2018年07月06日

ロシア経済の見通し-1-3月期GDPは前年比1.3%増。当面は1%台の低成長が継続と予想

神戸 雄堂

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1――経済概況・見通し

(経済概況)  1-3月期の実質GDP成長率は前年比1.3%増と緩やかな成長が継続
 
ロシア連邦統計局は、7月2日に2018年1-3月期のGDP統計の内訳を公表した。1-3月期の実質GDP成長率は前年比1.3%増(原系列)と、前期の同0.9%増から加速した。3年ぶりのプラス成長となった17年から緩やかな成長が継続している。
(図表1)【需要項目別】実質GDP成長率の推移 需要項目別に見ると、外需の成長率寄与度は依然マイナスであるが、17年に比べて成長率の押下げ幅は縮小している。 

内需は堅調に推移するも、民間消費や総固定資本形成は、前期から減速した(図表1)。

GDPの5割超を占める民間消費は前年比2.8%増と前期の同4.3%増から減速した。政府消費は同0.5%増と前期の同0.4%増からやや加速した。総固定資本形成は前年比1.8%増と前期の同3.4%増から減速した。純輸出は輸出が同6.8%増、輸入が同9.6%増となった結果、成長率寄与度は-0.2%ポイント(前期:同 -1.9%ポイント)と成長率を押下げたが、押下げ幅は縮小している。
(図表2)【供給項目別】実質GDP成長率の推移 供給項目別に見ると、第一次産業および第二次産業は、前年比マイナス成長であった前期から同プラス成長に転じた一方で、第三次産業は同プラス成長が続いたものの、減速した(図表2)。

GDPの約5割を占める第三次産業は、前年比1.8%増と前期の同2.6%増から減速した。内訳を見ると、不動産業、金融・保険業、政府行政・国防などの産業が前期から加速したが、小売・卸売業が大きく減速し、全体の成長率を押下げた。第二次産業は、製造業や鉱業などの産業が前期に同マイナス成長に転じていたが、再び同プラス成長に転じた。
(先行きのポイント) 原油価格の上昇がプラス材料。年金改革が懸念材料。
 
ロシア経済は、17年に3年ぶりのプラス成長となった。連邦政府は、17年9月に経済成長率の見通しを示したが、ロシア経済は力強さを欠いており、先行きは見通しの目標シナリオ1を下回る1%台の低成長が続くだろう。18年については、堅調な原油価格に加えて、19年に予定されている付加価値税(日本の消費税に相当)の税率引上げ2に伴う駆け込み需要が期待されるため、17年から加速するだろう。一方で、19年は駆け込み需要の反動と年金受給開始年齢の引上げが、民間消費に水を差すため、18年から減速すると見込まれる。
(図表3)原油価格(ブレント原油先物)の推移 ロシア経済を語るうえで無視することのできない原油価格は、上昇傾向が続いており、関連企業の業績や輸出は好調に推移している。今後も原油価格は底堅く推移すると予想されるため、関連企業の設備投資や純輸出の拡大を通じて、18年のGDP成長率を押上げるだろう。

ロシアでは17年の輸出総額(通関ベース)のうち、原油や石油派生製品などの燃料・エネルギー製品が約6割を占めている。また17年度(1-12月)の連邦政府の歳入のうち、石油・ガス関連の歳入が約4割を占めるなど、ロシア経済における原油価格の影響力は大きい。

原油価格は、14年半ばから大きく下落したが、世界的な景気拡大によって、需給が引き締まり、16年上旬に底を打った(図表3)。その後もOPEC加盟国と非加盟の主要産油国による協調減産や、ベネズエラ、イランなどの産油国における供給懸念の高まりによって3、原油価格は上昇傾向が続いている。OPEC等は6月下旬に原油の減産緩和を決定したが、市場の供給不足懸念は払拭されず、原油価格の上昇に歯止めはかかっていない。今後も原油価格は底堅く推移するだろう。
(図表4)ロシア大統領選挙結果 一方で、先行きの懸念材料としては、19年に予定されている付加価値税率と年金受給年齢の引上げがある。

