2014年07月07日

米国と中国、経済的影響力が大きいのは?

経済研究部 上席研究員   三尾 幸吉郎

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1―モノの貿易では米中逆転

昨2013年、中国のモノの貿易は4.16兆ドルと米国の3.91兆ドルを抜き世界一となった(図表-1)。中国は輸入ではまだ米国の8割強に過ぎないものの、輸出では米国の約1.4倍に達し今回の米中逆転となった。モノの貿易では、高級ブランド車やレアメタルなど希少価値の高いモノでもない限り、生産環境さえ整っていれば企業はどこの国でも生産できる汎用性の高さを勘案すれば、中国の輸入が米国のそれを下回っている中では、中国の経済的影響力は米国には及ばないのかもしれない。



 

しかし、数年前と比べて中国の経済的影響力が増したのは間違いない。経済規模の大きいG20諸国を対象に各国の輸出先別シェアを見ると、米国向けのシェアは10年前(2003年)と比べて全ての国で低下した一方、中国向けのシェアはアルゼンチンを除く全ての国で上昇している。特に、中国向け輸出の多さが目立つのはオーストラリアの36.1%、南アフリカの32.0%、韓国の26.1%、ブラジルの19.0%で、いずれも米国向けを大きく上回っている(図表-2)。従って、各国で様々な事情を抱えているとはいえ、中国の経済的影響力が米国のそれを上回る国が徐々に増えつつあると思われる。




2―米国の影響力は依然大きい

1│モノ輸出の最終消費地は米国であることも多い

一方、米国と中国の経済的影響力を比較する上では輸出シェアに加えて幾つか勘案すべき点がある。
   ひとつは中国の貿易総額は水脹れしやすいという点である。世界の工場といわれる中国では、海外から部品を輸入して、それを中国で組み立てた上で、完成品を海外へ輸出するというような加工貿易が3分の1を占めているからである。日本から80ドルで部品を輸入して、20ドルを組み立て費用や利益として中国に残し、100ドルで米国へ輸出した場合を考えると、最終消費地は米国であり、米国景気が悪化して輸入が無くなれば中国が輸入することも無くなり、一連の貿易が消滅することになる。
   そこで、最終消費地となる米国の100ドルの輸入を、日本からの輸入が80ドル、中国からの輸入が20ドルと分けて、付加価値ベースで計算し直したのが付加価値貿易といわれる概念である。経済協力開発機構(OECD)と世界貿易機関(WTO)が公表した付加価値貿易の統計を見ると、韓国の輸出に占める中国向けのシェアは14.9%と通常の貿易統計で見た28.3%を13.4%ポイントも下回る(2009年)。その他のG20諸国を見ても、日本で6.3%ポイント、オーストラリアで5.2%ポイント、ブラジルで4.2%ポイント、それぞれ通常の貿易統計で見たシェアを下回っている。他方、米国向けのシェアを見ると、カナダとメキシコを除く全ての国で上昇しており(平均2.1%ポイント)、特に韓国では7.2%ポイント上昇して19.4%となっており、中国向けのシェア(14.9%)よりも高い。
   G20諸国への経済的影響力を見るため、付加価値ベースの輸出金額をGDPと対比した輸出依存度を計算したのが図表-3である。



通常の貿易統計で見た輸出依存度では、約半分の国で中国が米国を上回っていたが、付加価値ベースで見ると中国の方が高いのはオーストラリアのみとなる。そのオーストラリアでは日本向けも2.7%と中国(3.1%)と大差はない。このように最終消費地は中国でなく米国などであることも多く、モノの貿易での米中逆転もある程度は割り引いてみる必要がありそうである。


2│サービス貿易では米国の存在感が大きい

もうひとつはサービス貿易では依然として米国の存在感が大きいという点である。サービス貿易の統計(2013年)を見ると、輸入(支払)では米中間に大きな差はないものの、中国の輸出(受取)は米国の3分の1以下に留まっており、サービス貿易全体では中国は米国の半分程度に留まっている。項目別にサービス輸出(受取)の世界シェアを見ると(図表-4)、特許権使用料及び使用許諾料や金融では米国の世界シェアが極めて高いのに対し、中国は1%未満と存在感が薄い。但し、建設では中国のシェアが1割を超えるなど米国を上回る項目もでてきており、サービス貿易の増加率(過去10年)では中国が年平均18.1%増と米国の2倍以上のスピードで伸びているのも事実である。



また、米国株とその他のG20諸国株との相関関係を見ると(図表-5)、幾つかの国では明らかに連動性が落ちたものの、中国株との連動性が高まった国はまだ少なく、現時点では米国の経済的影響力は中国を上回るといえるだろう。但し、中国の経済的影響力が徐々に高まり米国が徐々に低下しつつあることも、以上で見てきた輸出依存度、サービス貿易、株価の相関など随所で確認できる。




3―世界経済への影響力が米中逆転する日はくるのか?

それでは、世界経済への影響力が米中で逆転する日はくるのだろうか。中国は、“外需依存・投資主導から消費主導への構造転換”や“第二次産業から第三次産業への産業構造の高度化”といった改革や“資本移動の自由化”などの対外開放を推進することを繰り返し強調している。“外需依存・投資主導から消費主導への構造転換”が進めば、中国は生産拠点から最終消費地に脱皮して、前述の付加価値ベースで見た対中輸出依存度が各国で高まるだろう。また、“第二次産業から第三次産業への産業構造の高度化”が進めば、モノに加えてサービスの貿易でも中国の存在感が高まるだろう。さらに、“資本移動の自由化”が進めば、株価の相関の上でも中国株との連動性が高まるだろう。
   しかし、そうなるには幾つかの高いハードルがあると思われる。個人消費の主体となるのは中国国民であり、政府にできることは最低賃金の引き上げ、国有企業への労働分配率引き上げ要請、社会保障制度の整備などを通じた環境整備など間接的手段しかなく、国家資本主義モデルの威力は小さい。第三次産業(サービス業など)は、商魂たくましい中国人の気質を踏まえれば直ぐにでも発展しそうだが、新たなサービスを生み出すには情報交流の活性化が大切で、厳しい情報統制とは相性が悪い。また、資本移動の自由化を進めるには、投機的な動きもある程度許容して上手く付き合っていく必要があるが、投機的な動きを制御しきれず混乱に陥る恐れもあり、また資本主義の象徴ともいえる投機的な動きは社会主義との折り合いも悪い。従って、“社会主義市場経済”を標榜する中国にとっては、資本主義国よりもそのハードルが高く、習近平政権がよほど強いリーダーシップで推進しなければ構造改革が停滞して、世界経済への影響力では米国を超えられない可能性があるだろう。
   米国と中国の世界経済への影響力の変化は、国際政治におけるバランス・オブ・パワーにも影響するだけに、国際会議での議論に対する理解を深める上では、米中両国と日本以外の国との経済関係もできる限り多角的に押さえておく必要がありそうだ。

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研究・専門分野
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