コラム
2013年09月06日

注目される日本版IFRSの検討

  荻原 邦男

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先日、人間ドックを受診した。今年は、メタボリック判定が非該当に転じたとこともあり、判定結果を説明下さった担当医のお話を、気分良く伺っていたのであるが、その中で興味を覚えた話があった。
   今年受診された方はよくご存じだろうが、血液の健康度を示す数値の測定基準が、国内基準から国際基準に変更となったというのである。糖尿病の診断やメタボリック判定に使用されるHbA1c(ヘモグロビンA1c)と呼ばれる数値の測定には、従来、国内基準(JDS値)が使われてきたが、メタボ検診では2013年4月から国際基準(NGSP値)に変更されており、数値をみる際には注意が必要であるとのことであった(簡便法として従前数値に+ 0.4すると良い)。私も会計や健全性規制などの面で国際基準を巡る議論に接する機会が多いところから、「色々なところで、国際基準化が進んでいるんですなあ」などと雑談が弾んだものである。
   この間の事情をネットで調べて見ると、従来、米国はじめ多くの国はNGSP法と呼ばれる方式を用いており、日本とスウェーデンはそれぞれ独自の測定法を用いてきたようである。2007年に統一に向けた議論が国際臨床化学連合(IFCC)などで始まり、当初は定義を統一するとともに、科学的により正確な測定法として新たにIFCC値を策定し、これに移行することが日本や欧州では話がまとまりつつあった。その後、米国はIFCC値への移行に必ずしも同意せず、従来どおりNGSP値を用いる方針を貫いたことが大きかったようだ。IFCC数値の理論的な合理性妥当性を我々は知る由もないが、結果として、米国を中心とする現状維持派の主張が通ったように見受けられる。
   上記エピソードから、私は国際会計基準(IFRS)に対して一線を画そうとする米国のスタンスを想起し、ある種の”既視感”を覚えたわけであるが、会計基準について言えば、米国会計基準(USGAAP)が上記のような道を辿ることはあり得ないだろう。米国基準は今後も存続するだろうが、IFRSを尊重する流れは既に確定的だからである。

長過ぎる前置きとなったが、注目すべきはわが国の国際会計基準を巡る動向である。わが国の企業会計基準審議会は先頃、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」を公表した。大胆に要約すればポイントは二つあり、一つは、強制適用の是非等を判断する状況になく、当面「任意適用の促進のための環境整備」を図ることが重要とされた点、もう一つは「J-IFRS(日本版IFRS)の策定」である。

前者は、任意適用(現在約20社)にあたって、上場会社であることや、外国に二十億円以上の資本金の連結子会社を保有していることなどの条件を課していたが、この2条件を廃止し、任意適用をさらに進め易くするものである(10月以降実施予定)。これに関する異論はほとんど聞かれない。

後者のJ-IFRS(日本版IFRS)の策定については、色々と議論がある。そもそも、国際会計基準の採用といっても、(1)これをそのまま受け入れるパターン(オーストラリア、韓国など)、(2)エンドースメント(基準の承認)プロセスを経て、場合によっては一定の事項について、適用除外、内容修正を施す、というパターンがある。今回のJ-IFRSの検討は、任意適用を認めつつ、後者の方針を明示的に実行して行こうとするもので、約一年の検討期間を予定している。
   これを巡って以下の論点が指摘されている。まず、(a)日本基準との差異を反映して、多数の修正を施せば施すほど、純粋IFRSから乖離し、IFRSとして認知される可能性が低下するというものである。また、(b)日本基準の考え方をIFRSに反映するのが最終的な目的であるなら、直接、IFRSに関する修正提案に傾倒すべきである、との指摘がある。さらに、(c)修正箇所が少なければ、IFRSをほぼ認めたことになり、ひいては日本基準の重要性が低下することにつながらないか、(d)J-IFRSは強制適用に道を開くもので好ましくない、といった指摘もされている。
   任意適用を準備してきた企業のなかには、「純粋なIFRSには賛成しかねるところもあるなかで、これも含めて受け入れるスタンスで努力してきた。今ここに来て策定するJ-IFRSは、内容的に賛成できるとしても国際基準として認められない可能性があり、どのように受け止めたら良いのか」と戸惑いの声も聞かれる。

IFRSには概念フレームワークの整備を始め、検討課題が多く残されている。わが国は当該分野でも従来相当な貢献をしてきたわけであるが、IFRSの策定、充実に今後とも積極的に貢献していくことの重要性は論を俟たない。J-IFRSの位置づけをどのように対外的に説明していくかを含め、今後とも議論が必要であろうが、両者の差異を精査・評価していくプロセス自体欠かすことができない。引き続き、その動向に注目していきたい。


 
 JDSは"Japan Diabetes Society"(日本糖尿病学会)の略称、NGSPは"National Glycohemoglobin Standardization Program”の略称である。
 柏木厚典氏の論考 http://therres.jp/pdf/dr_kashiwagi_opinion.pdf を参照させていただいた。

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