2017年02月20日

「男性の育児休業」で変わる意識と働き方-100%取得推進の事例企業での調査を通じて

  松浦 民恵

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1――男性の育児休業の現状と課題

1低迷が続く男性の育児休業取得率
男性の育児参加については、少子化の抑制、女性活躍推進のための環境整備といった政策的な観点のみならず、育児参加を希望する男性従業員等のモチベーションを向上させるという人材マネジメントの観点からも、その重要性に関する認識が徐々に広がってきた。男性の育児休業取得についても、男性の育児参加を映す指標の一つとして注目され、休業取得推進の重要性が指摘されてきた。

このようななか、2005年4月には次世代育成支援対策推進法(2003年公布)によって、仕事と子育ての両立支援に関する「一般事業主行動計画」の届出が従業員数301人以上の企業に義務付けられるとともに、子育てサポート企業の認定制度(いわゆる「くるみん認定制度」)が設けられ、9つの認定基準のなかに、1人以上の男性による育児休業取得実績が盛り込まれた。さらに、2015年4月に新設された「プラチナくるみん認定制度」においては、男性の育児休業取得に関する基準がさらに強化されている1

2009年7月に公布された改正育児・介護休業法においては、「父親も子育てができる働き方の実現」(2010年6月施行)のために、専業主婦の夫も育児休業を取得できるようになったほか、父母ともに育児休業を取得する場合は休業可能期間が延長される等、男性の育児休業取得を推進するための仕掛けが盛り込まれた。

また、休業期間中の経済的支援が不十分だから男性が育児休業を取得しにくいのだという問題提起を踏まえて、2014年4月の雇用保険法改正によって、1歳未満の子を養育するための育児休業の休業開始後6ヶ月については、育児休業給付が休業開始前賃金の50%から67%に引き上げられた。雇用保険からの給付は非課税扱いになることから、休業開始後6ヶ月の間、手取りベースでみれば休業開始前賃金の67%を上回る水準がカバーされることになる。

このように、男性の育児休業取得に向けて2000年代半ばから多くの政策が講じられ、政府の「第4次男女共同参画基本計画」(2015年12月25日閣議決定)においては、2020年までに民間企業における男性の育児休業取得率 を13%にするという目標が掲げられている。

しかしながら、男性の育児休業取得率の推移をみると、1996年代に比べれば微増してはいるものの、2015年度においても2.7%にとどまっている(図表1)。前述のようにさまざまな政策が打たれているにもかかわらず、男性の育児休業取得率は引き続き低迷しており、2020年までに13%という政府の目標も達成が危ぶまれる現状にある。
図表1:育児休業取得率の推移
 
1 「プラチナくるみん認定制度」における男性の育児休業に関する基準は、以下の(1)(2)のいずれかを満たすこと。
(1)計画期間において、男性従業員のうち育児休業を取得した者の割合が13%以上。
(2)計画期間において、男性従業員のうち、育児休業を取得した者または企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者の割合が、合わせて30%以上であり、かつ育児休業を取得した者が1人以上。
2男性の育児休業取得に対する主な阻害要因は「意識」と「働き方」
男性の育児休業については既にいくつかの貴重な研究が蓄積されている2が、こうした研究においても、取得を阻害する要因として「意識」や「働き方」の問題があげられることが多い。

意識面の阻害要因としては、まず、男性の育児休業取得に対して、周囲の理解が得られにくいという点があげられる。経営者や管理職が男性の育児休業の必要性を理解できていなければ、部下の男性従業員の育児休業取得を熱心に支援するとは考えにくい。特に、男性の育児休業に対する職場の支援体制を整えるうえでのキー・パーソンである管理職が、男性の育児を肯定的に捉えられなければ、周囲の従業員から理解を得ることも難しくなってくる。

次に、男性従業員自身の意識のなかにも、育児休業取得の阻害要因が潜んでいる。すなわち、「自分だけが育児休業を取得すると周囲から冷たい目で見られるのではないか」「せっかく築いてきた企業のなかでの地位やキャリアに傷がつくのではないか」「休業中に収入が途絶えることに対して、家族の理解が得られないのではないか」といったような、男性従業員自身の不安意識が、育児休業の取得を阻害している。

働き方の面での阻害要因としては、長時間労働と低い有給休暇取得率があげられる。長時間労働についてみると、たとえば育児休業の対象が多く含まれるであろう30・40歳代の男性の2割弱(各17.0%、16.9%)が週60時間以上働いている(内閣府『男女共同参画白書』(2015年版)、総務省「労働力調査」(2014年)より)。

