コラム
2017年06月20日

「キッズウィーク」と「休み方改革」-「教育政策」か「労働政策」か

土堤内 昭雄

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今年の6月1日に政府の教育再生実行会議が、『自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言)』を公表した。そのなかには「家庭における子供と向き合う時間の確保-地域ごとの学校休業日の分散化」という項目があり、「家庭教育の充実のために、地域ごとに学校の夏休みなどの長期休業日の一部を学期中の平日に移して設定する学校休業日の分散化を推進する」としている。いわゆる“キッズウィーク”の創設である。

家庭教育の充実という教育施策として提言された“キッズウィーク”だが、「働き方改革」が注目を集める今日、あらたな雇用・労働政策である「休み方改革」のひとつとして受け止められている。日本は世界的にみても祝日の多い「祝日大国」だが、有給休暇の取得率はきわめて低く、長時間労働が大きな課題だ。本来、従業員一人ひとりが主体的に休暇を取得することが望ましいが、それが難しいために国が多くの祝日を設けて、国民が挙って休むようにしているというのが日本の実態だろう。

ほぼ同時期に観光庁が『観光ビジョン実現プログラム2017』を公表した。主要施策のひとつとして“キッズウィーク”の導入を掲げ、有給休暇の取得や休暇の分散化を促進、観光需要の喚起を目指す観光振興策と位置づけている。「休み方改革」を進めるための有給休暇取得促進などの雇用・労働政策や観光振興などの経済政策は重要だが、その一方“キッズウィーク”が「家庭教育の充実」という子どもの教育政策としての意義がやや希薄になっているのではないかと懸念される。

“キッズウィーク”の目的の『子供と向き合う時間の確保』のためにはどうすればよいのだろうか。ひとつは1週間単位で子どもの休暇を分散しても、親が休暇を合わせることは難しい。むしろ、一日単位で休暇を分散する「キッズデイ」としてはどうか。また、家庭教育の充実という観点から、子どもが親の都合に合わせて学校を休んでも欠席扱いにしない「子ども家庭休暇」を創設してはどうだろう。ときには家庭教育が学校教育より優先される場合があってもよいのではないだろうか。

「休暇」というきわめて個別事情が強いものを、制度として一律に規定することは難しい。『有給休暇、みんなで取れば怖くない!』ではなく、個々人が主体的に取得できる組織やマネジメントのあり方、働き方こそが真の「休み方改革」と言える。教育施策である“キッズウィーク”を、先の「プレミアム・フライデイ」と混同したような議論には違和感を覚える。“キッズウィーク”を名称通り「チルドレン・ファースト」の教育施策という視点から考えることを、ゆめゆめ忘れてはならない。
 
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2017年06月20日「研究員の眼」)

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