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1――非主流派候補の躍進
既存の政治に対する激しい批判と不法移民の排斥を唱えるトランプ候補の言動は、世界の注目を集めている。もうひとりの共和党有力候補であるクルーズ上院議員は「ティーパーティ-」(茶会)と呼ばれる草の根の保守派運動の中心的人物のひとりだ。二人のどちらが大統領になっても、政府を信頼せずより小さな政府へという動きを加速する方向に政策を向かわせるだろう。
民主党ではクリントン候補が大きく優位に立っているものの、少し前までは無名に近かったサンダース候補が予想外の善戦を続けている。アメリカと言えば、政府が経済活動に介入することを嫌い、個人の自立が求められる自己責任社会というイメージだ。若者が中心だとはいうものの、これほど多くの米国民が、公的な皆保険制度の導入や教育の無償化で格差問題を改善すると主張するサンダース候補を支持するとは思ってもみなかった。
2――揺れる経済思想
しかし、政府の積極的な関与がインフレを生んだという批判や、社会主義国家の行き詰まりが次第に明らかになる中で、サッチャリズムやレーガノミクスに代表されるように、政府の介入を縮小して市場原理に任せるべきだという考え方に回帰した。1978年に中国で鄧小平が改革開放政策を開始し、1991年末にソビエト連邦が崩壊すると資本主義の勝利が謳われ、この方向は決定的になった。
3――「99%」の不満
所得格差の縮小と経済成長とは対立すると捉えられることが多いが、これはあまりに短期的な影響に偏った見方だ。市場で行われる取引や所得・資産の分配が公正で妥当なものだという信頼が無ければ、資本主義経済は機能しない。格差の拡大を放置すればこうした信頼が次第に失われていくだけでなく、消費の低迷から経済成長を阻害することになる恐れもある。国際的な格差の拡大はテロや戦争の温床となって、世界経済全体を不安定にするだろう。国内の格差は政治的対立の激化や社会の不安定化、犯罪の増加につながって経済活動を阻害するだけでなく、ついには民主主義をも崩壊に導きかねない。
適切な政府の関与が必要不可欠であることは誰もが認めるが、関与すべき領域や程度について世の中の考え方が揺れ動いてきたのは上述のとおりだ。
今回のアメリカ大統領選挙は、アメリカ国民の政府に対する考え方が、大きく分裂していることを示している。政府活動の拡大が問題を悪化させたとして小さな政府を目指すのか、それとも政府の行動が不十分なことが問題を悪化させたとして、より積極的な関与を求めるのか。大統領選挙が終わってからも、アメリカの政治は対立の構図が続く恐れが大きいだろう。
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櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
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(2016年04月07日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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