2016年03月25日

中国経済:景気指標の総点検と今後の注目点(2016年春季号)

三尾 幸吉郎

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1.中国経済を供給面から点検すると

(図表1)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 【工業生産】
中国経済を供給面から見る上で最も重要な指標は工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)である。1-2月期の工業生産は前年同期比5.4%増と12月の同5.9%増を0.5ポイント下回った。昨年の最低値(3月と10月の同5.6%増)を下回ってきており、工業生産には下ぶれ懸念が浮上している(図表-1)。前月比(季節調整後)で見ても、2月は0.38%増と12月の0.40%増、1月の0.43%増を下回っている。
 
(図表2)製造業PMI 【製造業PMI】
供給面を見る上では製造業PMI(中国国家統計局)も重要な景気指標である。これは製造業3000社の購買担当者に対し毎月実施されるアンケート調査の結果を元に計算されるもので、通常は50%が景気強弱の分岐点とされる。2月の製造業PMIは49.0%と7ヵ月連続で50%割れとなった。また、先行的な動きをする新規受注(製造業PMIの算出において3割と最大ウェイト)も48.6%と1月の49.5%を0.9ポイント下回ったことから、製造業PMIは冴えない動きが続くと見られる(図表-2)。
 
(図表3)非製造業PMI 【非製造業PMI(商務活動指数)】
一方、中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中なため、製造業だけを見ていたのでは構造変化に翻弄される恐れがある。そこで注目したいのが非製造業PMI(商務活動指数)である。製造業PMIと同様に50%が景気強弱の分岐点とされる。2月の非製造業PMIは52.7%と、12月の54.4%を直近ピークに2ヵ月連続で低下してきた。まだ50%を上回るレベルを維持しており、同予想指数が2月は上昇したことを踏まえれば、現時点では大きな問題は無いと考えられるものの、陰りが見え始めた点には留意が必要である(図表-3)。
 

一方、需要面を点検すると

2.一方、需要面を点検すると

(図表4)小売売上高の推移 【小売売上高】
個人消費の動きを見る上で代表的な指標となるのが小売売上高である。1-2月期の小売売上高は前年同期比10.2%増と12月の同11.1%増を0.9ポイント下回った(図表-4)。飲食、衣類、日用品から家電に至るまで幅広い分野で、昨年の伸びを下回っている。また、食品価格などの上昇でインフレ率が反転上昇したことを受けて、価格要因を除いた実質では同9.6%増と12月の同10.7%増を1.1ポイント下回った。好調だった消費には物価面から下押し圧力が掛かってきた。
 
(図表5)固定資産投資(除く農家の投資)の推移 【固定資産投資】
 また、投資の動きを見る上で代表的な指標となるのが固定資産投資(除く農家の投資)である。固定資産投資は毎月発表されるものの、1月からの年度累計で公表されるため、時系列の動きは読み取り難い。そこで、当研究所で月次に直したのが図表-5である。1-2月期は前年同期比10.2%増と12月の同7.8%増(推定1)を上回り、取り敢えず減速に歯止めが掛かった。但し、依然10%を挟んだ一進一退のボックス圏内に納まっている。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
(図表6)輸出(ドルベース)の推移 【輸出金額】
世界の工場といわれる中国では輸出需要が生産動向を左右する。1-2月期の輸出金額(ドルベース)は前年同期比17.8%減と大幅な前年割れとなった(図表-6)。昨年1-2月期に同14.9%増と好調だった反動もあるが、輸出需要の低迷は明らかで、景気の下押し要因となっている。先行指標となる新規輸出受注(製造業PMI)を見ても、17ヵ月連続で50%を下回るとともに、2月は47.4%と低位に留まったことから、先行きにも明るさは見えない。
 

3.その他の景気指標を点検すると

3.その他の景気指標を点検すると

【電力消費量】
その他の景気指標では電力消費量も重要である。李克強首相は特に工業の電力消費量を重視していたとされる。足元の動きを見ると、1-2月期の電力消費量は前年同期比2.0%増と12月の同1.9%減(推定)から小幅ながらプラスに転じた。業種別に見ると、第2次産業では前年同期比2.1%減と前年割れが続いた一方、第3次産業は同11.9%増と12月の同10.0%増(推定)から伸びが加速した(図表-7)。このような二極化は第2次産業の悪さと第3次産業の堅調さを示すものといえる。
 
(図表7)電力消費の推移/(図表8)電力消費量(業種別)
【貨物輸送量】
また、貨物輸送量の注目度も高い。鉄道貨物輸送は李克強首相が重視していたとされる指標だが、全体の過半を占める石炭がエネルギー改革の中で構造的減少、景気とかけ離れた動きを示す恐れある。そこで、貨物輸送量に占める比率が高い道路貨物輸送を主に見ることとしている(図表-9)。道路貨物輸送は電子商取引(EC)など新たな消費活動の動きを反映するという利点もある。足元の動きを見ると、1-2月期の道路貨物輸送は前年同期比1.3%増と昨年の同6.4%増から急減速した。前年同期に高い伸びを示した反動もあるため、景気悪化の兆候だとするのは時期尚早だが、好調だったECに陰りがでた可能性も排除できないため、4月発表の3月統計に注目したい(図表-10)。
 
(図表9)貨物輸送量の内訳(2015年)/(図表10)鉄道貨物輸送と道路貨物輸送
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三尾 幸吉郎

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