2016年10月07日

リオ2016報告-文化プログラムを中心に

東京2020文化オリンピアードを巡って(2)

社会研究部 研究理事   吉本 光宏

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9月18日、リオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック競技大会が終了し、いよいよ2020年の東京大会が4年後にせまってきた。

8月半ばから約2週間、アーツカウンシル東京の依頼でリオに滞在し、文化プログラムを中心にリオ2016大会の視察と調査を行う機会に恵まれた。詳しい調査結果は改めてまとめる予定だが、ここでは文化関係の事業を中心にリオ2016大会の視察報告として整理した。

1――組織委員会と連邦政府の取組

リオ2016組織委員会では、当初文化プログラムをセレブラ(祝祭)と名づけ、文学、大衆文化、音楽、舞台芸術、美術、ダンスの6分野の文化事業を募集し、ストリートや公園、広場、浜辺などで展開する計画だった。そのために2種類のロゴマークも用意されたが[図表1]、残念ながらリオ滞在中にそのマークが付与された文化事業を見かけることはなかった。

関係者の話を総合すると、大統領の弾劾問題など不安定な政治情勢の中、屋外の公共スペースで人々が集まる催し自体が忌避されたことに加え、経済的にも厳しい状況から、組織委員会で計画されていた文化プログラムはほとんど実施されなかった、というのが実情のようである。

そんな中、5月に日本のブラジル大使館でも発表された日本人アーティスト森万里子の立体作品『Ring:One with Nature』は、リオ2016大会の文化プログラムの一環として設置が決まったものだ。現地の報道によれば、セレブラ文化プログラムの一部としてリオ州内の公園で8月3日に公開されている

それに対し、連邦政府文化省はリオ市の文化事業を支援したほか、「アート・モニュメント・ブラジル2016・オリンピック2016」という公募プログラムで「スポーツとアートの接点」をテーマにした作品を募集。281件の応募から彫刻や短編映画など23件を推薦、今後資金援助を行い、年内に完成させる予定だという

またブラジルには「ルアネー法」という民間企業の文化事業への支援を後押しする制度がある。一定の条件に合致すれば、文化事業に投資した額が税金から控除される、というもので、映画製作などではよく使われるという。リオ2016大会の公式スポンサーの中にも、このルアネー法を活用してオリンピックの文化事業を実施したところがあれば、間接的に連邦政府が支援したことになるが、残念ながら現時点では確認できていない。
リオ2016大会の2つのセレブラマーク

2――リオ市の文化支援とパスポート

一方開催都市のリオデジャネイロ市は、今年5月から9月までをオリンピックの文化期間とし、劇場や博物館、美術館、文化センター、図書館、屋外広場などで公演や展覧会、コンサートなど数多くの文化イベントを実施。それらの鑑賞を促す「文化パスポート(Cultural Passport)」を発行した。
文化パスポート
事前に専用のウェブサイトで登録し(ブラジル国民は無料、外国人は15レアル(約500円))、市内5箇所の発行所で受け取った文化パスポートを美術館や劇場に持参すれば、割引もしくは無料で展覧会や公演を鑑賞できるという仕組みである。

登録用のウェブページはポルトガル語と英語で用意され、文化パスポートで鑑賞可能な文化イベントのリストと各施設へのリンク先も、ポルトガル語のみだったがウェブページで公開されていた。

しかし8月15日の午前中(日本時間)、登録をしようとウェブページにアクセスしたところ、サイトは存在しなくなっていた。前日には閲覧可能だったため技術的な問題だと思い、リオに到着後何度かトライしたが同じ状況で、文化パスポートの受け取り場所の一つだったリオ市の文化センターで確認したところ、「It’s over」という答えが返ってきて戸惑うこととなった。

やがて当該サイトを検索すると、「Por determinacao do Tribunal Regional Eleitoral esta SUSPENSO O PROGRAMA PASSAPORT ECULTURAL RIO(地方選挙裁判所の裁定により、文化パスポートは停止中)」という表示が出るようになった。後日、リオ市文化局へのインタビューでその真相が明らかになった。リオ市では今年10月に市長選が行われる予定で、文化パスポートは公職選挙法が選挙の年に禁止している公共財サービスの無償提供にあたるという司法判断が下されたため、文化パスポートの発行が打ち切られてしまったということだった。

しかし既に20万枚近い文化パスポートが発行されており、その使用は継続されていた。滞在中に訪問した美術館の中には、チケット売り場に文化パスポートのステッカーが貼られているところがあり、受付で尋ねたところ「多くの人が文化パスポートを利用し、通常より外国人の入場者も多い。ただし展示はオリンピックやパラリンピックのために特別に企画されたものではない」という答えが返ってきた。
文化パスポートのステッカーが貼られた美術館受付/ブースだけが残された文化パスポートの発行所
またリオ市では、2015年の後半にオリンピック・パラリンピックの文化プログラムの公募を行って資金的な支援を実施した。リオ市の資料によれば、その概要は次のとおりである

応募総数は1,078件で採択は153件。その内訳は、公的機関が26件、民間機関が23件、ポピュラー・シーズンが25件、個別事業へのサポートが68件、芸術へのアクセスの支援が11件となっている。5~10万レアル(約160~310万円)の範囲で、少なくとも130件の事業に総額1,000万レアル(約3億1,000万円)が支給された。オリンピック開催中には1日当たり131件、合計で2,228件、パラリンピック開催中には1日当たり109件、合計1,306件の文化イベントを実施するという内容になっている

文化パスポートはこれらリオ市が支援する事業に加え、民間も含む文化施設が対象になっており、パスポートには博物館・美術館52、アリーナ等14、文化センター10、図書館11、プラネタリウム1、劇場12のリストが掲載されている。美術館や劇場にとっては、入場料収入が減ることになるが、来場者数が増えれば、物販や飲食の収入にも結びつき、結果的に収入増になるという戦略だ。

文化パスポートの目的は、市民の文化鑑賞を促進することで、ブラジルの27州すべてから登録があったことからもその目的はある程度達成されたはずだ、というのがリオ市文化局の見解だ。

なお、文化パスポートにはリオ2016大会のエンブレムが掲載されており、リオ市は組織委員会の了解を得て使用したとのことだった。表紙にはオリンピックカラーをイメージさせるデザインが施されており、当初は「オリンピック文化パスポート」という名称を予定していたが、結果的にオリンピックという用語は使えなかったそうである。
 

 
  1 現地での調査は太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)と共同で実施した。
  3 The Rio Times, Mariko-Mori’s Olympic-Themed Installation in Rio State, 2016.9.9
  4 この作品が文化省の「アート・モニュメント・ブラジル2016・オリンピック2016」の一部であるかどうかは不明。
  5 高橋ジョー「いま、ブラジルは世界に向けてアートを発信する」アートスケープ(2016年8月1日号)
  6 高橋ジョー氏へのインタビューに基づく。
  7 Levantamento da programacao culturalnas Olimpiadas e Paralimpiadas(オリンピック及びパラリンピックの文化プログラムに関する調査)
  8 1件の事業で複数日もしくは複数回の文化イベントが実施された。
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社会研究部   研究理事

吉本 光宏 (よしもと みつひろ)

研究・専門分野
芸術文化政策、文化施設開発、文化施設運営・評価、創造都市、オリンピックと文化

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