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2025年03月28日

OPECプラスの軌跡と影響力~日本に対抗策はあるのか?

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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1―OPECプラスの概要と軌跡

1概要
OPECプラスは、中東・アフリカ等の主要産油国から成る石油輸出国機構(以下、OPEC)加盟国と、OPEC非加盟の主要産油国から成る生産協調体制である。現在の加盟国は、OPEC12カ国に非OPEC11カ国1を加えた23カ国となっており(図表1)、2024年の合計産油量2は日量4900万バレル強、世界の全生産量に占める割合は50%弱に達する(図表2)。ただし、加盟国間の原油生産量のバラツキは大きく、サウジアラビア(以下、サウジ/2024年平均生産量:日量1072万バレル)、ロシア(同1053万バレル)の生産量が突出して大きい。OPECプラスに公式なリーダー国というものは存在しないものの、生産量の大きさを背景に両国が実質的にリーダー的な立場となっている。その一方で、スーダン(同4万バレル)や南スーダン(同8万バレル)をはじめ、生産量が日量数万~10万バレル程度に過ぎない小規模な産油国も多く含まれている。
(図表1)OPECプラス参加国の原油生産量(2024年)/(図表2)世界の原油生産量
OPECプラスの目的は「原油市場の安定」であり、そのために協調して生産量の調整を行う。良く言えば、原油需給のスイング・プロデューサー(調整弁)なのだが、後述の通り、実質的には原油価格の底上げ・下支えのための国際的なカルテルの色彩が強い。国家が主体となって、輸出品の国際価格の調整を図る極めて異例の存在と言える。

OPECプラスの各加盟国は、特別に減産除外を認められた国3を除き、加盟に伴って合意された生産枠に沿った減産を行う責務を負う。一方で原油市場を巡る情報収集の面でメリットがあるほか、自国の意見を全体の合意に反映させられれば、市場における自国の影響力を増幅させることが可能になる。

宗派の異なるサウジとイランは長年敵視し合っており、2016年1月から2023年3月には国交を断絶していたほどの間柄だが、その両国が(OPECならびに)OPECプラスの枠組み内に同居し続けている点は、OPECプラスに属することで得られる経済的メリットの大きさをうかがわせる。
 
1 ブラジルは政府が2025年2月にOPECプラスへの加盟を承認。生産調整義務を負わないオブザーバー参加となっている。
2 リースコンデンセートなど類似液体燃料を含むベース。なお、原油生産量は捕捉が難しいことから、各国際機関(OPEC、IEA、EIAなど)で数値に差がある点は留意要。
3 イラン、リビア、ベネズエラは減産を除外されている。もともと制裁や紛争で生産に支障を抱えていたためと推測される。
2発足の経緯
OPECプラスは2016年12月10日のOPEC及び非OPEC閣僚会議での合意を受けて発足した。

もともと、サウジをはじめとする中東・アフリカ等の主要産油国は1960年に石油メジャーに対抗する主旨で設立されたOPECの枠組みのもとで協調生産を行っていたが、2000年代後半に米国でシェール革命4が起こり、以降、主に同国の生産量が急増したことでOPECの市場シェア及び原油価格に対する影響力が低下した。さらに、新興国経済の減速も相まって、2015年から2016年にかけて原油価格は低迷が続いていた。このため、OPECはロシア等の主要産油国を新たに生産調整の枠組みに取り込むことで市場への影響力を取り戻し、価格を下支えすることを狙ったものとみられる。
 
4 従来は商業的な採掘が困難と考えられてきた頁岩(けつがん、シェール)層という固い地層に含まれる石油や天然ガスを採掘できる「水圧破砕」などの新しい技術が開発され、石油・天然ガスの生産拡大が起きた現象を指す。
3発足後の動向
OPECプラスは発足と同時に減産を決定し、以降も機動的に減産の実施・拡大と縮小による生産調整を継続してきた(図表3)。基本的に、世界の原油需給が緩和して原油価格が下落する局面では減産を実施・拡大する一方、需給がタイト化して価格が上昇する局面では減産の縮小を実施してきた。産油国にとって原油価格の上昇は好ましいことだが、過度に上昇すれば、世界経済が原油高に耐えられなくなり、需要の減退・価格の急落に繋がる恐れがある。また、原油価格が上昇すれば、下支えの意義が薄れて加盟国からの減産縮小要求が強まることも減産縮小を行う背景にある。

ちなみに、現在はOPECプラスとして世界需要の6%弱に相当する日量586万バレルの減産を行っているが、このうち有志国8カ国5が2024年1月から自主的に行っている日量220万バレルの自主減産部分については4月以降、18カ月かけて段階的に縮小し・収束する方針が決定されている。一方、それ以外の日量366万バレルの減産は2026年末まで継続される予定となっている。
(図表3)OPECプラス原油生産量と主な政策決定

