2017年05月02日

【3月米個人所得・消費支出】実質個人所得の伸びは加速も、物価下落の影響が大きい

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得、消費ともに市場予想を下回る

5月1日、米商務省の経済分析局(BEA)は3月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は、前月比+0.2%(前月改定値:+0.3%)となり、前月から伸びが鈍化、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.3%を下回った。一方、個人消費支出(名目値)は、前月比横這い(前月改定値:横這い)と、+0.1%から下方修正された前月改定値に一致、市場予想の+0.2%は下回った(図表1)。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出は、前月比+0.3%(前月値:▲0.1%)と、こちらは前月からプラスに転じたものの、市場予想の+0.4%は下回った(図表5)。貯蓄率1は5.9%(前月:5.7%)と3ヵ月連続の上昇となった。

価格指数は、総合指数が前月比▲0.2%(前月:+0.1%)と、市場予想の▲0.2%には一致したものの、16年2月以来のマイナスに転じた。また、変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は、前月比▲0.1%(前月:+0.2%)と、こちらも市場予想の▲0.1%には一致したものの、08年12月以来となるマイナスに転じた(図表6)。なお、前年同月比では、総合指数が+1.8%(前月:+2.1%)、コア指数が+1.6%(前月:+1.8%)となった(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:所得対比でみた個人消費は、3ヵ月連続で伸び悩み

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 3月は、名目個人消費の伸びが個人所得を下回ったことから、貯蓄率が16年8月以来の水準に増加した(図表1)。これで貯蓄率の増加は3ヵ月連続となった。

名目個人消費が3ヵ月連続で低迷した結果、17年1-3月期の名目個人消費は、前期比年率+2.7%(前期:+5.6%)と前期からの低下が顕著となった。実際、先日発表された17年1‐3月期の実質GDPにおける実質個人消費支出の伸びも+0.3%(前期:+3.5%9と大幅に鈍化していた。もっとも、個人消費の不振には暖冬による暖房費の抑制などの天候要因が入っていたほか、足元で米労働市場の回復が持続していることや、消費者センチメントの回復が顕著であることを考慮すれば、1-3月期の消費の落ち込みは一時的とみられる。

一方、物価(前年同月比)は、総合指数、コア指数ともに前月比でマイナスに転じたほか、前年同月比も小幅ながら前月から低下したため、2月までみられていた物価上昇が一服した。とくに、コア指数が下がったことが注目される。これまで物価はエネルギー価格が押上げる形で上昇してきたが、エネルギー価格要因以外の部分では、物価上昇圧力が高まっていないことが確認できる結果と言えよう。

3.所得動向:賃金・給与の伸びが鈍化

個人所得の内訳をみると、賃金・給与が前月比+0.1%(前月:+0.5%)と高い伸びとなった前月の反動もあって、16年3月以来の低い伸びとなった。もっとも、雇用増加が持続する中、労働需給はタイト化しており、雇用増加が賃金上昇に繋がり易くなっていることから、来月以降再び賃金・給与の伸びは加速しよう。一方、利息・配当収入は+0.3%(前月:+0.3%)と、こちらは前月の高い伸びを維持した(図表2)。

個人所得から社会保障支出や税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、名目値が+0.2%(前月:+0.3%)と前月から伸びが小幅に鈍化する一方、価格変動の影響を除いた実質ベースでは前月比+0.5%(前月:+0.2%)と、前月から伸びが加速した(図表3)。このため、実質ベースの伸びは主に物価下落によるものだと分かる。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:財消費は減少、サービス消費は回復

名目個人消費(前月比)は、財消費が▲0.7%(前月:▲0.1%)と前月からマイナス幅が拡大する一方、サービス消費は+0.4%(前月:横這い)と前月から伸びが加速した(図表4)。

財消費では、耐久財が▲1.4%(前月:+0.1%)と前月から大幅なマイナスに転じたほか、非耐久財も▲0.3%(前月:▲0.2%)と前月からマイナス幅が拡大した。耐久財では、自動車・自動車部品が▲4.4%(前月:▲1.2%)とマイナス幅が拡大したほか、非耐久財ではガソリン・エネルギー関連が▲7.4%(前月:▲0.7%)と消費の足を引っ張った。

サービス消費は、金融・保険こそ+0.1%(前月:+0.5%)と、前月から伸びが鈍化したものの、それ以外は全般的に伸びが加速した。とくに、1月から2月にかけての暖冬で暖房需要が低迷し、公共料金支払いが落込んでいた住宅・公共料金が+1.1%(前月:横這い)と、前月から大幅に伸びが加速してサービス消費を牽引した。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギー価格(前月比)が2ヵ月連続で低下

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲3.4%(前月:▲1.2%)と、2ヵ月連続でマイナスとなった(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.4%(前月:+0.2%)と、こちらは3ヵ月連続のプラスとなった。

前年同月比では、エネルギー価格指数が+13.2%(前月:+18.5%)と3ヵ月連続で2桁の上昇となった(図表7)。食料品価格指数は、▲0.7%(前月:▲1.5%)と、こちらは11ヵ月連続でマイナスとなるなど、物価下落圧力が続いている。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年05月02日「経済・金融フラッシュ」)

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