コラム
2013年09月10日

介護保険制度のゆくえ - 社会保障制度改革国民会議後の展望

  米澤 慶一

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「社会保障・税一体改革大綱」(2012年2月閣議決定)に基づき制定された「社会保障制度改革推進法」により、昨年11月に内閣に設置された社会保障制度改革国民会議が、本年8月6日、最終報告書を提出した。

過去約1年、20回に亘り開催された社会保障制度改革国民会議と併行して、様々な場で議論や意見陳述が行なわれてきたが、中でも介護分野における主たる論点は、(1)「要支援」の介護認定等級者を現行の介護保険サービスの対象から外す、公的介護・支援サービス給付範囲の見直しと、(2) 現在一律に一割と定められている高齢者介護・支援費用の自己負担比率を、サービスを受ける各人の所得金額に応じて変化させる応能負担原則の導入という、2つの政策案の是否についてであると考えられる。

本年5月、厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会の第44回介護保険部会では、上記 (1) の「公的介護・支援サービスの給付範囲の見直し」について活発な意見が交換され、要介護者に較べ起居動作がより円滑である要支援者の利用サービスは生活補助(買物、清掃等の手伝い)が多く、かえって当人の自立支援を阻害している面があるとの見方から、介護保険の給付対象から外すべきとの意見が提示される一方で、介護保険給付の枠組から外された要支援者に対する代替サービスとして、市町村や民間(NPO、ボランティア等)が行なう事業が受け皿となり得るかどうかについて疑問視する向きもあった。また、(2) の「応能負担原則の導入」については、負担能力の高い企業等への「負担の付け替え」とする反対意見が出されると同時に、多くの健保組合が財政難に苦しむ現状から、現行一割に据え置かれている自己負担率そのものの引き上げを求める意見も寄せられた。

また、介護現場の第一線に立つケアマネージャー・介護事業者に特化した専門情報サイトである「ケアマネジメント・オンライン」が登録会員に対して実施したアンケート調査(本年8月)によると、「要支援高齢者を介護保険から外す案にあなたは?」という質問については反対が65%(賛成16%、どちらでもない20%)であったのに対し、「“自己負担は一律一割でなくてもやむをえない”に対してあなたは賛成?」という質問については60%が賛成(反対32%、どちらでもない8%)という結果となっている。

以上の様な議論や意見も踏まえて作成された社会保障制度改革国民会議の最終報告書では、大方の予想通り、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築に向けた「地域支援事業」の見直しとして、要支援認定者へのサービス給付を市町村事業に移行することと、一定以上の所得のある利用者の利用料を引き上げるべきとの内容が盛り込まれた。

今後、詳細の検討は社会保障審議会の介護保険部会に引き継がれる事となるが、上記の提言を実現するためには、どのように詳細設計を進めて行かなければならないのだろうか。まず、要支援認定者へのサービス給付の市町村事業への移行については、各地域に十分な事業主体や介護人員は存在するのか、新たな事業主体が利用者の個別事情に至るまで現行の事業情報をすべて把握できるのか、また引継ぎはうまく行くのか、利用サービスの質・量・対価は地域による違いを認めるのか等々についての検討が必要であろう。次に、一定以上の所得のある利用者の利用料引き上げについては、地域による違いも含め利用者の具体的な負担割合をいかなる水準に設定するのかといった検討が必要である。そして、これらの具体的な検討と併せて、新制度の効果的・効率的運用を可能とする体制造りを速やかに推し進めて行く事が求められている。

これ以外にも、国民会議開催以前より指摘されていた現場の介護職員の離職(離職率17%)を食い止め、人員の不足(全事業所の57.4%に不足感)を補うための介護報酬引き上げや、リハビリ等を通じて利用者の要介護度を下げることによって事業者や介護職員に対する報酬が増えるシステム(現行はその逆)の確立等についても、未だ克服すべき課題として残っている。今後とも介護事業の現場の声にも耳を傾けつつ、介護・医療制度改革を実りあるものとして実現するための議論・検討が継続されることを是非とも期待したい。



 
 1 ホームページURL: http://www.caremanagement.jp/
  (個々のアンケートを通読するには会員登録が必要。「要支援高齢者を介護保険から外す案にあなたは?」:
  http://www.caremanagement.jp/index.php?action_news_detail=true&storyid=11255
  「“自己負担は一律一割でなくてもやむをない”にあなたは賛成?」:
  http://www.caremanagement.jp/index.php?action_news_detail=true&storyid=11258
 2 高所得者の利用料負担の増加については、国民会議最終報告書発表後初の開催となる社保審介護保険部会(8月28日)において早速検討され、夫婦年収360万円程度を目安に調整が図られている(毎日新聞、2013年8月28日付)。
 3 公益財団法人 介護労働安定センター(厚労省所管)発表(2013年8月16日)による。
 4 (同上)

米澤 慶一

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