓国では最近新しい仕事が脚光を浴びようとしている。その仕事の名前は、パパラッチから影響を受けた「学パラッチ」である。「学パラッチ」とは学院パパラッチの略語で、私教育を提供する民間の塾などの違法行為を監視・申告することにより褒賞金を稼ぐ仕事である。
「学パラッチ」が誕生した背景として、韓国の高い教育熱が挙げられる。韓国では子どもをよりよい大学に進学させるために、学校教育以外にも放課後や週末に民間の塾に通わせるのが一般的であるが、このような競争は加熱の一途にあり、私的な教育費の負担は毎年増加している。OECD(2012)1調査によれば、韓国における公教育費の対GDP比は8.0%とOECDやEU平均より大きい。さらにそのうち、民間負担の割合は、38.8%でOECD平均14.3%やEU平均8.3%を大きく上回っている(図表)。
一方、私教育の提供者である塾の中には、塾費の過剰徴収や深夜教習の違反等不法行為が増加しており、韓国政府はその対策として、2009年7月から「学院等不法運営申告褒賞金制」を実施している。同制度は、塾等の不法行為を申告した個人に対し、一定の褒賞金を支給しており、制度の実施以降申告件数や褒賞金の支給が継続的に急増している。2009年7月から2011年6月までの間に申告された塾等の不法・脱法件数は合計56,351件であり、このうち、10,041件に対して38億7,900万ウォン(約2億7,000万円)2の褒賞金が支給され、一人当たり褒賞金の平均額は3,100万ウォン(約215.8万円)に達した。トップの褒賞金獲得額は2億9,900万ウォンで、この金額を1年間に直すと1億4,450万ウォンであり、給与所得者の平均所得2,222万ウォンを大きく上回っている。
現在、学パラッチは簡単にお金が儲けられる仕事として脚光を浴びており、学パラッチを養成する養成所が全国に20ヶ所を超えているという。新しい仕事の増加は、雇用の場を広げ、労働市場を元気にするので望ましいことであるのだが、学パラッチの登場は現在韓国が直面している教育の問題点が明確に現れているようで、なぜか釈然としない。
(2012年09月26日「研究員の眼」)
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/07/09 | 日本の少子化の原因と最近の財源に関する議論について | 金 明中 | ニッセイ基礎研所報 |
2024/06/13 | 【アジア・新興国】韓国の生命保険市場の現状-2022年と2023年のデータを中心に- | 金 明中 | 保険・年金フォーカス |
2024/05/17 | 韓国政府と医療界が医学部の入学定員増案で対立、医療空白が長期化-日本の事例を参考に事態の解決を- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2024/05/09 | 韓国の出生率が0.72で、8年連続過去最低を更新-若者の意識を的確に把握し有効な対策の実施を | 金 明中 | 基礎研マンスリー |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月15日
今週のレポート・コラムまとめ【10/8-10/11発行分】 -
2024年10月11日
貸出・マネタリー統計(24年9月)~金融政策正常化を受けてマネタリーベースが前年割れに、貸出の伸びは円高で抑制 -
2024年10月11日
グローバル株式市場動向(2024年9月)-中国株は経済・不動産市場支援策により急騰 -
2024年10月11日
米国における法定責任準備金評価利率を巡る動向-金利の上昇を受けて、10年ぶりに2025年から0.5%引き上げられる- -
2024年10月11日
中期経済見通し(2024~2034年度)
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【学パラッチが新しい職業として脚光?-高い教育熱や私教育費の増加がもたらした現象】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
学パラッチが新しい職業として脚光?-高い教育熱や私教育費の増加がもたらした現象のレポート Topへ