<発足以降の主な生産方針決定>
・2016年12月:翌年1月からの日量約180万バレルの減産開始を決定(以降2度延長)
・2018年6月:同年7月からの合意枠を超える減産分の是正(=実質的に日量数十万バレルの増産)を決定
・2018年12月:翌年1月からの日量120万バレルの減産を決定
・2019年12月:翌年1月からの日量50万バレルの減産拡大を決定
・2020年3月:追加減産を巡る協議が不調に終わり、減産終了
・2020年4月:同年5月からの日量970万バレルの減産実施を決定
・2020年7月:同年8月からの日量200万バレルの減産縮小を決定
・2020年12月:翌年1月からの日量50万バレルの減産縮小を決定(以降、段階的に減産の縮小を決定・実施)
・2022年10月:同年11月からの日量200万バレルの減産実施を決定
・2023年4月:同年5月からの日量166万バレルの追加減産を決定(有志国による自主減産の位置付け)
・2023年11月:翌年1月からの日量220万バレルの追加減産を決定(有志国による自主減産の位置付け)
・2024年6月:同年10月からの自主減産・日量220万バレルの段階的な縮小を決定(以降、開始を3度延期、2025年4月開始へ)
・2025年3月:同年4月からの自主減産・日量220万バレルの段階的な縮小を計画通り実施する旨を決定

 
5 有志国はサウジ、ロシア、イラク、UAE、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン。2023年以降、OPECプラス全体としての減産拡大は合意が難しくなっていると推測され、「有志国による自主的な減産」という名目で一部加盟国だけで減産拡大を行っている。
4|協調減産の効果と限界・デメリット
(OPECプラスに対する効果)
OPECプラスによる生産調整の効果は、彼らが目的に掲げる「原油需給バランスの安定化」だ。世界の原油需給の推移を見ると(図表4)、短期的には供給過剰(=需要不足)や需要超過(=供給不足)が発生しているものの、殆どの時期においてバランスの偏りは日量200万バレル程度以下に収まっている。これは、OPECプラスが原油の需要を踏まえて生産調整を行ってきた効果によるところが大きい。
(図表4)世界の原油需給と原油価格 中でも、最も顕著な例としては、2020年4月に合意された日量970万バレルの大規模減産が挙げられる。当時は新型コロナの拡大によって世界的に原油需要が急減し、需給バランスが大幅な供給過剰に陥っていた。OPECプラスとしては、早急・大幅な減産に踏み切らざるを得ない状況ではあったが、大方の予想を大幅に上回る減産で合意をまとめ、実際に順守されたことで、以降の原油需給は早期に均衡に向かった。

国際的な原油価格6は、主に原油の需給(及びその見通し)を反映して価格が形成されるため、OPECプラスがこれまで生産調整によって需給バランスを保ってきたことは、行き過ぎた原油高や原油安を抑制する効果も担ってきた。

とりわけ、生産調整は殆ど「減産の幅」をどう調整するかを意味しており、減産自体はほぼ全期間において継続されていたため、調整を全く行わなかった場合と比べて、原油価格は底上げされてきたはずだ。現に、足元の原油需給はほぼバランスしている(図表4)が、仮に現在実施されている日量586万バレルの減産が行われていなかったとすれば、日量600万バレル近くの供給過剰(需要不足)になる。これはコロナ禍開始直後の2020年4-6月期に需要が急減していた際に相当する供給過剰幅だ。

当時の原油価格(WTIベース・同年4-6月期平均)は1バレル28ドルにまで下落していた。原油価格は足元の需給のみならず、金融環境や地政学リスクなどの影響も受けるため、減産を全てやめた際の原油価格が足元の約70ドル(WTIベース)から28ドルまで下がるかは定かではないものの、足元に比べて20~30ドル程度(3~4割)下落してもおかしくはない。
 
6 代表的なものとして、米国の指標であるWTI、欧州の指標である北海ブレント、アジアの指標であるドバイがある。
(生産調整の限界・デメリット)
ただし、生産調整には限界もみられる。一つは原油価格の押し上げ効果だ。

OPECプラスに属する主要産油国の経済や財政は原油に大きく依存しているため、原油価格の上昇・高止まりがプラスに働く。
(図表5)サウジアラビアの財政均衡原油価格(推移) ここで、OPECプラスの実質的なリーダーであるサウジについて財政収支が均衡するために必要な原油価格を見ると(図表5)、OPECプラスの協調減産が始まった2017年以降、1バレル70ドル強~100ドル弱で推移している。一方で、この間の実際の原油価格7は平均で69ドルに留まっており、同国の財政支出を賄うには不十分であった。

OPECプラス加盟国の中にはUAE(アラブ首長国連邦)やクウェートなどサウジよりも財政均衡原油価格が低い国も存在するが、サウジの同価格が相対的に高いわけではない。

また、OPECプラス加盟国の平均実質成長率の推移を見ると(図表6)、原油価格が高水準にあった2010年代初頭までは世界平均を上回ることが多かったが、2010年代半ば以降はほぼ一貫して下回っている。減産によって主要輸出品である原油の輸出量が抑制された一方で、原油価格がそれを賄うほどには上昇しなかったためとみられる。
さらに、シェアの低下も目立っている。OPECプラスの原油生産量8(図表7)の世界全体に占めるシェアはOPECプラス発足前の2016年時点では55%を超えていたが、直近では48%程度にまで低下している。一方で、米国やカナダといった非OPECプラスのシェアはじりじりと上昇してきている。OPECプラスが生産を抑制して原油価格を下支えたことで、非OPECプラスにおいて油田の開発が促され、増産が進んだ構図だ。結果的に、OPECプラスは「敵に塩を送った」形になっている。
(図表6)OPECプラス参加国の実質成長率/(図表7)原油生産量(OPECプラスVS非OPECプラス)
 
7 北海ブレント、WTI、ドバイの単純平均
8 脱退等の影響を除く現加盟国ベース(ただし、ブラジルは除く)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年03月28日「基礎研レポート」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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