2018年05月25日

中国経済見通し-「6.5%前後」へ軟着陸のシナリオは維持も、米中覇権争い激化なら中国経済にはダブルパンチ!

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

中国国家統計局が4月17日に公表した2018年1-3月期の国内総生産(GDP)は19兆8783億元(日本円換算では約338兆円)となり、経済成長率は実質で前年同期比6.8%増と前四半期から横ばいだった(図表-1)。内訳を見ると、第1次産業が同3.2%増と前四半期(同4.4%増)を下回り、第3次産業も同7.5%増と前四半期(同8.3%増)を下回ったものの、第2次産業が同6.3%増と前四半期(同5.7%増)を上回ったことから、全体では横ばいに留まった(図表-2)。また、同期間の消費者物価は同2.1%上昇と3四半期連続で前四半期を上回り緩やかに上昇し始めた(図表-1)。
(図表-1)成長率と消費者物価/(図表-2)中国経済の実質成長率
他方、製造業PMIを見ると4月は51.4%と21ヵ月連続で拡張・収縮の境界となる50%を上回った。ここもと構造改革や春節(旧正月)の影響で振れが大きいものの、同予想指数は58%台を維持しており、製造業は堅調といえる。非製造業PMI(商務活動指数)も4月は54.8%と高水準を維持、同予想指数も4ヵ月連続で61%台を維持しており、非製造業は好調といえる(図表-3)。

また、痛みを伴う構造改革は静かに進んでいる。18年1-4月期の工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)を見ると、過剰設備・過剰債務問題を抱える産業では、鉱業(石炭など)が前年同期比0.5%増、鉄精錬加工も同3.5%増と全体の伸び(同6.9%増)を大きく下回った。一方、新たな牽引役として期待される産業では、コンピュータ・通信・その他電子設備が同12.6%増、電気機械・器材も同9.0%増と全体の伸びを大きく上回り、経済成長の下支え役を果たした(図表-4)。
(図表-3)製造業と非製造業のPMI/(図表-4)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上、18年1-4月期)

2.消費の動向

2.消費の動向

消費の伸びはやや減速した。消費の代表指標である小売売上高を見ると、18年1-4月期は前年同期比9.7%増と17年通期の同10.2%増を0.5ポイント下回った。内訳を見ると、家具類は住宅バブル抑制策で住宅販売が鈍化したため同9.0%増と17年通期の同12.8%増を下回ったものの、その他の売上高は中間所得層の増加を背景に概ね堅調に推移している(図表-5)。自動車は15年夏の株価急落時に導入された小型車(排気量1.6L以下)減税が撤廃されたことを受けて同6.4%増と低位に留まったものの、17年通期の同5.6%増を上回るなど想定したよりも底堅い動きをしている。また、電子商取引(EC)はBAT(百度、阿里巴巴、騰訊)を代表とするプラットフォーム企業が新たな消費需要を生み出す流れが続いており、同32.4%増と17年通期の伸び(前年比32.2%増)を上回り、小売売上高に占めるシェアは2割前後に達している。
(図表-5)業種別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き/(図表-6)消費者信頼感指数
今後の消費動向を考えると、住宅バブル抑制策に伴う住宅販売の鈍化が引き続きマイナス要因となり家具など耐久消費財に悪影響を及ぼすと見られるものの、雇用情勢安定の下、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れが続いており、消費者信頼感指数は高水準にある(図表-6)。また、乗用車保有状況を見ると、都市部でも100戸当たり35.5台とまだ普及の途上にあるため、小型車減税撤廃の悪影響は早期に薄れると見ている。従って、消費は加速こそ期待できないものの10%前後の高い伸びを維持すると予想している(図表-7)。
(図表-7)消費の主なプラス・マイナス要因

3.投資の動向

3.投資の動向

(図表-8)業種別の投資動向(2018年1-4月期) 投資は構造改革が進展する中で二極化してきている。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、18年1-4月期は前年同期比7.0%増と17年通期の同7.2%増とほぼ同水準の伸びとなった。過剰設備・過剰債務を抱える構造不況業種(採掘、鉄鋼など)では、採掘業が前年割れに落ち込み、鉄精錬加工も前年同期比4.3%増と低い伸びに留まるなど、投資全体の伸びを抑制する要因となった。一方、中国政府による手厚い政策支援がある「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する新興産業では、コンピュータ・通信機器等(製造業)が同14.2%増と高い伸びを示し、教育や文化・体育・娯楽など消費サービス関連も2割前後の高い伸びを示しており、投資全体の伸びを支える要因となった(図表-8)。
今後の投資動向を考えると、低位ながらも底堅い伸びを維持すると予想している。構造不況業種では引き続き過剰設備・過剰債務の整理が進むため投資の伸びは低位に留まるだろう。また、後述するマクロプルーデンス政策による「金融リスクの確実な防止・解消」に伴って、インフラ投資や不動産開発投資は鈍化すると見られる。一方、企業利益の底打ちで企業の投資余力が高まる中で、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では、中国政府による手厚い政策支援を背景に積極的な投資が継続すると見られることから、投資が失速する可能性は低いと見ている。

なお、新興産業の投資が期待どおりに伸びず景気が失速しそうになれば、官民連携(PPP)のプロジェクトを推進して、失速を回避するだろう。中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)1」に伴う交通物流関連の需要が大きいため、景気が失速しそうになれば、17.8兆元(約300兆円)とされるPPPを前倒しするだろう(図表-9)。
(図表-9)投資の主なプラス・マイナス要因
 
1 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
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三尾 幸吉郎

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