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- 少額短期保険業者にディスクロージャーの充実を望む-いっそうの発展に向けて-
我が家にはミニチュアダックスがいる。名前は韓国ドラマのヒロインからいただいた。彼女はペット保険の被保険者である。保険を研究する身でありながら恥ずかしい限りだが、ペットショップで勧められるままに契約した。少額短期保険業者の商品であった。
少額短期保険業は少額の保険金額(病気死亡保険金300万円以下、損害保険金1,000万円以下等)の短期(生保・医療保険1年以内、損保2年以内)の保険を引き受ける保険業である。いずれの監督にも服さず保険類似業務を行う「根拠法のない共済」が増加したことに対応して、2006年4月に保険業法が改正され、少額短期保険業という新たな業態が設けられた。責任準備金の積立、早期是正措置の適用、ディスクロージャー等、業務運営面では保険会社に準じた規制が適用されるが、最低資本金が1,000万円ですみ内閣総理大臣(実際は財務局)に登録すれば開業できる等、開業面では保険会社に比べ緩やかな規制に服している。
業態誕生から6年、2012年6月現在の少額短期保険業者数は69社(財務局登録数)である。日本少額短期保険協会の資料によれば、2010年度の業界全体の業容は、保険料収入が466億円で2009年度に比べ12.2%増加、年度末保有契約件数が425万件で2009年度末に比べ8.5%増加と、順調に拡大している。2009年度決算では3分の2の会社が赤字決算だったが、2010年度には半数以上の事業者が黒字化を達成したという。
少額短期保険業の商品レンジは幅広い。日本少額短期保険協会は商品領域を、「家財・賠償」、「生保・医療」、「ペット」、「費用・その他」と大まかに区分して、各領域の商品を提供している会社数、各領域の契約件数を次表の通り開示している。
各社の商品は、小口かつシンプルであるが、多様性に富んでいる。「糖尿病患者のための保険」、「知的障害者向けの保険」、「コンサートチケットを買ったが突発的な事情で行けなくなったときの保険」など、既存の生保会社や損保会社では、市場が小さすぎる、リスクが大きすぎると二の足を踏んでいたであろう商品が、小規模ゆえの機動力やパイオニア精神により開発、販売されており、楽しくなる。 既存の保険会社の中には、少額短期保険業者を子会社として保有し、新たな分野に乗り出す会社もある。少額短期保険業者が保険会社に業態転換する例も出てきた。少額短期保険業は、保険会社のニーズ対応の実験場としても目が離せない市場となっている。
ここで、今後の発展を期待する故に少額短期保険業界にぜひとも望みたいことがある。それはディスクロージャーのいっそうの充実である。少額短期保険業者の情報開示について、保険業法は保険会社に対すると同じく 「事業年度ごとに、業務及び財産の状況に関する事項を記載した説明書類(ディスクロージャー資料)を作成し、本店、主たる事務所を含む営業所、事務所に備え置き、公衆の縦覧に供しなければならない」と規定している。しかし少額短期保険業者はその小規模性ゆえ、営業所、事務所数が少ないことが通例であろうから、顧客がディスクロージャー資料を目にする機会は少なくなる。そこで望まれるのが、インターネット上にディスクロージャー資料が開示され、契約者や加入を検討している消費者がインターネットを通じてディスクロージャー資料を閲覧し、各社の業績動向や財務内容を確認できるようにすることである。少額短期保険業界でも対応が進められていて、年々充実の度合いが増しているが、筆者が日本少額短期保険協会のホームページからリンクされている64社のホームページにとび、ディスクロージャー資料のインターネット開示状況をざっと調べてみたところでは、ディスクロージャー資料をダウンロードできるようにしている会社が25社、決算広告(貸借対照表と損益計算書のみ)を開示している会社が23社、これらの開示を行っていない会社が16社という状況であった。
事業者の中には、コストのかかるディスクロージャーよりも、余分なコストを削って低廉な価格で消費者のニーズにあったよい商品を提供することの方が大切であるという発想もあるかもしれない。しかし保険商品は形がないので、消費者は事業者を信頼できなければ商品購入に踏み切れない。特に少額短期保険業の場合、新たなニーズに対応した前例のない商品で新規に開業する会社も多いことから、経営の安定性を確認できることの意味合いは大きい。「保険業法に基づき誕生した保険制度であり、各社は財務局の登録審査を経て事業を開始していますので安心です。現在、セーフティネットは導入されていませんが、これは『少額』『短期』な保険分野であるからです。(日本少額短期保険協会『少額短期保険ハンドブック』より)」という説明も一理あるが、さらにより多くの会社がディスクロージャー資料のインターネット開示を進められ、消費者とのコミュニケーションを深められることを期待したい。そうすれば、ますますの発展が訪れるはずである。
(2012年06月28日「研究員の眼」)
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