2016年06月09日

マネー統計(16年5月分)~貸出の勢いが静かに強まっている

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 伸び率は横ばいだが、実態は拡大か

日銀が6月8日に発表した貸出・預金動向(速報)によると、5月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.2%で前月(前年比2.2%)から横ばいとなった。ここ数ヵ月、見た目の伸び率は2%台前半で一進一退だが、為替変動等の影響を調整した「特殊要因調整後」の伸び率(図表1)1では上昇基調となっており、直近判明分である4月の伸び率は前年比2.55%と2009年7月以来の高水準を記録している。

この両者の乖離は、主に円高の進行によって外貨建て貸出の円換算額が押し下げられたことに起因する。5月のドル円レートの前年比は4月よりもマイナス幅を拡大(図表3)しているにもかかわらず、貸出の見た目の伸び率が横ばいを維持していることから、為替等の影響を除いた実態としては、伸び率が拡大している可能性が高い。
(図表1)銀行貸出残高の増減率/(図表2)業態別の貸出残高増減率/(図表3)銀行貸出とドル円レート(月次平均の前年比)/(図表4)業種別貸出の伸び率(前年比)
また、業種別の貸出動向(3月末まで)を見ると、はん用・生産用・産業用機械や不動産の前年比伸び率が高く、かつ12月末時点から伸びが高まっている。とりわけ不動産向けは全体に占めるウェイト(14.4%)が非常に高く、貢献度が高い(図表4)。
(図表5)国内銀行の新規貸出金利 なお、3月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.66%(2月は0.706%)、長期(1年以上)が0.705%(2月は0.867%)とともに低下した(図表5)。短期は14年8月の0.643%に次ぐ過去2番目の低水準、長期はこれまでの最低であった15年3月の0.826を大きく下回り、過去最低を更新した。マイナス金利の導入が貸出金利にも波及している(図表5)。
 
以上、最近は貸出金利が明確に低下し、実態として貸出の伸び率が拡大、さらに業種別では不動産向け貸出が寄与している。マイナス金利導入による金利低下が、低金利の追い風を受けやすい不動産向けを中心に貸出を促している可能性があり、この一連の動きが今後も続くのかが注目される。
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは4月分まで。

2.マネタリーベース: 積み上げペースが実質的にもやや鈍化

6月2日に発表された5月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベース平均残高は前年比で25.5%の増加となり、伸び率は前月(同26.8%)からやや低下した。これは主に日銀当座預金の伸び率が前年比34.1%と前月(36.1%)から低下したことによるものだ。従来、日銀当座預金の伸び率は緩やかな低下基調にあったが、単に分母にあたる前年の残高増加に伴うものであり、日銀当座預金の前年差額は、74兆円前後で安定的に推移していた。ただし、5月については、前年差額が71.6兆円と前月の74.4兆円から縮小しており、実質的に積み上げペースが鈍化している。

なお、これまで大きく増勢が強まっていた日銀券(紙幣)発行残高については、前年比6.5%(前月は6.8%)と5ヵ月ぶりに伸び率が縮小した。残高は増加したが、前年同月に大幅に増加していたため、その反動が出た(図表6~7)。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移 金融政策との関係では、現行の金融政策におけるマネタリーベース増加目標は「年間約80兆円増」であり、単純計算では月当たり6.7兆円増が必要になるが、5月の月末残高の前月末比増加額はわずか0.5兆円に留まった。5 月は季節柄、財政資金の受け払いが受け超になりやすく、国債の発行超も大きいことから日銀当座預金が増加しにくいという事情がある。

ただし、季節調整済みのマネタリーベースの月間平均残高で見ても、5月の増加額は前月比5.6兆円と、目標達成ペースをやや下回っている(図表8)。また同ベースにて、今年に入ってからの1-5月の平均増加額を見ても、月6.3兆円の増加ペースに留まっており、目標達成ペースの月6.7兆円をやや下回っている。まだ十分挽回可能な状況だが、今後の動向には多少留意が必要になってきた。

3.マネーストック: 投資信託の減速が止まらない

日銀が6月9日に発表した5月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.4%(前月改定値も3.4%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.8%(前月改定値も2.8%)と、それぞれ前月から横ばいとなった。
(図表9) M2、M3、広義流動性の動き/(図表10) 現金・預金の動き/(図表11) 投資信託と準通貨の動き
M3の内訳では、現金通貨の伸びが前年比6.4%(前月は6.8%)と低下し、マネタリーベース中の日銀券発行残高とほぼ整合的な動きを示している。また、預金通貨(普通預金など)の伸び率も6.8%(前月改定値は6.9%)と小幅に低下した。一方、準通貨(定期預金など)、CD(譲渡性預金)のマイナス幅はやや縮小している(図表9~10)。
 
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比2.1%(前月は2.7%)と前月から大きく低下。1月時点の3.6%から急激な低下が続いている。内訳のうち、M3の伸びは横ばいであったが、残高が比較的大きい金銭の信託(前年比伸び率:前月2.0%→当月-1.2%)が減少に転じたほか、投資信託(元本ベース・前年比伸び率:前月11.0%→当月8.9%)の伸びが大きく低下したことが響いた。

投資信託の伸び率は1桁台へと低下した。マイナス金利の影響で運用難に陥ったMMFが販売停止となり、一部で払い戻しが行われているほか、円高・株価の低迷が長引き、家計などがリスク性資産への投資を手控えている可能性が高い。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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