コラム
2003年07月22日

株価上昇への悲観と楽観

櫨(はじ) 浩一

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1.株価の急回復

4月28日に7,600円台ギリギリに低下した株価は、7月8日には一時1万円台を回復した。株価が上昇したことによって、企業や消費者のマインドも改善するだろうし、好影響が期待できる。株価の上昇の背景には、もちろん米国景気回復の期待が高まり、NYダウやNASDAQが上昇していることがある。大きな要因は、りそな銀行への公的資金注入に際して、100%減資を行わないという方針が、銀行株保有のリスクを大きく軽減したことだろう。

しかし、株価がこのまま上昇を続けるためには、3つの関門を通過しなくてはならない。第一は米国経済が期待されているとおり順調に回復すること、第二は円高・ドル安が回避できること、第三は夏のボーナス減少の消費へのショックが小さいことだ。残念ながら株価の上昇による心理的好影響があっても、夏の消費が落ち込む可能性が大きく、このほかにも第一、第二の関門を通過しなくてはならないことを考えると、このまま株価の上昇が続かない恐れが大きいだろう。


2.楽観ムードのもたらす危険

こうした景気の見方を述べることは、せっかくの上昇ムードに水を差すものであり、悲観的過ぎると受け取られることも多い。しかし、ムードは明るくなっているが、日本経済を取り巻く環境が大きく改善したわけでも、日本経済が抱えている問題が急に解決したわけでもない。企業が本業で利益をあげても株価がどんどん下落してしまい、その穴埋めに四苦八苦するという状況は無くなったが、物価が下落するというデフレの問題や経済の低迷はそのままなのだ。株価の上昇ですべて解決したような気になって、日本経済が抱える問題への取り組みがおろそかになる方がよほど恐ろしいではないか。


3.見かけの悲観は真の楽観

そもそも、見かけの楽観・悲観が、実際の中身についての楽観・悲観と一致しているわけではない。大体エコノミストという人種は性格がひねくれていて、人類の高邁な理想とか精神に対して、そんなことはできないなどと、冷や水を浴びせるのは日常茶飯事である。だがその皮肉の背後には、問題を正しく認識して解決しようという意図が隠されている。つまりエコノミストの悲観には、こうした問題は解決できるはずだという楽観が秘められているのである。私に言わせれば、「楽観論を言う人ほど将来に対して悲観的であり、逆に悲観論を言えるというのは、それだけ問題への対応力を楽観しているからだ」ということになるのだが、これも天の邪鬼(あまのじゃく)なエコノミストの発言ということになるのだろうか?


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