コラム
2013年09月24日

時代と場所で変わる社会通念 - トイレという“社会の窓”

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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もう50年以上前の子どもの頃、私の家のトイレには男性用小便器と和式大便器があった。それは当時としては一般的だったように思う。その後、水洗トイレが普及し、マンションなどの集合住宅などではスペースの制約もあり、洋式便器だけが設置されるようになった。その結果、男性が小用を足す場合も洋式便器を兼用するようになり、やがて一般家庭では男性用小便器はあまり見られなくなった。

衛生器具メーカーのアンケート調査結果では、以前は男性が自宅の洋式便器で小用を足す際に「立って使用する人」が多かったが、最近では、「座って使用する人」が全体の3割以上を占めているという。理由は「立って使用すると、尿が床や壁に飛び散ってトイレが汚れるから」とのことである。このように妻から言われて座って用を足すようになった男性も多いのではないかと思われるが、家庭のトイレ事情は家庭内の男女の力関係の変化も象徴しているかのようである。

70年代半ば以降は洋式便器が和式の出荷台数を上回り、幼い頃から和式を使った経験のない子どもが増えている。そのためか、和式便器が主流である小学校などではうまく排便できない子どももいるという。また、最近では公衆浴場など人前で裸になることに抵抗を感じる子どもも多く、将来はトイレの個室で小用を足す男性が増え、オフィスの男性用小便器も姿を消すかもしれない。

日本と海外のトイレ事情も大きく異なる。海外旅行をすると、空港などのトイレの個室の扉が下から50センチ程度あいており、違和感を覚える人も多いだろう。欧米では公衆トイレが犯罪の温床になることが多く、犯罪防止の観点からそうなっているようだ。逆に、日本のようにトイレの個室がほぼ密閉構造になっているということは、日本社会の治安のよさの証左かもしれない。

また、アメリカでは40年代に学校、デパート、工場などに女性用小便器が設置されたし、「ユニセックストイレ」という男女兼用トイレを有する近代的オフィスがある。一方、日本特有のものとしては、女子トイレの大便器に取り付けられた排泄音をマスキングするための音声装置がある。諸外国では排泄音を恥じるような意識はみられないというが、日本の女性には特有の“恥じらい”の感覚があるのだろうか。この他にも日本のトイレは温水洗浄器が普及するなど、総じて衛生的で快適だ。

このように日常生活に不可欠なトイレを見ると、日本の各地域や海外との生活文化の違い、変化する「社会通念」が垣間見える。人間社会のなかで暗黙の了解事項とも言える「社会通念」は、時代と場所で変わり、まさにトイレは変わる「社会通念」を観察できる“社会の窓”**なのである。




 
   TOTOが20~60代の男性500名に行ったインターネット調査では、自宅の洋式便器で「座って小用を足す人」は2004年23.7%、2009年33.4%となっている。
** 戦後、NHKラジオで、重要な社会事象を鋭くレポートした『社会の窓』という番組があった。番組を通して、社会の隠された部分に人間の大事なものが見えてくるとのことから、いつしか男性のズボンのファスナーを俗にそう呼ぶようになったと言われている。

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

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