コラム
2012年07月26日

日本再生戦略と高齢化対策

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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2012年7月に政府より2020年までの成長戦略を盛り込んだ「日本再生戦略」の原案が公表された。この中には、将来の経済社会のあるべき姿として、日本が有するあらゆる資源・能力の創造的結合によって新たな価値を創出していく社会、「共創の国」づくりの必要性が謳われるとともに、環境や医療、観光など11の戦略分野で38の重点施策が盛り込まれている。日本の活力を復活させ社会を再生していくことは、産業界、経済界のみならず国民すべての願いであり、着実な計画遂行により国民生活・社会が好転していくことを大いに期待したい。
   しかしながら、ジェロントロジー(高齢社会総合研究)の観点からは、2つの点で物足りない。日本は高齢化最先進国であり、世界に先駆けて先例のない様々な高齢化課題を解決していかなければならない立場にあるにも関わらず、そうした取組み視点や主張が足りない。人口の高齢化という社会構造変化を日本の発展のチャンスと捉えていくメッセージと取組視点をもっと取り入れるべきである。そこで次の2つの戦略の視点について進言したい。

(1)高齢者雇用のイノベーション ~生涯現役社会づくりに向けた地域雇用の推進
   一つは、高年齢者雇用対策として掲げられている「生涯現役社会の実現」という目標を、経済の活性化や社会保障財政との関係からも重要な国策として位置づけ直し、その達成に向けた戦略を講じるべきということである。本戦略の原案の中では、今後の日本社会の姿として、誰にも「居場所」と「出番」がある社会の実現を目指す、全員参加型社会にしていくことを掲げているが、その具体策(視点)としては、若者・女性の雇用拡大、及び中小企業の潜在力の発揮といったことまでで、高齢者の活躍に関する言及がない。もちろん若者・女性の雇用問題等は重要であるが、今後国民の3人に1人が高齢者となるような超高齢社会を見据えれば、その領域を侵さない形で高齢者の新たなさらなる活躍を期待すべきであろう。
   2012年から団塊世代が65歳に到達し始め、現役の生産労働からリタイアしていく高齢者は今後ますます増加する。そうした高齢者が一人でも多く引き続き「生産者」であり「納税者」となり、積極的な「消費者」になっていくことが、経済社会にとって望ましいことは明らかである。高齢者本人にとっても望ましいことである。高齢化に伴う社会保障費財政の圧迫を食い止める最善策は、元気で健康で生産的に活躍し続ける高齢者を増やすことと言っても過言ではなく、それだけに高年齢者雇用対策の強化を通じ、生涯現役として活躍できる場所を拡充させることが日本再生に不可欠なことと考える。
   具体的に求められる取組みは様々考えられるが、ここでは筆者も参加して取組んでいる千葉県柏市における「生きがい就労事業」に見られるような“高齢者の就労ニーズと地域課題解決をマッチングさせる新たな仕組みの創造”を挙げておきたい。そうした環境整備が整い、「リタイアした後は地域で活躍・貢献する」という生き方を志向する人が増えれば、今後迎える超高齢社会もより安心で豊かなものになっていくに違いない。この点、シルバー人材センターの今後のあり方とともに対策を講じていくことが望まれる。

(2)シルバーイノベーション ~高齢者の生活ニーズを満たす商品サービス開発の推進
   もう一つは、シルバーイノベーション、つまり高齢者の生活ニーズを満たす商品サービス開発の推進である。戦略の原案の中では、環境の変化に対応した新産業・市場の創出視点として、グリーンイノベーション(環境関連)とライフイノベーション(医療関連)及び科学技術関連と中小企業関連の4つが挙げられているが、ここにシルバーイノベーションがない。非常に不思議である。高齢化という社会変化の問題をすべてライフイノベーションに集約させたような格好であるが、想定する新市場はあまりに限定的で、高齢者市場を矮小化して見すぎているように受け止められる。
   確かに医療や介護の問題は顕在化していて、その理想的な解決が求められるが、市場の拡大はそこだけではない。硬いものが食べづらくなる、体が硬くて足の指の爪が切れない、外出時のトイレが困る、駅の切符の販売機がわかりづらい、雨の日は転倒が不安で外出したくない等、様々小さな困りごとを一つひとつ解決する視点から、独りになっても楽しく安心して快適に暮らせる、足腰が弱っても思い通り自由に移動できる、いつまでも人と人とのつながりに満たされている等、希望する様々なニーズを満たす視点まで、高齢者市場の開拓余地は広い。さらに、戦前・戦中を過ごした今の高齢者のニーズと団塊世代及び若中年世代のニーズは異なっていくと考える中では、新たなニーズにもとづく新市場の拡大が期待される。その結果、おそらく今後迎える将来の高齢期の生活環境は、後者世代の強い要請に応じる形で今まで以上に安心で快適なものとなっていくであろうし、そのような生活環境を築いていかなければならないと考える。
   こうした新たな高齢期の未来生活を創造するチャレンジの一つひとつがシルバーイノベーションであり、日本の再生及び発展に欠かせない戦略要素と考える。

以上のことは、安心で活力ある豊かな長寿社会を創造していくために必要な社会の取組み視点であり、国民が望むよりわかりやすい日本再生戦略の一つになるのではないだろうか。

 
 

 

(2012年07月26日「研究員の眼」)

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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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