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EUソルベンシーIIの動向―最近のUFR(終局フォワードレート)を巡る議論はどうなっていたのか―
中村 亮一
1―はじめに
その後半年あまりが経過して、2016年1月を迎えたが、結局は4.2%の水準は見直されることなく、ソルベンシーIIがスタートしている。今回のレターでは、前回のレターを報告した2015年7月以降のUFRを巡るこの間の議論の状況等について報告する。
2―UFR(終局フォワードレート)とは
1|UFRとは
一般的に、市場で得られる一定の流動性がある信頼度の高い金利は、20年、30年といった期間までに限定される。これに対して、生命保険会社は終身保険等の超長期の保険商品を販売しているため、将来的にこれらの契約から収入される保険料や支払われる保険金等のキャッシュフローを、現時点まで割り引いて、現在価値を求めることによって、適正な責任準備金評価を行うためには、50年や60年といった超長期の金利水準の設定も重要になってくる。こうした超長期の金利のような、既知のデータに基づいて、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求める手法を、一般的に「補外法(Extrapolation method)」と呼んでいる。UFRを使用する手法は、そのうちの代表的な手法の1つである。
具体的には、(スポットレートではなく)フォワードレートが終局的に(外部から定められた)一定の水準に向けて収束するとの前提にたって、超長期の金利水準を決定する手法であり、この時に設定される終局のフォワードレート水準が「UFR(終局フォワードレート:Ultimate Forward Rate)」となる。
2|UFRを使用する補外法において決定すべき要素(前回のレターからの再掲)
UFRを使用して超長期の金利を設定する場合には、以下の要素を前提として決定する必要がある。
これには直線補間の他に、金利の性質をより適切に反映する形で設定する各種の手法がある。
なお、これらの各種要素を決定する際の考え方の概要は以下の通りである。
3―UFR水準に関係する最近の動き
1|全体の状況
現在のユーロに対する4.2%というUFRの水準については、基本的には2008年の金融危機以前の金利状況等のデータに基づいて設定されている。具体的には、長期のフォワードレートを説明する経済ファクターとして、安定性や信頼性等を考慮して、(1)期待インフレーションと、(2)短期実質金利の長期平均の予測、に基づいて定められている。ユーロについては、過去のデータ等に基づいて、「長期期待インフレ率2%と短期実質金利の長期平均2.2%の合計」として4.2%としている。
これに対して、その後の欧州市場における金利低下等の状況を考慮すると、この水準はかなり高く、保険会社のソルベンシーについて過度に楽観的な見方を与える形になっているので、見直しを検討すべきではないか、との意見が出されていた。
さらには、各国あるいはグローバルベースで、UFRあるいはUFRに相当する概念を使用するケースにおいて、実際にユーロに対して4.2%を下回る水準設定を行う動きも見られた。
一方で、保険業界を中心に、現在のUFRの水準は、EIOPA(欧州保険年金監督機構)において時間をかけた広範囲にわたる議論と分析の結果として決定されたものであり、2016年1月のソルベンシーIIの導入という欧州の保険監督における最大の改革を直前に迎える段階において見直しを行うことは、制度の安定性と信頼性に影響を与えることになることから適切ではない、との意見も出されていた。
以下、この章において、現在のUFR水準に対する批判的な意見及びUFR(に相当する概念)水準の見直しの動きを紹介し、次の4において、これらに対する保険業界の意見を紹介する。
2|ESRB(欧州システミックリスク理事会:European Systemic Risk Board)の批判
ESRBは、2015年6月の欧州の金融システムにおけるリスクと脆弱性に関する議論において、「ユーロに対して4.2%に設定されているUFRの水準について、現在の低金利環境において、あまりにも高く、人工的に保険会社の負債の値を低めている。」と批判していた。さらには、「現在の市場の期待や最近の学術研究によれば、短期実質金利の長期平均2.2%は0.5%から1.0%ポイントは楽観的である。」としていた。「4.2%のUFR水準を用いることで、20年超の割引率が市場金利に比べて、大きく歪められ、このことが保険会社に間違ったインセンティブやループホールを与えることにもなりかねない。」との懸念を示していた。
UFRの水準に対するこうした批判に加えて、ESRBは、ソルベンシーIによる水準との16年間にわたる移行措置の存在やボラティリティ調整による割引率の引き上げについても触れ、市場金利との乖離に対する懸念を示していた。
こうした懸念に基づいて、ESRBは、UFR水準の引き下げ、より市場金利に近い補間法の採用、移行期間の早期化等を検討することを監督当局に促してきている。
3|DNB(オランダ中央銀行:De Nederlandsche Bank)の動き
DNBは、2015年7月14日に、年金基金の負債評価のためのUFRの算出方法を変更し、その結果として、7月15日から適用するUFR水準を4.2%から3.3%に引き下げる、と公表した。
この決定は、UFR委員会(Commissie UFR)が2013年10月に内閣に提出した勧告書2に基づいている。これに基づくUFRの水準については、前回のレターでも触れているが、概ね以下の方式で決定される。
なお、FSP後のイールドカーブを補外するために、LLFR(最終流動性フォワードレート:Last Liquid Forward Rate) を決定する必要がある。UFR委員会の勧告では、LLFRは、FSP後のフォワードレートを加重平均し、以前のLLFRを加重平均することで決定することとしていた。DNBは、今回の最終決定に当たり、この平均化を取りやめてよりシンプルにする、こととした。
いずれにしても、これはあくまでもオランダにおける年金基金の負債評価のための割引率であり、保険負債評価のためのソルベンシーIIにおけるUFRとの整合性が必ずしも問われるという位置付けのものではない。
ただし、DNBは、保険負債評価において、ソルベンシーIIによるソルベンシー水準を遵守するために、4.2%のUFRに依存している保険会社については、その配当支払を禁止している、とも言われており、現在の4.2%のUFR水準に懐疑的なスタンスを見せている、と理解されている。
2 以下の報告書でUFRについて詳しい分析が行われている。
「Advisory Report of the UFR Committee」the Ultimate Forward Rate (UFR) Committee
http://www.government.nl/documents-and-publications/publications/2013/10/06/advisory-report-of-the-ufr-committee.html
中村 亮一
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