コラム
2012年09月03日

60歳代後半の「働き方」(その3)-成立した高年齢者雇用安定法改正案-

青山 正治

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8月29日、60歳の定年後に希望者全員の雇用を義務付ける高年齢者雇用安定法改正案が参議院で可決、成立した。現在の高年齢者雇用安定法(2006年度施行)では、企業が労使協定などで基準を設けることによって、定年後に継続雇用制度適用を希望者する人の中から、制度を適用する人を選ぶことが出来た。しかし、法改正により、2013年度からは継続雇用制度の適用希望者全員を雇用することが義務付けられる。この改正の主な目的は、2013年度以降、会社員の厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が、暫時、65歳まで引き上げられた時に、希望したにもかかわらず継続雇用制度を適用されない人が、無収入・無年金の状態に陥ることを防ぐことである。

厚生労働省公表の「平成23年『高年齢者の雇用状況』(6月1日現在)」によると、過去1年間の定年到達者(43.5万人)のうち、定年後に継続雇用された人は32万人(73.6%)、継続雇用を希望しなかった人は10.7万人(24.6%)、継続雇用を希望したが基準に該当しないことにより離職した人は7.6千人(1.8%)となっている。来年度以降の状況を考えると、経済環境は一部産業を除き厳しい状況が続いており、中高年齢者の再就職環境も厳しい。このため、年金(報酬比例部分)支給開始年齢の引き上げに応じて、継続雇用制度の適用を希望する人が増加した場合、企業経営への影響は甚大なものとなろう。

継続雇用制度の希望者が大幅に増加すると予想した場合、企業としては継続雇用制度の適用を受ける人の働き方や給与体系に多くの工夫が必要となろう。短時間・短日勤務とワークシェアリングやジョブシェアリング(例えば、1つの仕事を2人でシェアするなどの方法)、それも技能伝承のために若年層と組み合わせる等の多様な働き方を検討していかなければならない。また、早朝勤務や休日・祝祭日に高齢者の勤務を割振ることを可能とする勤務体制作り等、企業の経営効率の改善と継続雇用の高齢者の働き方に対する希望とを、より最適な形で組み合わせる方策の検討も必要である。厚生労働省では独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構と共催で、「高年齢者雇用開発コンテスト」を毎年実施しており、様々な高齢者雇用の工夫を実現している企業事例も公表されているので、検討の参考とすることができる。

一方、中高齢者層の中には、今までとは異なる仕事がしたいとする割合も一定程度あるように思われる。この点では過去の執筆物(「研究員の眼」:60歳代後半の「働き方」 (その1)(その2))で触れた、60歳代後半の働き方のうちの、「第三の働き方」、地域のシルバー人材センターで働くことや、コミュニティ・ビジネスや有償ボランティア等の受け皿をより創出し拡大することで、60歳定年以降の就業や就労機会をも大きく多様化させ、定年退職者等が自身のライフスタイルに適した多様な働き方や活動の選択肢の幅を増やすことが可能となるような方策が重要性を増してこよう。産学官や地域社会が連携し、高齢者が健康や生きがいの維持・獲得を目指して、地域で、また、60歳代後半まで自身の希望する仕事の内容と働き方で、第二の働く人生を送ることのできる、「第三の働き方」の創出が、今まさに求められている。

いずれにしても、現在のままの社会システムの延長上に活力ある超高齢社会を築くことはいささか難しいのではないだろうか。マジョリティとなる高齢者層の潜在力を最適な形で社会全体に還元し、活性化していく、新たな社会システムの構築を急ぐ時期を迎えている。

(2012年09月03日「研究員の眼」)

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青山 正治

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