2016年08月05日

Fintech(フィンテック)100、1位の衆安保険を知っていますか?-【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向

基礎研REPORT(冊子版) 2016年8月号

保険研究部 准主任研究員   片山 ゆき

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1――世界における中国フィンテック企業の台頭

KPMGと豪ベンチャー・キャピタルのH2 Venturesが発表した2015年の「Fintech100」において、中国の衆安保険(Zhong An)が首位となった[図表1]。Fintech100は、世界の金融サービス業界において最も有利にテクノロジーを活用し、既成概念を変革した実績のある企業上位50社と新興企業50社で構成されている。

Fintech100は、評価対象となる企業の資本が総額でどれくらい増加したか、事業展開の地域やセクター(領域)の多様性、消費者及びマーケットをリードしているかなど、5つの指標に関するデータを分析して選出している。

今般のFintech100の上位50社には、中国企業が7社ランクインした[図表2]。前回の2014年は1社のみであったが、今般はフィンテック先進国とされる英国と互角の戦いとなるなど、中国企業の大きな躍進に注目が集まっている。

また、フィンテック企業への投資も急増しており、KPMGによると、2015年の投資総額は前年のおよそ66%増の200億ドルにのぼるとされている。投資額が多い上位20社のうち、衆安保険は9億3100万ドルで2位となった。衆安保険は、事業拡大のために、米モルガン・スタンレー等、国内外の大手機関投資家から投資を受け、巨額な資金調達に成功した。これによって、企業価値は80億ドルに跳ね上がり、Fintech100での選出は、今後の事業の発展性が大きく期待されていることを裏付けた形となった。
Fintech100上位10社/上位50社における中国Fintech企業

2――衆安保険-中国初のネット専業の保険会社

衆安保険は、2013年に設立された、中国初のネット専業の損害保険会社である。設立には通販最大手のアリババ、SNSに強みを持つテンセント、保険業界第2位の平安保険を中心に、大手旅行サイト(携程)など、ITベンチャーや既存の事業会社、異業種が参加した、オープンイノベーションによる運営となっている。それぞれの強みである小規模企業や個人のネット顧客情報、オンライン決済機能、保険経営のノウハウを持ち寄り、融合させることで、国内ではいまやInsurance×Technology-インシュアテックをリードする存在だ。

また、今般のFintech100では、1位の衆安保険、2位のOscarの両社が保険事業で、両社を含む計7社の保険会社が選出されている。2014年は保険会社が1社も選出されなかったが、保険事業とITの融合の大きな進展が評価された。加えて、11位に選ばれた陸金所(Lufax)は、1位の衆安保険に出資をしている平安保険グループの傘下にあるスタートアップ企業でもある。この点からも2015年は、中国のインシュアテックの普及やその成長ぶりを印象付ける結果となった。

その衆安保険であるが、ネット専業の保険会社として、上海の本部を除き、保険販売のための営業店舗を設置していない。また、保険によっては、ネット決済やスマホのアプリを活用して、加入から給付までの手続きを全てネット上で行なうことができる。つまり、これまでの既存の保険会社とは異なり、拠点の開設や維持、保険の各種手続きにかかるコストを極力抑え、その分を保険料の引き下げや商品開発に向けることができる。

商品については、ネット保険を活用するユーザーの年齢が相対的に若く、学生、独身者、一人っ子同士の若い世帯などが中心となるので、彼らが求めるニーズを徹底的に絞り込んでいる。これによって、保険料は低額で、既存の保険会社ではあまり見かけない特徴のある商品の開発を可能にしている。

