コラム
2014年12月29日

絶対的貧困と相対的貧困-「子どもの貧困」 どう可視化・共有化するか

土堤内 昭雄

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貧困の概念には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」のふたつがあることはよく知られている。世界銀行によると、前者は2008年時点の購買力平価換算で一日あたりの生活費が1.25ドル未満の状態を指し、世界中で約14億人が該当するという。主として途上国にみられる貧困である。後者は、OECD等では各国の等価可処分所得の中央値の50%以下で暮らすこととされ、主に先進諸国における経済格差に基づく貧困だ。ここではふたつの貧困状態における「子どもの貧困」について考えてみよう。

絶対的な子どもの貧困では、安全な水や栄養のある食糧の確保、基礎的な教育環境の整備などが喫緊の課題だ。貧困に苦しむ世界の子どもを支援しているNGOのWorld Visionのホームページには、『ソマリアでは、5000円で5歳未満の栄養不良の子ども3人に、栄養価の高い食料を1カ月分支援できます』と、具体的な支援効果が記載されている。ある意味、その貧困の状況は、多くの人にとって直感的に理解でき、支援の手も差し伸べやすいかもしれない。

一方、相対的な子どもの貧困は、その状況があまり知られてはいない。たとえば日本の場合、国民一人当たりの平均年間所得は275万円(2012年実額)で絶対的には豊かだが、2012年の相対的貧困率は16.1%、子どもの相対的貧困率(17歳以下)は16.3%と先進諸国の中でも極めて貧困率の高い国だ**。はたして日本の子どもの6人に1人が貧困状態にあるとの国民全体の認識はあるだろうか。

先日、一人の中学生が私を訪ねてきた。学校の社会科の自由課題で「日本の子どもの貧困」について調べているという。彼になぜそのテーマを選んだのかを聞くと、『日本は子どもの貧困率が高い国だと本で読んだが、それが実感できない。その理由を考えてみたい』と話してくれた。この中学生の感想は、おそらく日本で暮らす多くの人が抱く感覚に近いだろう。そこにこの問題解決の難しさがある。

日本社会では高校生が家庭の経済的事情で学校を中退した場合、将来的に安定的職業に就くことがとても難しくなる。それが世代を超えた貧困の連鎖を招くことにもつながる。相対的貧困とは経済面にとどまらず、いじめや虐待など社会の中に潜在化している場合も多く、教育、雇用、福祉等のさまざまな社会制度に基づき発生する複合的な精神的・文化的な窮乏状態だ。問題の所在や実態、因果関係、経済支援の直接効果などの把握は難しく、豊かな国ゆえの貧困問題とも言える。その解消のためには、まずは貧困の実態を可視化・共有化し、絡み合った課題を丁寧に解きほぐしつつ、一つひとつの支援策の改善効果を具体的に示す取り組みが求められているのではないだろうか。




 
     再分配後の世帯可処分所得を世帯人数で調整した所得
**   厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」より
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(2014年12月29日「研究員の眼」)

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