厚生労働省「就労条件総合調査」(2015年)をみると、男性の場合、年次有給休暇の平均付与日数は年間18.7日であるが、平均取得日数は8.4日、平均取得率は44.7%にとどまっている。多くの企業で年次有給休暇の繰り越しが認められているので、短い期間の育児休業取得であれば、わざわざ育児休業をとらずとも、有給休暇で充当できるケースが少なくない。男性の育児休業取得が有給休暇の消化の先にあるとすれば、育児休業取得率の上昇に向けた道のりはまだ長い。

このように、労働時間の短縮や有給休暇の取得がなかなか進まない背景には、職場全体の業務の進め方が、長時間働く、休暇を取得しないという前提で成り立っていることがある。そういう職場で育児休業を取得することは、職場全体の流れを乱し、職場全体の生産性を低下させるマイナスの行動と捉えられ、周囲の理解や支援を得られない懸念が大きい。このような働き方が、職場全体の生産性という観点から、必ずしもベストだといえないにもかかわらず、である3
 
2 代表的なものとしては、ニッセイ基礎研究所(2003)『男性の育児休業取得に関する研究会報告書』(厚生労働省委託調査)、佐藤博樹・武石恵美子(2004)『男性の育児休業-社員のニーズ、会社のメリット』(中公新書)、ニッセイ基礎研究所(2008)『今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査研究報告書』(厚生労働省委託調査研究)、こども未来財団(2011)『父親の育児に関する調査研究-育児休業取得について』、武石恵美子・松原光代(2014)「3章 男性の育児休業-取得促進のための職場マネジメント」佐藤博樹・武石恵美子編『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(東京大学出版会)等があげられる。
3 長時間労働の問題はさまざまな観点から問題提起がなされており、政府の「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」や「働き方改革実現会議」等において、労働時間の上限規制等についての検討が進められているところである(2017年1月末現在)。
3日本生命における育児休業取得推進の取組と本稿の目的
男性の育児休業取得推進に向けては、個別の企業においても、休業期間の一部の有給化、育児休業取得に向けた啓発等、さまざまな取組事例がみられてきた。中には、育児休業の対象となる全ての男性従業員に関して、取得率100%の目標を設定して取得を働きかけている企業もある。

日本生命保険相互会社(生命保険業、以下「日本生命」)4では、2013年度より3年度にわたって、男性の育児休業取得率100%を達成し、現在も100%取得推進の取組(少なくとも1週間の取得を推奨)を継続している。

同社では、休業取得を奨励する1週間を有給としていることから、男性従業員に、休業取得による収入低下への不安はない。また、対象者全員が基本的に休業を取得することから、前述したような「自分だけが育児休業を取得すると周囲から冷たい目で見られるのではないか」「せっかく築いてきた企業のなかでの地位やキャリアに傷がつくのではないか」といった男性従業員の不安も払拭されやすい。

目標達成に向けての具体的な取組は、「経営層からの継続的なメッセージ発信」「人事部による取得計画の徹底フォロー」「育児休業取得を推進する各種情報提供」の3つの柱からなる(図表2)。このような丁寧な働きかけのもとで、3年度にわたって「男性の育児休業取得100%」の目標が達成され、この間延べ1000名以上の男性従業員が育児休業を取得している。

日本生命においては、2016年7~8月にかけて、2013~2015年度の間に育児休業を取得した男性従業員を対象とする「育児休業に関するアンケート調査」が実施され、ニッセイ基礎研究所がグループ会社として調査の設計や分析に協力した。

本稿では、同社の育児休業取得推進の取組のもとで、男性従業員の育児休業取得経験が、男性従業員の家庭や職場での意識や行動にどのような変化をもたらしてかについて分析する。前述したような、育児休業取得の阻害要因である「意識」や「働き方」と育児休業取得の関係は、一般的には、「意識」や「働き方」の変革を通じて、男性の育児休業取得率が向上するという因果関係で語られることが多いが、日本生命の事例では育児休業取得率がそもそも100%であることから、育児休業取得が「意識」や「働き方」にどのような影響をもたらしたかという逆の因果関係からの分析を試み、今後の育児休業取得に向けた示唆や課題を整理することとしたい5
図表2:日本生命における男性の育児休業取得推進の取組のポイント
 
4 日本生命の従業員数は7万人を超えており、うち、女性が6万人強を占める。全国に点在する支社等は100を超え、1つの支社の管轄下に約14の営業部が存在する。いずれも2016年3月31日現在。
5 「育児休業に関するアンケート調査」や、その前に実施したインタビュー調査にご協力頂いた方々にお礼申し上げたい。日本生命保険相互会社人事部輝き推進室の浜口知実室長、小林あさひ課長には、調査の設計・分析にご協力頂き、分析結果の掲載をご快諾頂いた。本調査の分析においては、生活研究部研究アシスタント太田真奈美氏の協力を得た。記して謝意を表したい。もちろん、本稿の主張は筆者の見解であり、本稿に誤りがあればその責はすべて筆者に帰する。
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