衆安保険が販売している商品をみると、自動車保険が大半を占める損害保険会社の商品構成とは大きく異なる。衆安保険は、2015年5月に自動車保険の販売許可を得ているが、現時点では主に、オンラインで手続き等が完結する、ネット通販の取引リスクを対象とした保険の販売に軸足を置いている。よって、販売は株主であるアリババのネット通販を通じてが多い。収入保険料ベースで最も売れている保険商品は、消費者向けでは、アリババ傘下のC2C(個人間取引)の淘宝ネット(タオバオネット)で購入した商品に欠陥や不満があり、商品を返送する場合、その送料をカバーする保険商品である(図表3で「その他」に該当)。この保険は、衆安保険の設立以降、主力商品として2013年、2014年の収入保険料全体のおよそ8割、2015年でも6割を占めている。一方、ネット通販の事業者向けには、アリババ傘下のB2C(企業-個人間取引)の天猫(Tmall)へ出店する際に必要な保証金を補償する保険(図表3で「保証保険」に該当)があり、衆安保険の収入保険料全体の1~2割ほどで推移している。

直近の2015年については、上掲の保証保険や、保険期間が1年間の傷害保険の販売が増加したこともあって、収入保険料は、前年のおよそ3倍となる22億8000万元となった。ただし、これは同年の損害保険の収入保険料総額の0.3%、業界内でネットを介した収入保険料全体の1.0%に過ぎず、その規模はまだ小さい。

商品は、前掲に加えて、オンライン決済口座の資金が盗まれた場合の補填を行なう保険など、ネットやスマホユーザーを対象とした多様性に富んだ商品が販売されている。一方、医療保険分野では、重大疾病に加えて、遺伝子に係る諸検査の結果を反映させる保険商品など、実験的な試みもしている。ネット上に掲載している商品数は200を超え、同社が抱える保険加入履歴、オンライン決済口座の取引履歴やネット通販にかかるビックデータを分析、活用し、伝統的な保険商品の規制概念を変革する新たな商品を毎年100種ほど発売している。

さて、そんな衆安保険の今後であるが、2015年の巨額な資金調達を背景に、積極的な業務展開を考えている。 

まず、収入保険料ベースで8割程度であったアリババへの依存度を今後、4割まで縮小する目標を掲げている。その分、医療保険分野などでインシュアテックを活用した新たな商品の開発に余念がない。例えば、新たに発売された糖尿病患者を対象とした保険は、スマホと同型のタッチパネル式の血糖値測定端末を通じて、定期的に血糖値のデータを取り、正常値であった場合や、適切な食事や運動によって、血糖値が規定値を下回った場合、保険金が一定額加算される仕組みとなっている(ただし、加算額に上限あり)。日本でも被保険者の健康状態や喫煙歴などの情況に応じて保険料を割り引く保険商品があるが、衆安保険のこの保険は、患者が症状を一定に保つもしくは改善の努力をすることで保険金が加算されていくという内容となっている。
衆安保険で販売している保険商品の収入保険料規模

3――エンドユーザーの味方、としてのフィンテック

そもそも、中国ではIT(情報技術)の成長について、海外勢の参入を制限し、地場のITベンチャーによる自国のユーザーのニーズにマッチした開発が行なわれてきたという特徴がある。しかもこの成長が短期間で、急速に進んだという点が大きい。ネットユーザー7億人という足元にある‘国内’マーケットは、とりもなおさず世界最大のマーケットでもある。自国のユーザーのニーズに特化し、新たに開発した金融サービスが受け入れられることが世界的な成長に直結しているのだ。

衆安保険の大株主であるアリババは、オンライン決済(支付宝・アリペイ)、オンライン金融商品(余額宝)の開発、また、オンラインの小口融資(アリ金融)など、このわずか数年で、国内のITと金融サービスの融合を一気に推し進めた。その際、取り込んだのは、既存金融事業の担い手である大手国有銀行が見向きもしなかった、膨大な数の中間所得層以下の個人顧客である。エンドユーザーの目線に立った、利便性の高い金融インフラを構築し、短期間で社会の金融に対する有り方を変え、新たな価値を生み出したのが成功の要因であろう。また、国も2015年には「インターネット+」として、ITと産業の融合を国の成長戦略の1つに決定した。保険各社においても、第2の衆安、平安を目指して、新たなビジネスモデルが日々、模索されている。

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保険研究部   准主任研究員

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の保険・年金・社会保障制度

(2016年08月05日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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