2016年02月12日

欧米生保市場定点観測 米国最大手生保メットライフの会社分離計画―ノンバンクSIFI指定を巡る攻防―

保険研究部 主任研究員   松岡 博司

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■要旨

本年1月12日、米国最大生保であるメットライフが、米国内の個人向け生命保険・年金事業を切り離す方向であることを発表した。
2000年に株式会社化して以降、シティグループの保険部門、AIGの海外部門(アリコ)など、活発に買収を繰り返して事業を拡大してきたメットライフが、今回はダウンサイジングに挑むという。その背景は何か。
同社の分離計画の概要とその背景たるノンバンクSIFI(システム上重要な金融機関)指定をめぐる論争をレポートする。

 
■目次

はじめに
1――メットライフが発表した分離計画の内容
  1|詳細はまだ検討中
  2|分離対象の事業
  3|分離後の本体に残る事業
2――メットライフが発表した組織変更の目的と背景
  1|事業の選択と集中
  2|ノンバンクSIFI指定による規制強化に抵抗するため
3――メットライフが指定を拒否するノンバンクSIFIとは
  1|ノンバンクSIFIの指定を受けたのは4社
4――ノンバンクSIFI指定を拒否するメットライフの主張
  1|メットライフは金融システムの脅威にならない
  2|4つのグループがアミカスブリーフを提出
さいごに

はじめに

はじめに

本年1月12日、米国最大生保であるメットライフが、米国内の個人向け生命保険・年金事業を切り離す方向であることを発表した。
中核会社の名前はメトロポリタン、本社はニューヨークと、いかにも都会派の同社は1868年の創業。20世紀の間を相互会社としてすごした同社は、巨大化競争に参じるべく、2000年に株式会社化を果たし、以降、シティグループの保険部門、AIGの海外部門(アリコ)など、活発に買収を繰り返して事業を拡大してきた。特にアリコの買収は、それまで米国限定のイメージが強かった 同社の、(わが国を含む)海外でのプレゼンスを一気に高めた。
そのメットライフが、今回はダウンサイジングに挑むという。その背景は何か。
今回は、同社の分離計画の概要とその背景たるノンバンクSIFI(システム上重要な金融機関)指定をめぐる論争をレポートする。

1――メットライフが発表した分離計画の内容

1――メットライフが発表した分離計画の内容

1詳細はまだ検討中

本年1月12日に同社が発表したのは、「米国内のリテールセグメントの相当部分の分離を追求する」という方針を記載した約9.000字の文書である。
具体的なスケジュールは未定である。また、どのような形で分離するかについても未定であり、現在、公募による独立公開企業の発足、スピンオフ(親会社との資本関係があるなど関係が深い別会社とすること)、売却など、さまざまなオプションが検討・評価されている段階である。
 
2分離対象の事業
 
分離される米国のリテール生保・年金ビジネスは、2015年9月の数値で見ると、メットライフの全体営業利益の約20%、また米国内全リテールセグメントの営業利益の50%に相当する事業である。
また、分離した事業を一つの会社としたとすると、新会社は約2400億ドルの巨大な総資産を有することになる。
なお、メットライフの米国内変額年金勘定の約60%が分離の対象となっている。
次の現子会社群は、分離されることが決定している。
メットライフインシュアランスカンパニーUSA
ジェネラルアメリカンライフインシュアランスカンパニー
メトロポリタンタワー生命保険会社
メットライフインシュアランスカンパニーUSAが引き受けるリスクを再保険している子会社群
 
3分離後の本体に残る事業
 
メットライフに分離後に残る主な事業部門は、(1)GVWB(2)CBFの2部門と(3)その他の事業である。
メットライフは、米国市場では、GVWB事業を通じて従業員給付のリーダー、CBF事業を通じて年金および退職商品の主要プロバイダーであり続けるとしている。
 
(1)GVWB(Group Voluntary and Worksite Benefits)部門
企業市場で従業員に加入を促す任意加入の団体保険商品である団体生命保険、団体歯科診療保険、団体短期就業不能保険、団体長期就業不能保険等を提供
 
(2)CBF(Corporate Benefit Funding)事業
従業員に年金、退職給付を提供している大規模雇用主に投資マネジメントを提供
具体的な商品としては、年金、退職商品を提供
 
(3)メットライフに残る米国リテール向け事業は以下のとおり。
生命保険閉鎖勘定(株式会社化した際に、旧相互会社時代の保険契約を株式会社化以降の契約と分離して設けられた勘定)
損害保険
メトロポリタンライフインシュアランスカンパニー(MLIC)を通じて販売された生命保険および年金事業。MLICは、分離後は、個人生命保険および個人年金の引き受けを行わない。

2――メットライフが発表した組織変更の目的と背景

2――メットライフが発表した組織変更の目的と背景

以上のような、形態も時期もまだ決まっていない、生煮えとも言える状態の計画をなぜ発表したのか。そこには、メットライフを巡る厳しい環境が見えてくる。
先の発表文書から、メットライフが今回の分離に関して、目的・背景と考えているらしきものをあげると、以下の2点となる。
 
1|事業の選択と集中
 
目的の1つは、メットライフが得意とする企業市場における団体保険事業に特化することによる、競争力の強化である。
 
「米国では、分離は、私たちが長い間市場をリードしてきている団体保険事業に、さらに熱心に集中することを可能にする。
世界的には、我々は成長を促進し、魅力的なリターンを産み出すために、成熟市場と新興市場のミックスで事業を行うことを続けていく。」
 
2|ノンバンクSIFI指定による規制強化に抵抗するため
 
しかしながら、世間の注目を集めたのは、むしろこちらの側面である。
メットライフは2014年12月にシステミックリスクをおこす可能性のあるノンバンクSIFI(システム上重要な金融機関)と指定された。
しかし同社はその決定を不服として、1ヶ月後の2015年1月に、指定の取消しを求める訴えをワシントンD.Cの連邦地方裁判所に提起した。法廷論争はまだ続いているが、今回の分離計画の発表は、SIFIと指定したノンバンク金融機関に対して連邦政府が新しい規制を課してくることへの先制対応として、資本増強やコンプライアンス負担を軽減する計画の一環であると見られている。
発表文書は以下のように述べている。
 
「現在、米国のリテール部門はシステム上重要な金融機関(SIFI)の一部であり、実施されれば競争上極めて不利な状況をもたらすであろう、より高い資本要件を課されるリスクにさらされている。
私たちは法廷でSIFI指定に対して訴えをおこしている。また、メットライフのいずれの部分もシステム上のリスクをもたらすとは考えていない。しかし、より高い資本要件を課されるリスクが、事業の分離を追求するという我々の決定に貢献した。」
「独立した会社は、もっと焦点を絞った、柔軟な商品とオペレーション、およびSIFI指定会社に課される自己資本やコンプライアンス規制の対象外となることによる、資本とコンプライアンスに対する要求水準の低下による恩恵を受けるだろう。」
「我々は独立した新会社にすれば、もっと効果的に競争し、株主のためにより大きなリターンを産むことができるだろうと結論づけている。」
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保険研究部   主任研究員

松岡 博司 (まつおか ひろし)

研究・専門分野
生保経営・生保制度(生保販売チャネル・バンカシュランス等、主に日本生命委託事項を中心とする研究)

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