3月に行われたロシア大統領選挙は、事前の予想通りプーチン氏の圧勝という結果に終わった(図表4)。プーチン政権が目標として掲げていた投票率と得票率については、前者こそ目標の70%を下回る67.50%に留まったが、得票率は目標の70%を上回る76.69%に及び、結果として有権者の過半数(51.8%)がプーチン氏を支持する結果となった。
プーチン氏は5月7日に行われた大統領就任式で第4期政権をスタートし、大統領令「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」に署名した。プーチン大統領は、同令において24年までの内政目標として9つの目標を掲げるとともに、18年10月1日までに、24年までの政府の活動方針および社会経済予測、さらに12の国家プロジェクトを策定するように指示している。6年前の大統領令と比べて内政に力点が置かれている (図表5)。

また、連邦政府は6月14日に、付加価値税の税率引上げおよび年金受給開始年齢の段階的な引上げ4を、19年度(19年1月)から開始することを発表した。これらの改革は図表5の国家目標達成に必要な財源確保のためと推測されるが、特に年金改革については、より直接的に目標を達成する狙いがあると見られる。

ロシアの平均寿命は、71.9歳(男性:66.4歳、女性:77.2歳)であるのに対して5、年金受給開始年齢は男性が60歳、女性が55歳となっている。特に男性は、実際に年金を受給できる期間が短くなっており、受給年齢をさらに引上げる改革に対して各地で抗議デモが発生している。一方で、現行の年金制度では、保険料だけでは財源を賄えないため、一部を国庫で負担しているが、それでも年金支給額は極めて少額であり、年金受給者の多くが貧困層に含まれていると言われている。今回の年金改革については、平均寿命が伸びていくこと(図表5の②)を見越したうえで、年金保障額の引上げひいては貧困層の減少(図表5の③と④)に向けて、連邦政府が踏み切ったと考えられる。現行の年金制度については以前から改革の必要性が指摘されており、今回の改革はやむを得ないが、年金受給年齢と付加価値税率の引上げが今後消費マインドの悪化や可処分所得の減少を通じて、景気に水を差す懸念がある。
(図表5)2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題
また、ウクライナ危機を契機に導入された欧米による経済制裁については、現時点で緩和・解除の見通しは全く立っていない。欧米はロシアに対してミンスク合意6の完全履行を求めているが、ロシアはほとんど履行していない。これは、ミンスク合意の内容がロシアにとって受け入れ難い内容であるとともに、従来の経済制裁による影響が限定的であるためだと推測される。

しかし、4月に米国が発表した追加制裁は、ロシア市場に大きな影響を与えた。米国は追加制裁として、制裁対象をプーチン大統領に近い企業や個人にまで拡大した結果、ルーブル相場や関連企業の株式は大きく下落した。また、アルミ大手のルサールが対象に含められたことで、アルミの供給が減少する懸念が高まり、国際アルミ価格が高騰するなど、経済制裁の影響はロシア国外にも波及した。米国は欧州諸国の要望を受けて、制裁の発動時期を6月から10月に延期した結果、アルミ価格は落ち着きを取り戻しているが、10月の制裁発動に向けて再度アルミ価格が高騰することも考えられるため、その動向に注目したい。
(図表6)ロシア経済の見通し
 
1 目標シナリオにおける各年の成長率は、17年:2.1%、18年:2.2%、19年:2.6%、20年:3.1%。
2 現行の18%から20%に引上げられる。
3 ベネズエラについては、経済危機に陥っている中、原油生産量が減少している。米国は独裁色を強めるベネズエラに対して、経済制裁で圧力を高めている。イランについては、米国がイランとの核合意を離脱し、経済制裁の再開を決定した。
4 現行の年金受給開始年齢は男性が60歳、女性が55歳となっている。男女ともに2年毎に年金受給開始年齢が1歳ずつ引上げられ、男性は2028年に65歳、女性は2034年に63歳となる。
5 WHO「Life expectancy(2016)」
6 15年2月にベラルーシの首都ミンスクにおいて、ロシア・ウクライナ・ドイツ・フランスの4ヵ国間で締結された停戦協定。停戦の他、重火器の引き離しなど全13項目からなる。結果的に停戦には至っていない。
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神戸 雄堂

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