コラム
2007年07月10日

保険の比較情報提供は消費者の意思決定を支援できるか

生活研究部 井上 智紀

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昨年6月に金融庁の保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チームより提出された最終報告を受けて、生損保の各協会および外国損保協会の3協会共催による「みんなが主役 保険商品の比較に関する自由討論会」の第1回会合が7月3日に開催された。当日は保険会社や監督官庁である金融庁のほか、代理店や仲立人、保険の比較サイトの運営者など、総勢100名を越える参加者の中から、事前に発言希望のあった人も含め、短時間ながら多くの意見があり、各関係者の関心の高さが伺えた。

討論会の冒頭、検討チームの座長を務めた野村修也中央大学法科大学院教授の弁にあったように、(特定の有識者や業界関係者のみではなく)関係者の自由参加による討論を経たコンセンサスを持って比較情報の内容、提供方法などにおいて一定のルールを定めていくといったプロセスは大変意義深いものでもあり、今後の議論の進展には大いに注目したいところである。

先日の第1回目および次回については、参加者それぞれの立場からの意見を聞き、論点整理へと進めていく予定のようだが、代理店や仲立人等、顧客接点の立場からは消費者に最適な商品を提供するために比較情報を欲する反面、企業間の競争戦略上、可能であれば比較を回避したい保険会社側の立場もあり、第1回目であがった意見をみるだけでも、今後の進行には相当の困難が待ち受けることは想像に難くない。

詳細な内容は後日、同討論会サイトにて公開される議事録に譲るが、突き詰めてみればリスク・リターンに集約される投資・運用商品に比べ、補償性・保障性の商品としての保険商品では、千差万別な消費者のニーズを満たすためには、より細部にわたる比較が必要であり、何をどこまで比較すれば十分なのか、という点一つとっても、これはという解がない。

知識・判断力に乏しい消費者への支援として売り手側が活用することも含めて考えれば、厳密な比較ができるよう可能な限り多くの商品属性について開示し、整理されることが望ましい。しかし、あまりに多くの商品属性を比較に供すれば、近年増加傾向にある自ら比較情報を活用して商品選択したいと考える消費者が、自身の理解力・判断力を超える多量の比較情報に直面することで混乱し、適切な意思決定に結びつかなくなる可能性もある。

比較情報の提供を真に有益なものとするには、多様な商品属性と消費者の知識・判断力とのミスマッチを前提とした意思決定を支援する仕組みについても、あわせて考えていく必要があろう。
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