2017年04月07日

初の日米首脳会談-同盟強化で一致、日米経済対話を新設

基礎研REPORT(冊子版) 2017年4月号

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1―はじめに

安倍首相とトランプ大統領の初めての日米首脳会談が2月10日に行われ、安全保障、通商、経済協力などが協議された。

日米同盟を強化することで一致し、経済関係の強化に向けて、麻生副総理兼財務相とペンス副大統領の下に分野横断的な対話の枠組み「日米経済対話」を設置することで合意した。さらにトランプ大統領の年内訪日も固まった。

首脳会談前、トランプ大統領は、自動車などの貿易不均衡問題を中心とした経済問題や米軍駐留経費などで日本を強く批判していた。そのような発言が会談中に出るのではとの懸念があったが、日米間の具体的な懸案への言及はなかった。緊密な日米関係を維持、深化させる意思が示されたといえる。日本にとっては満額回答に近い会談だったといえるのではないだろうか。

2―日米同盟強化、日米経済対話~蜜月を演出

外交:日米同盟強化、尖閣は日米安全保障の適用範囲内

外交面では、共同声明で尖閣諸島が米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲であることを明記。「日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と盛り込んだ。名指しは避けたものの、中国を念頭に「南シナ海における緊張を高め得る行動を避け、国際法に従って行動することを求める」と明記。「核及び通常戦力の双方による米国の軍事力」との表現で米国が「核の傘」を含め抑止力を提供することも確認された。
経済:日米経済対話を新設、FTA進展は今後の交渉

日米の経済協力は、「貿易・投資関係の深化」と「アジア太平洋地域における貿易、経済成長及び高い基準の促進に向けた両国の継続的努力」が重要と確認した。安倍首相は共同記者会見で「日本の高い技術で大統領の成長戦略に貢献し、米国に新しい雇用を生み出せる」と述べた。アメリカ第一主義を掲げ、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と主張するトランプ大統領に呼応している。

今回新たに作られる日米経済対話では、①財政金融などのマクロ経済政策の連携、②インフラ、エネルギー、サイバー、宇宙などの協力、③2国間貿易の枠組み、の3テーマを取り上げる。ペンス副大統領が早期に東京を訪れ具体的な交渉をスタートする予定だ。

トランプ大統領がTPPの離脱を決めたことで、注目された日米FTAは、共同声明で「日米間で2国間の枠組みに関して議論を行う」と明記されたが、具体的提案が米国からなされなかった。共同声明は日米の貿易・投資関係の強化に向け「最善の方法を探求する。日米2国間の枠組みとともに日本が既存の枠組みを引き続き推進する」としている。

おそらく日米とも2国間FTAを意識はしているが、日本がTPP、RCEPなど既存の枠組みを維持していることに配慮した結果だろう。今後2国間FTAの是非は日米経済対話などで議論され、重要な焦点となってくるだろう。

3―今後の焦点「日米経済対話」

今回の会談では、トランプ大統領から、日本批判が一切聞かれず、日本政府の事前準備のうまさもあっただろうが、批判発言を覚悟していた市場関係者からすれば拍子抜けだ。

あれだけ自動車貿易について「日本は公正でない」と批判していたが、安倍首相は日本の自動車メーカーが米国工場での生産を通じて雇用に貢献していることを会談で説明し、それに対する批判はなかった。通貨政策について日本が円安誘導していると批判していたが、首脳会談では批判が出ず、双方の財務相が意見交換していくことで落ち着いた。

今後、経済問題は今回新たに作られる日米経済対話で議論される。日本の交渉相手であるペンス副大統領は、政治経験も長く、共和党からも信頼が厚い。また元インディアナ州知事でもある。インディアナ州は、雇用が奪われたとされるラストベルトの中にある。そこでトヨタ自動車など日系企業が多くの雇用を生み出していることを良く理解している。トランプ大統領のような不規則発言はなさそうで、日本の交渉相手として最適だろう。

