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- 人手不足が変える日本経済~働き方の変革が必要に~
1――売り手市場の新卒採用
日本企業の伝統的な人員調整のやり方は、定年退職者に対してどれくらい新卒者を採用するかという比率を調整することだった。1990年代末頃からは日本企業も希望退職を募るなど、より機動的な雇用調整を行うようになったが、それでもいまだに定年退職と新卒採用は主要な調整方法だ。バブル崩壊後に企業が過剰雇用に苦しむようになると、大学・高校の卒業者が就職先を見つけることが難しくなった。「就職氷河期」とまで言われたのはついこの間のことだったが、昨今の新卒採用は著しい売り手市場である。
2――円安で増えない輸出
日本の企業経営は、売上高を重視するものから利益額や利益率を重視するものに変わってきたと言われている(注1)。輸出企業の戦略は、円安を利用して現地価格を引き下げ、販売数量を増やすという行動から、現地の販売価格を据え置いて為替差益を享受するというものに大きく変わっている。
こうした企業経営の変化には、海外投資家の株式保有比率の上昇など様々な要因が働いているが、日本の人口構造の変化も一つの要因だと考えられる。
3――求められる働き方の変革
これからも国内の生産年齢人口は減少し続けることを考えれば、企業の戦略も大きな転換を求められる。安くて豊富な労働力を使った薄利多売という戦略は難しくなっていくということが、先ほどの円安にも関わらず輸出が伸びなかったことの背景になっているだろう。
あらゆるところで細部にこだわるのは日本企業の特徴で、それが強みである。しかし、人手不足が深刻になれば今までと同じようなやり方では、こだわりを維持すること自体が難しくなる。どうしても譲れないこだわりを守るためには、あきらめる部分を決断することが必要になる。2020年のオリンピック・パラリンピックを控えて、「おもてなし」が日本のサービス業のキーワードの一つになっている。豊富な労働力があれば、一人一人の従業員が細やかな心配りをすることで優れたおもてなしができた。労働力不足の経済では、海外からの観光客の満足度を左右する部分に焦点を当てるなどの取捨選択を迫られることになる。もっと少ない人数でこれまで以上の成果をあげるために、個々の職場で働き方の抜本的な改革が必要になるだろう。
(注1) 森川 正之(2012)「日本企業の構造変化:経営戦略・内部組織・企業行動」RIETI Discussion Paper Series 12-J-017
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
(2015年09月30日「エコノミストの眼」)
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