2016年04月18日

米国PBR(プリンシプル・ベースの責任準備金評価)制度の動向-ついに、2017年からスタートか-

保険研究部 取締役   中村 亮一

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■要旨

米国では、現在PBR(プリンシプル・ベースの責任準備金評価:Principle Based Reserving)制度導入に向けて、各種の検討が行われている。PBR制度が効力を発するためには、全米各州が、一定要件を満たす形で、NAIC(全米保険監督官会議)の標準責任準備金法等の改正を採択する必要がある。
今回、各州の採択が進み、4月3日~4月6日にかけて開催されていたNAICの春季会議において、改正法が効力を発するための数的要件が満たされた、ことが公表された。今後は、各州の採択内容がNAICのモデル法と「実質的に同等」である、との要件の確認が行われていくことになる。これらの要件が満たされていることが確認されれば、2017年からPBR制度が導入されることになる。
このレポートでは、PBR制度を巡る動向について、全米各州の改正法採択の状況、PBR制度導入に向けた今後の動き及びPBR制度導入による影響と今後の課題について報告する。

■目次

1―はじめに
2―PBR制度を巡るこれまでの経緯
  1|PBR制度とは
  2|背景とこれまでの経緯
3―各州毎のPBR改正法採択の状況
  1|各州毎の採択状況
  2|各州毎の採択内容の差異と「実質的に同等」の判断基準
4―PBR制度導入に向けた今後の動き
  1|今後のスケジュール
  2|NAICでの検討
  3|その他の関係機関での検討
5―PBR制度導入による影響と今後の課題
  1|「適正なサイズの責任準備金」の考え方には幅が存在
  2|キャプティブ活用の魅力の減退
  3|責任準備金積立額の軽減効果
  4|新たなPBR制度と既存制度との並存による負荷の増加
  5|ニューヨーク州の採択動向とそれが保険会社に与える影響
6―まとめ

1―はじめに

1―はじめに

米国では、現在PBR(プリンシプル・ベースの責任準備金評価:Principle Based Reserving)制度導入に向けて、各種の検討が行われている。PBR制度が効力を発するためには、全米各州が、一定要件を満たす形で、標準責任準備金法等の改正を行うNAIC(全米保険監督官会議)のモデル法を採択する必要がある。
今回、各州の採択が進み、4月3日~4月6日にかけて開催されていたNAICの春季会議において、改正法が効力を発するための数的要件が満たされた、ことが公表された。今後は、各州の採択内容がNAICのモデル法と「実質的に同等」である、との要件の確認が行われていくことになる。これらの要件が満たされていることが確認されれば、2017年からPBR制度が導入されることになる。
このレポートでは、PBR制度を巡る動向について、全米各州の改正法採択の状況、PBR制度導入に向けた今後の動き及びPBR制度導入による影響と今後の課題について報告する。
 

2―PBR制度を巡るこれまでの経緯

2―PBR制度を巡るこれまでの経緯

1|PBR制度とは1
PBRとは、その名が示すとおり、これまでのルール・ベースの責任準備金評価とは異なり、プリンシプル・ベースで責任準備金評価を行う方式である。具体的には、これまでの「算式や計算基礎率等の前提を含めて、法令等に詳細な内容を規定する方式」とは異なり、「法令等には、基本的には考え方等のプリンシプルのみを規定し、その原則に基づいて、各社の判断で、適切な責任準備金評価の詳細な内容を決定していく方式」である。

2|背景とこれまでの経緯
(1)背景
米国の責任準備金評価については、現在は、基本的にはルール・ベースの基準で規定されている。
CRVM(監督官式責任準備金評価方式:Commissioners’ Reserve Valuation Method)と呼ばれる責任準備金評価方式が、その算式や基礎率等の前提を含めて、法令に規定されている。さらに、これらの細部については各種のガイドラインや実務基準等が作成される等、極めて充実したラインナップで規制されている。
これらのガイドラインや基準等については、これまで保険商品の多様化・複雑化に対応して、新たな規制の設定や既存の規制の改定が適宜行われてきた。ただし、近年はこれでは必ずしも十分に対応しきれないケースが発生していた。

