2018年07月06日

どうなる?日銀の物価集中点検~その注目点と影響について

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 日銀は7月の決定会合において物価の集中点検を行う。物価が伸び悩んでいる理由を議論して説明する方針だ。(1)長短金利操作導入から2年が経過しようとしていること、(2)物価上昇率が鈍化してきていること、(3)今回の展望レポートで19年度の物価見通しを引き下げざるを得なくなっていることから、放置すれば批判がさらに高まりかねない。従って、このタイミングで改めて点検し、情報発信を行うことは合理的な判断と言える。
     
  2. 物価伸び悩みの理由については、デフレマインド、生産性向上、女性・高齢者の労働参加など構造的な要因を列挙するだろう。そして、「これらの下押し要因によって物価上昇が抑制されているのであって、日銀の現行金融緩和自体は強い効果を発揮している」、「モメンタムは維持されている」という主旨の説明を行う可能性が高い。さらに、今後については、「これらの物価下押し要因の多くはいつまでも続かないため、その影響が緩和していくにつれ、現行緩和の後押しを受けて、2%に向けて上昇率を高めていく」、「従って、現行の強力な金融緩和を粘り強く継続していくことが適当」と結論付けると予想される。
     
  3. このような内容の結果となった場合、今回の集中点検が今後の金融政策に与える影響は短期的にはないだろう。そもそも、日銀は動けない状況に陥っている。逆に言えば、今回の集中点検は、「物価が伸び悩むなかで有効な追加対応を取れない日銀が、そのことを正当化するために理論の再構築を行う」場として位置付けられるだろう。
     
  4. 今回の集中点検が市場に与える影響も限定的なものになると予想される。構造的な物価下押し要因の存在を認め、物価見通しを引き下げることは金融緩和の長期化観測に繋がるため、円安・株高材料ではある。しかし、追加緩和ではないうえ、もともと市場では長期の緩和継続が織り込まれている。従って、発表直後には小幅な円安・株高反応が出るかもしれないが、すぐに消化され、トレンドに影響を与えることはなさそうだ。
日銀展望レポート物価見通しの変遷
■目次

1.トピック:どうなる?日銀の物価集中点検
  ・タイミングとしては合理的
  ・注目点:物価伸び悩みの理由、金融政策の効果、物価の見通し
  ・今後の金融政策への影響
  ・金融市場への影響
2.日銀金融政策(6月):物価伸び悩みの理由が焦点に
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(6月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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