2016年03月03日

労働市場は回復しているものの、依然として残る改善余地

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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米国の労働市場は回復基調が持続している。代表的な指標である非農業部門雇用者数と失業率をみると(図表1)、非農業部門雇用者数は、月間平均増加数が14年に25.1万人増と99年以来の高水準となった後、15年も22.8万人増と20万人超を維持しており、着実に増加している。雇用はリーマン・ショックに伴う金融危機により08年から09年にかけて860万人程度喪失されたが、足元では危機前を既に490万人程度上回っている。さらに、金融危機後に一時10%まで上昇した失業率も、FRBが長期目標とする5%割れまで低下しており、FRB関係者からは完全雇用に近づいているとの評価も出ている。
非農業生産部門雇用増および失業率、時間当たり賃金の伸び率
一方、失業率が金融危機前の水準に回復したにも係わらず、賃金の伸びは前年比で2%台半ばと、3%台後半から4%近い水準であった危機前を大幅に下回っており、回復が遅れている(図表2)。賃金の回復がもたついている理由として、給与水準が低い小売業や飲食業で雇用が増加していることや、雇用形態として相対的に給与水準の低いパートタイム労働者の割合が高まっているなどの要因が指摘されるが、筆者は人口対比で依然として雇用が十分でないことによる影響が大きいと考えている。すなわち失業率が示すほど米国の労働需給がタイトでない可能性である。
 
実際、生産年齢人口(16歳以上人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数の合計)の比率を示す労働参加率は62.7%と、危機前を3%以上下回っているほか、77年以来およそ40年ぶりの水準に低迷している。これは、人口対比で職探しを諦めて労働市場から退出した人の割合が高いことを示している。もっとも、労働参加率は、高齢化などの人口動態変化によって、人口に占める現役世代の割合が下がることでも趨勢的に低下するため注意が必要だ。このため、米国の人口統計を用いて人口動態の変化により労働参加率がどう推移するか推計を行った(図表3)。この結果、高齢化の影響のみを反映した労働参加率の推計値は足元で64%台前半と、実績値とは依然として2%弱の乖離があることが分かった。乖離の存在は、年齢以外の要因で職探しを諦めた人数が多いことを示唆しており、労働需給に依然として活用されていない部分である緩み(スラック)が存在している証左と言える。公表される失業率では、職探しを諦めた人は失業者にカウントされないことから、労働参加率が低いことと併せて考えると失業率が労働需給を過大評価している可能性が高いと言えよう。
労働参加率、世代別就業率
さらに、生産年齢人口に対する就業者数の比率を示す就業率も60%を割れており、金融危機後に落込んだ水準からは回復しているものの、60%台前半であった金融危機前の水準を依然として回復していない(図表4)。雇用者数は金融危機前を上回る水準に回復したものの、米国では年間2百万人を超える人口増加が続いており、人口増加に見合う十分な職がない可能性が高いことを就業率が示している。
 
もっとも、就業率も労働参加率同様に高齢化によって現役世代が減少することで低下する傾向があるため、注意が必要だ。このため、世代別に就業率をみると、16歳から24歳の若年層で危機前の水準を大幅に下回っているほか、働き盛りのプライムエイジと言われる25歳から54歳の世代でも就業率の回復が十分でないことが分かる。若年層の低迷については、高等教育への就学率の上昇などによる構造変化も指摘されるが、プライムエイジでは説明がつかないため、人口動態や就学などの構造要因ではなく、景気悪化に伴う循環的な要因が大きいと考えるべきだろう。
 
以上みてきたように、労働市場には依然としてスラックが存在しており、賃金の回復が緩やかに留まる要因になっているとみられる。今後、労働参加率や就業率の改善を伴うスラックの解消がみられれば、賃金の伸び加速が期待できる。米国では15年の実質GDP成長率が前年比+2.4%と主要先進国で最も高い成長となるなど、労働市場の回復を背景に消費主導の経済成長が持続している。16年に入り、中国をはじめ新興国経済に対する減速懸念が強まっているほか、ドル高が加速するなど、米国経済を取り巻く環境は厳しくなっており、内需主導で米国の経済成長が持続するかは、労働市場の回復持続性が鍵を握っている。雇用者数や失業率に加え、労働参加率や就業率の改善を伴う本格的な回復が実現するか注目される。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2016年03月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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