(2)NAICの標準責任準備金法の改正等
こうした背景を踏まえて、従来のルール・ベースでの逐次対応に限界があることが否定できない状況になり、NAICによって、プリンシプル・ベースの考え方の導入が、まずはリスク管理から、その後責任準備金評価へと段階的に進められてきた。
こうした経緯を経て、一般商品に対しては、NAICベースで、以下の決定がなされていた。
プリンシプル・ベースの考え方
(3)PBR制度導入の要件
この改正法が効力を発するためには、各州における法改正のプロセスが必要となる。
実際に「責任準備金評価マニュアル」の効力が発生するのは、標準責任準備金法第11条の規定により、「以下の要件が全て満たされた場合の最初の7月1日に続く暦年の1月1日」となる。
責任準備金評価マニュアルの効力が発生する要件
これを受けて、これまで、多くの州が法改正に向けて取り組んできている。
 
 
1 PBR制度の具体的な内容については、例えば、筆者による、基礎研レポート「米国の責任準備金評価制度はIMFによってどう評価されたのか―米国に対するFSAP〔保険セクター〕の結果報告-」(2015.5.11)を参照していただきたい。
 

3―各州毎のPBR改正法採択の状況

3―各州毎のPBR改正法採択の状況

NAICがその春季会議において公表した内容によれば、その時点において、全体保険料の75.003%を占める42の管轄地域が改定後の標準責任準備金法等を採択した。これにより、上記の要件の①~③のうちの数的要件が満たされることになった。今後、PBR改正法が効力を発するためには、②と③に規定されている、各州の採択内容がNAICのモデルと「実質的に同等(substantially similar」との確認を行うことが必要になる。

1|各州毎の採択状況
主要州はほぼ採択が完了しているが、ニューヨーク州は採択の予定がない模様である。ニューヨーク州は、現行の枠組みによるPBR制度に対して否定的なスタンスをとってきていることから、そうした考え方を反映したものとなっている。
採択のための要件を満たすためには、ニューヨーク州、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州、ペンシルヴァニア州の上位5州の保険料シェアの合計が35.25%となっているため、これらの5州のうち、少なくとも3州で採択されないと状況が厳しくなる。今回は、ニューヨーク州は反対していたが、他の4州のうちカリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州の3州が採択(ペンシルヴァニア州は2016年中に採択予定)のため、数的要件が満たされることとなった。
 
(参考1)各州毎の改正法の採択状況(2016年4月6日時点)
なお、NAICの資料によれば、ペンシルヴァニア州以外にも、2016年中に、アラバマ州、マサチューセッツ州、サウスカロライナ州が採択を予定しており、これら4州の保険料シェアの合計は11.92%となっている。

2|各州毎の採択内容の差異と「実質的に同等」の判断基準
これから問題になってくるのは、各州の採択した法が「実質的に同等」といえるのかどうか、という点にある。
例えば、NAICのモデル法では、PBRの適用は今後の新契約から、となっているが、ミシガン州は、遡及的に適用する、としている。さらには、いくつかの州は、法律を通すために、「小規模会社に対する適用免除(Small Company Exemption)」の規定を加えている。
これについては、法的専門知識を有する監督官のグループが、各州の州法が「実質的に同等」かどうかを決定するための評価を行っている。この評価による勧告を受けて、NAICの「PBR実行TF(タスク・フォース)Principle-Based Reserving Implementation (EX) Task Force)」が検討を行い、本会議への勧告を行うことになる。
なお、「小規模会社に対する適用免除」規定に関しては、PBR実行TFが規制規準2を採択しており、これが今後のプロセスを経て、責任準備金評価マニュアルに含まれる形で改正される方向で進んでいる。この規定と整合的でない法律を採択している場合には、「実質的に同等」と見なされない可能性があることになる。
 
2 この規準によれば、2013年のデータベースで、概ね362の保険会社、生命保険料収入で4.6%に相当する会社が、適用免除の対象になると見積もられている。
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保険研究部   取締役

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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