コラム
2012年02月03日

中高年男性の介護とワークライフバランス~“大介護時代”への対応

土堤内 昭雄

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1月末に国立社会保障人口問題研究所が、平成22年の国勢調査結果が確定したことを受けて、新たな日本の将来推計人口を発表した。それによると2060(平成72)年にはわが国の人口は現在の1億2,806万人から8,674万人へ32.3%減少する。そして15歳未満の年少人口は1,684万人から791万人へ53.0%減、15~64歳の生産年齢人口は8,173万人から4,418万人へ45.9%減、逆に65歳以上の老年人口は2,948万人から3,464万人へ516万人(17.5%)増加し、高齢化率は39.9%に達する(いずれも出生・死亡中位推計)。

そこには総人口が3割減り、子どもと現役世代が半減し、社会全体の4割が高齢者になる50年後の日本の姿が浮き彫りになっている。そして老年従属人口指数(老年人口/生産年齢人口)は36から78へ上昇し、ひとりのお年寄りを2.8人の現役世代が支える「騎馬戦型」からひとりのお年寄りを1.3人の現役世代が支える、いわゆる「肩車型」への社会的扶養構造の変化がみてとれる。

特に今年は1947~49年生まれの団塊世代が高齢者となり始める年である。2010年現在の1947年生まれの人は213万人、48年生まれは224万人、49年生まれは226万人で、この3年間に600万人以上が高齢者になる計算だ。そして10年後にはこれらの人たちが75歳以上の後期高齢者に加わり始めるのだが、それは一体何を意味するのだろう。

2009年度末現在の公的介護保険の65歳以上被保険者は2,892万人、そのうち要介護(要支援)認定者は16.8%の485万人だ。65歳から74歳までの前期高齢者の認定者割合は4.2%(要支援1.2%、要介護3.0%)で、75歳以上の後期高齢者は29.4%(要支援7.5%、要介護21.9%)と要介護出現率は前期高齢者の7倍にも上る。すなわち介護という点では後期高齢者一人の増加は前期高齢者が7人増加することに相当し、10年後に団塊世代が後期高齢者になると、日本はまさに“大介護時代”を迎えるのである。

先日、自治体職員のワークライフバランス研修会で講演する機会があった。対象は部課長級管理職で中高年男性が中心だった。これまで管理職向けのワークライフバランス研修というと、部下の若年職員が「仕事と子育ての両立」を図るために如何に人事・労務管理を行うかといった、次世代育成支援や少子化対策の視点から組織マネジメント論が語られることが多かった。今回も主催者側から提示された講演タイトルは、「ワークライフバランス~これからの組織運営に求められること」であった。

もちろんこのような視点は重要であるが、私はあえて「ワークライフバランス~幸せになる働き方」という演題で講演に臨んだ。そして、講演の冒頭に多くの管理職参加者に対して、『部下のワークライフバランスからご自身のワークバランスを考えてほしい』と切り出した。それはこれまで少子化対策として「仕事と子育ての両立」がワークライフバランスの重要な論点であったように、これから高齢化が一段と進むなかでは「仕事と介護の両立」が重要な視点に加わるからだ。職場のワークライフバランスの実現は、誰もが幸せに働くための若年層から中高年層までを含む世代を超えた課題となる。

今後、介護サービスの拡充は図られるだろうが、それだけでこの大介護時代を乗り切ることは困難だ。家族・親族のインフォーマルな介護支援が不可欠となろう。また、男性の生涯未婚率(50歳まで結婚していない人の比率)が急速に高まっており、2010年には19.8%、2020年には4人にひとりが生涯未婚になると推計されている。そうなると老親の介護が企業や自治体の中枢を担う中高年男性にも重くのしかかってくるのである。講演でこの点に触れた時、会場にはそれまでになかった緊張感が走った。それは多くの中高年男性管理職にとって介護問題とワークライフバランス実現の必要性とが結びつき、“大介護時代”が対岸の火事ではなく、自らが当事者であることを実感した瞬間だったように思われた。
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2012年02月03日「研究員の眼」)

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