2016年12月13日

ポイントプログラムとは何か~一層の消費者保護と健全な発展に向けて

小林 雅史

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4ポイントの企業会計処理
ポイントについての企業会計処理は、大きく2方式に分けられる。

ひとつは、将来のポイントの使用に備えて引当金を積み、実際にポイントが使用された時点で費用として計上する方式である。

このほか、国際会計基準にもとづき、ポイント付与を伴う商品の販売は、商品の販売とポイント交換による将来の商品の提供に対して顧客から対価を得たものとして捉え、商品の販売と同時に、商品価格の一部について、繰延収益としての処理が行われるケースもある。

具体的には、前者の方式では、商品販売時には商品価格を全額売り上げとして計上、消費者がポイントを使用した時点でその金額を販促費などの費用として計上し、年度末には「1ポイント当たりの単価×失効率を加味したポイント残高」を引当金として計上する。

後者の方式では、商品販売時には商品価格のうち、ポイント相当額を控除した金額を売り上げとして計上し、ポイント相当額は繰延収益とした上で、ポイントの使用時点で使用金額を売り上げとして計上する方式である。

わが国においてはポイントの企業会計処理について明確なルールがなく、会計処理は各社の判断に委ねられており、また、ポイントに対する引当金の開示も一部行われていない状況にある5
 
5地方公共団体などでのポイントプログラムの導入
ポイントプログラム導入の動きは、顧客への商品・サービス販売誘引、顧客系列化をおもな目的とした企業を中心とした動きに加え、地方自治体などでも健康増進に向けたポイント活用が進んでいる。

少子高齢化や人口減少が進む中、高齢でも地域で元気に暮らせる社会の実現に向け、健康増進のため、ウォーキングや健康診断に対するインセンティブとして市民にポイントを付与するものである。

2014年10月には、スマートウエルネスシティ地域活性化総合特区協議会に参加する6市(千葉県浦安市、栃木県大田原市、岡山県岡山市、大阪府高石市、福島県伊達市、新潟県見附市)とつくば大学、みずほ銀行などによる産学官プロジェクトとして、「健幸=健康で幸せの状態(身体面の健康だけでなく、人々が生きがいを感じ、安心安全で豊かな生活を送れること)」ポイント制度が実施された。 

歩いた歩数などに応じて最大2万4000ポイントが付与され、商品券やポンタポイントへの交換などができる仕組みである6

2014年11月には、横浜市と凸版印刷、オムロンヘルスケアの共同事業として、「よこはまウォーキングポイント」制度が発足した

参加者には歩数計を付与し、1日当たり2000歩で1ポイントが貯まり、3か月で200ポイント以上達成を1口として抽選、当選者には3000円相当の商品券が提供される仕組みである7

このほか、介護支援ボランティアに対するポイント付与や、国によるエコポイント事業に類似した環境保全・省エネルギーに対するポイント付与などがある。

財源については、介護保険法により国などの財源支援がある介護支援ポイントを除き、基本的に地方公共団体が負担している8
 
6ポイントの性質とその取扱い(まとめと私見)
このような現状から、ポイントの性質とその取扱については、大きく2つの考え方があるものと考えられる。

1000円の商品・サービスを購入した場合、将来他の商品・サービスと交換できる100ポイント(1ポイント=1円でいつでも交換可能)を付与されたとしよう。

ひとつは、商品・サービスの購入時点では、将来、一定の条件において行使可能なポイントという財産的権利をサービスとして付与されているだけで、ポイントは実際に使用してはじめて権利が確定するという考え方である。

このように考えれば、1000円の売り上げに対し、将来交換されるべき100ポイントが付与されたこととなるから、企業にとっては1000円全額が売り上げとなり、将来消費者がポイントを使用した時点でその金額を販促費などの費用として計上し、年度末には一定の金額を引当金として計上することとなる。

一方、消費者にとっては、ポイントを使用した時点でその金額が一時所得などとして課税されるが、将来の権利行使まではポイント残高は保障されず、ポイント制度が変更・廃止されればポイントは使用できない結果となる。

もうひとつは、国際会計基準と同様の、商品・サービスの購入時点で、1000円の商品・サービスは実質的には900円に値引きされ、将来行使可能な100ポイントという財産的権利を同時に購入したという考え方である。

このように考えれば、企業にとっては1000円ではなく、900円が売上高となり、ポイント相当額は繰延収益とした上で、ポイントの使用時点で使用金額を売り上げに計上することとなる。

消費者にとっては、将来行使可能な100ポイントという財産的権利を自ら購入したこととなるから、とくに課税関係は生じないし、この財産的権利は将来の権利行使まで、通常保障されることとなろう。

後述するこれまでの検討経緯では、前者の考え方が主流となっているようである。

現在、入会と同時に、商品・サービスの購入を伴わずに一定のポイントが付与されるという仕組みもあり、商品・サービスの購入を前提とした値引きという概念からは説明しずらい。

あえて言えば、「事前値引き」とも考えられるが、もしそのポイントの範囲内で商品・サービスを購入した場合には、消費者は無償で商品・サービスを入手する結果となる。

一方、商品・サービスの購入に伴うポイント付与の直後に別の商品・サービスをそのポイントで購入した場合は、実質的には値引きと同様とも評価されよう(ただし、商品・サービスの購入によるポイントを、当該商品・サービスの価格に充当することは通常できず、あくまでも別の商品・サービスの購入に充当することが前提となる)。

筆者としては、後者の考え方は、消費者の立場からすると有利な考え方のようであるが、「1000円の商品・サービスが実質的には900円に値引きされ、将来行使可能な100ポイントという財産的権利を同時に購入した」というのは、少なくとも実際の取引実態とは乖離していると思われる点でやや技巧的であり、前者の考え方の中で消費者の保護を図るべきではないかと考えている。
 
5 金融庁「ポイント及びプリペイドカードに関する会計処理について」(2008年6月18日)、金融審議会金融分科会第二部会決済に関するワーキング・グループ第3回資料、金融庁ホームページ、石井理恵子、田中弘「ポイントプログラムの会計処理」、『商経論叢』第48巻第3号、2013年3月、神奈川大学ホームページ。
6 スマートウエルネスシティ地域活性化総合特別区域協議会、筑波大学、みずほ銀行、みずほ情報総研、つくばウエルネスリサーチ「『複数自治体連携型大規模健幸ポイントプロジェクト実証』の実施について」(2014年10月2日)、スマートウエルネスシティホームページ。
7 「よこはまウォーキングポイント」、横浜市ホームページ。
8 熊坂敏彦「地方自治体による『地域ポイント制度』の新展開」、「調査情報」、2013年7月号、No.39、筑波総研ホームページ。
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小林 雅史

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