ただし、ペンス副大統領はトランプ政権の一員であり、雇用創出や貿易収支改善が進まなければ、強硬姿勢を鮮明にしてくるに違いない。今回鳴りを潜めた自動車問題や円安誘導への批判が再燃する可能性もある。
日本としては、個別問題は避けたい

米商務省が発表した2016年のモノの貿易収支によると、日本に対する赤字は689億3800万ドル(約7兆7千億円)だった。赤字は前年とほぼ同じだったが、ドイツを抜き、中国に次ぐ2位に浮上した。自動車関連は赤字の8割弱と大半を占めている。

現在、米国から日本に輸入する車への税率はゼロ。これ以上税率を下げて米国からの輸出を促進することは不可能だ。米国メーカーは「われわれが自動車を売る際、日本が販売を難しくしている」と燃費や安全規制が厳しいと主張してきた。

非関税障壁が問題だと米国は主張するが、現実にはドイツ車は販売を伸ばしている。日本の消費者の選好の結果であって、政府が民間に強制的に米国車を購入させることは難しい。

貿易収支を改善するとすれば、個別自動車会社の現地生産比率をさらに上げることになる。現在日本は、「米国市場で販売する日本車の6割は米国で生産され、約150万人の雇用を生み出している」と説明し、過去の日米貿易摩擦などで自動車産業は大きく変わったと過去の変化を主張する。米国が更なる雇用拡大を要求してくるだろうが、日本企業の投資にも限界がある。

また為替についても円安誘導だとの批判が再び高まるのは避けなければならない。

「大胆な金融緩和」はアベノミクスの「第1の矢」と位置付けられている。米国からの批判を受けて金融政策運営の自由度が下がれば、デフレからの完全脱却を目指す政府・日銀にとって逆風となる。

日本側の提案で協議の場が設置され、今回は自動車や為替といった個別の問題に焦点をあたることを避け、包括的な協議の場を設置できたことは大きな進展であった。しかし、日本の思惑通りに今後進ませるのは難しいとの慎重な見方が必要だ。

過去日米間に貿易摩擦が起き、米国の圧力を受けて、協議の場が設定されてきた。例えば1983年「日米円ドル委員会」、89年「日米構造問題協議」、93年「日米包括経済協議」など。日本はかなり厳しい米国の要求を呑んできた。

トランプ政権は、交渉の場で、オバマ政権で進めたTPPで自動車、医療、農業などの領域で勝ち取った以上のものは要求してくるに違いない。日米2国間でのFTAとなれば経済規模や安全保障を絡めて米国サイドは議論を展開し、有利な条件を引き出すことを行ってくるだろう。またトランプ大統領は米通商代表部(USTR)代表に、同元次席代表で弁護士のロバート・ライトハイザー氏を指名している。同氏は80年代のレーガン政権下でUSTR次席代表を務め、対日鉄鋼協議で日本に輸出の自主規制をのませた強硬派である。

日本は今後2カ国間の包括的な枠組みを使い、日本の国益を守りながらもトランプ政権が重要視する米国内での雇用増や貿易不均衡是正をしなくてはならない。

4―おわりに

トランプ政権は、移民政策や外交を巡り、国際社会とあつれきを生んでいる。そのトランプ政権に接近することのリスクを問う声も上がっていたが、安倍首相はトランプ政権との親密ぶりを、海洋進出を進める中国、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に見せつける「戦略的蜜月関係」の構築を狙った。今回の日米首脳会談は、日本としては外交、通商、金融など幅広い分野で一定以上の成果をあげ順調な滑り出しとなった。しかし、批判を強める各国とどのような関係構築を図るのか今後の大きな課題となったといえる。

また経済問題を包括的に話し合う2国間の日米経済対話設置が決まったが、日本の思惑通りに進むのかも予断を許さない。

さらに国内問題としては、安倍政権の成長戦略の柱であるTPPが米国離脱により絶望的な状況の中で、日米FTAをどのようなスタンスで望むのか、早急に決断することも必要になるだろう。
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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